第22話 モブ王子入学する②

いよいよ入学式が始まった。


「静粛に!これより王立学園入学式をおこなう!」


学園の先生の誰かが声を発するとすぐに大勢の生徒が静かになり場は静まる。


「それではまずサトゥーラ国国王アレクサンドル王より祝辞をいただく!」


壇上には父である国王がマイクに似た拡声器の前に立ち祝辞を述べる。


「諸君!本日は学園への入学本当におめでとう!これから君たちは4年間この学園で様々に知識を学ぶ事になるだろう。そして皆一人一人が立派に成長し、この国を支えていってほしい。それが建国の父、初代国王であるアルテマ王の願いであり、この学園を創ったときの理念である!どうか学園での生活を後悔のないものにしてほしい。以上である!」


アレクサンドル王は威厳を示しつつ壇上を去った。


「続いて学園長の祝辞である!」


アレクが「ああ、なんか懐かしいなこれ」と過去世の入学式を思い出して思い耽っているうちに、次に学園長メサーラの挨拶が始まる。


「皆さん!学園入学おめでとう!私はこの学園の長であるメサーラです。私はこれから君たちを4年間指導することになります。この学園では魔法や剣術、そして様々な学問を学ぶことが出来ます。そしてここには貴方達の先人たちが培ってきた叡智があり、どうかその先人達の築いた叡智を真剣に学んでいってほしいのです。そして先人たちを超えてこの国の繁栄に貢献していってもらいたい!皆が自分達に合った特技を活かし、そして国の発展のために尽力を尽くしてほしい。そのために我々教師陣も全力でサポートします。さあ!みんな!頑張りましょう!」


学園長は最後には場を盛り上げながら、しかもウィンクまでして壇上を降りて行った。


生徒たちは学園長の掛け声と色気に感化されたのか皆やる気に満ちていた。


そうでもないアレクは早く終わらないかなと思いながら一人だけダラダラしていた。


そしてその隙を狙ったかのように、


「それでは新入生代表!アレク王子の挨拶です!」


突然、アレクに白羽の矢が当たる。


「は、い、……?うぇえ!?」


いきなり名前を呼ばれたアレクは当然ながら驚いた。

実はその場にいた王や学園長でさえも驚いている。

そして本来挨拶するであろう在校生の代表も驚きながらオロオロしていた。


(お、俺?)


突然のハプニングに会場の皆の視線がこちらに集中する。


「ア、アレク王子!ここにいませんか!?」

司会の教師が慌ててアレクを探し出す。


「あ!はい!」


仕方なくアレクはそう言って慌てて壇上に上がる。目の前には大勢の生徒がアレクを見ている。


(落ち着け、アイリーンと話しているよりも簡単なことだ!)


それでも急に挨拶をふられたにも関わらずアレクは落ち着いた雰囲気で話し始めた。


「暖かな春の訪れとともに、私たちは学園の入学式を迎えることとなりました。本日はこのような立派な入学式を行っていただき大変感謝しています。

学園は4年間ということできっとあっという間に過ぎていくことと思います。1日1日悔いのないよう大切に過ごしていきたいです。勉学に励みこの国を支えられるよう頑張りたいと思っています。

そして生涯付き合っていけるような友を作ることができたらなと思っています。

先生方、それから来賓の方々これから厳しいご指導のほどよろしくお願いします。時には間違った道へ進もうとしてしまうこともあるでしょう。その時は優しく力を貸していただけると嬉しいです」


ぺこり。


アレクはお辞儀をして元の列に戻った。


(あっぶねー!前世で一回だけ入学式の挨拶しといて助かったわー!良かったわー!まさかいきなり挨拶しろって言われるとは思わんかったわー)


内心焦りながらもちゃんと挨拶できたアレクは過去に、というか幼少から色んな修羅場をくぐってきただけのことはあった。やはり過酷な鍛錬によって度胸がついたのだろう。今までの経験は決して無駄ではなかった。


