第13話 婚姻の背景

アレクの許嫁が決まった。


アレクは日々の修行の中で何やらぶつぶつ言いながら時折気持ちの悪い笑みをしていたため師匠のボルトからよく拳骨を食らっていた。


一方、王の執務室では父王であるアレクサンドルはため息をついていた。


今回の婚約は政治が絡んでいたため、父として素直には喜べなかったのだ。


その原因はアレクが3歳の頃、


アレクの誕生日に催されるお披露目のパーティーの時だった。


本来ならもっと早く催されるはずなのだが、お披露目の延期については不思議に思いながらもそれでも初めての王子のお披露目とのことで臣下の者たちは素直に喜んだ。


しかし、アレクの顔を見て多くの貴族たちは驚いた。


あまりにも似ていないからである。


もちろん真っ先に王妃の不貞を疑われた。


貴族たちは変な勘ぐりと憶測を隠そうともせず態度にあらわしていた。


嫌でも聞こえるようなヒソヒソ話をする貴族たちに対し、アレクサンドルは王として毅然とした態度でもって妻の不貞を否定した。


そして血族の証明もなされていることをその場で発表したのである。


しかし、それでも疑っている者もいた。


そうした者たちは足繁く王のもとに通い、次なる縁談話を進めてくるのであった。


王妃は王妃で、やはり自分は王妃にふさわしくないと言い出す始末。仕方ないので、アレクサンドルは宥めるように王妃に熱い口づけをして抱擁する。


そして涙ぐむ王妃の姿に絆されてしまい、王妃を抱えてそのまま寝所へ……。


そうした日々を繰り返すうちにいつの間にか第二子と第三子が生まれた。


王が他の側妃を拒否したため、多くの貴族たちは面白くないと今度は第二王子との婚姻の座を狙い始めた。


もはや第一王子であるアレクはいつか廃嫡されると見捨てられていたのである。


子供たちの成長とともに第二王子であるイスタルは両親に似て容姿端麗のため、益々人気となった。


アレクは出生が疑われ、婚姻の話を持ってくる貴族がまったくいなかったため、王は慌てて第二王子とのバランスを取るようにアレクとの婚姻話を進めていったのである。


しかし、アレクの婚姻話を受け入れてくれる貴族は無かった。娘たちがアレクの姿絵を見たときにすぐにアレクの容姿を嫌がったそうだ。


王族たるもの美しくあれ。


貴族たちからは王族に対して予想以上に容姿の美醜へのこだわりを持っていたようだ。

さすがに王も困ってしまった。


もちろんアレクは日々鍛錬に明け暮れておりそのような話を知らない。王は周囲の者たちにも緘口令をしいてアレクには絶対に知らせないようにした。


もちろん一番心配したのは王妃だ。


アレクサンドル王はまたもや、王妃を繰り返し宥めた。しばらくしたら第四子が誕生するかもしれない。


しばらくして、何故か辺境伯から便が届いた。内容は辺境伯の孫娘との婚姻の申し込みである。


王族との遠戚ではあるが、まさか辺境伯からの申し出に王は驚いた。


よくよく文を読んでみるとどうやらボルトとガルシアからの推薦があったらしく、ボルトが傭兵の時、辺境伯の下でいくつかの戦に関わっており、ボルトとは長い付き合いなのだそうだ。


ガルシアとは昔からの知り合いらしく、アレクの魔法の技量を誉めていたらしい。


辺境伯はたまたま2人からアレクの話を聞いたために、この縁談に前向きなり、アレクにも興味を持ってくれたらしい。


また、なぜか孫娘もアレクに興味を持っており姿絵を見てもその気持ちは変わらないそうだ。


これには王も王妃も驚いた。すぐに返事を書き、次には辺境伯の側近が挨拶に訪れた。

これで両家とも前向きに話を進めることとなった。



⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎



辺境伯であるガスタル・サラトムの孫娘アイリーンは自室にて独り考えていた。


「ようやく王子であられるアレク様との婚約の話がまとまりましたわ」


お祖父様が気に入られた方とも聞きましたし、若くして魔法と剣術に秀でていらっしゃるとのこと。


しかも私の側使いであるメリアが昨年、王都近くにある森を馬車で通っていた時に魔獣に襲われたところをたまたま鍛錬の最中であったアレク様に助けられたと聞きましたし、お礼を伝えると謙虚に気にするなと言われ、道中の魔獣を全て退治してくださったとのこと。


私はその話を聞いてそのような謙虚で強き方に思わず惹かれてしまいました。


でもお父様はあまり婚約の話に乗り気ではなくて、アレク様の姿絵を持って、容姿は大したことがない。やめておけと言われましたが、私は大事なのは中身であり、確かな実力と王族らしからぬ謙虚な姿勢が良いので受けたいと思いますとお答えしました。


お祖父様も同意してくださり、ようやくこの婚約が決まりました。


「アレク様