多くの拍手が鳴り響く中で、一部面白くなさそうな顔をした面々がいた。


それはアイリーンの兄であるアランや他の第二王子派である貴族の子弟たちだ。奴らはアレクの学園生活にまったく何もしないわけがなく、アレクの入学に合わせて様々な嫌がらせを考えて準備をしているようだ。


今回の挨拶もいきなりアレクにやらせて上手に出来なかったところで恥をかかそうと計画していたのだが奴らは嫌がらせが上手くいかずに無駄に終わったことで腹を立てているようだった。


むしろこれからが始まりである。


こうして何事もなく、無事入学式が終わった。


アレクが焦りながらもしっかり挨拶ができたところを見て父である王も安心したようだ。入学式が終わると早々と王城へ帰っていってしまった。


そしてアレクたち新入生は入学式が終わると各自教室に案内された。


アレクはすかさずアイリーンの隣に座る。そして反対側の隣にメリアが座っていた。


アイリーンは「アレク様!先程のご挨拶、とても素晴らしかったですわ!」と素晴らしい笑顔で褒めてくれた。アレクもまんざらではないとちょっとウザい感じの顔で喜んでいた。そんな子供を扱う様にアイリーンはアレクを誉め倒す。


しばらくすると入学式の前に案内してくれたあの小ちゃい先生がまた教室にやってきて自己紹介をはじめた。


「わ、私の名前はフランです。これから一年間皆さんを教える事になります。私の専攻は魔法科です。みなさんどうぞよろしくお願いします!」


少し緊張しながらフラン先生は挨拶した。


「それではこれから学園での規則や授業のとり方を説明していきますね」


そう言ってフラン先生は学園のカリキュラムを説明してくれた。アレク達が受ける授業と各校舎の説明、身分によって受けられる授業、立ち入り禁止区域の説明、などなど。

そして学園でのスケジュールを教えてくれた。


7時 起床

8時 朝食

9時 授業開始

12時 昼食、休憩

13時 授業

16時 帰寮

18時 夕食とお風呂

22時 就寝(強制ではない)


それ以外は自由時間だ。


7歳から約5年間早朝からの鍛錬と過密スケジュールを経験したアレクにとってはここは天国のような環境であった。


(本当にこれでいいのか?毎朝5時から起きなくてもいいんだよな?あの過密スケジュールは学園に通っていてもやらなくちゃいけないかと思ったよ。いやー、本当に良かったわー!)


「アレク様はどの授業を受けられますの?」


アイリーンが聞いてきた。


「一応ひととおり授業を受けてみて、気に入ったら続けて通おうかなと考えてるよ」


「まあ!それは素晴らしいですわ!私もアレク様と一緒に授業を受けますわ!」


(この娘天使か!)


「でもアイリーンは剣術は受けないんじゃないの?」


「いいえ、領地にいた頃はお祖父様から多少の手ほどきは受けておりましたの」


「へえーすごいな!でもその割には手が綺麗だね」


アイリーンには剣だこがない。幼少から剣を握っていたアレクはアイリーンにそう言って自分の両手の剣だこを見せる。


「それは淑女として多少の護身術は身につけておきませんと暴漢などに襲われては困りますのでお祖父様が直接教えてくださったのです。もちろん鍛錬が終わった後はポーションで手を洗い、保湿クリームで手荒れを防いでましたわ」


「へぇーーー」


(知らんかったわー)


ボルトの奴、あれだけシゴキまくったあげく王子である俺の体を傷物にしやがって!


などと納得いかないアレクであった。


「まあ、アイリーンが一緒に受けられるのなら僕も嬉しいよ」


「うふふ♪楽しみですわね♪」


隣のメリアは何も語らずにただ隣にいるだけだった。一応、側使いとしてアイリーンと共に学園で学ぶことになったのだが、本当の目的はアイリーンのお目付け役である。一応アイリーンの行動はメリアを通して当主のガスタル辺境伯に報告することになっていた。


一部の生徒たちはアイリーンの発言を聞きながら自分も一緒に受けようかなと密かに考えているのであった。


こうしてオリエンテーションも終わり、無事入学初日を終える。


明日から学園での授業が始まる。

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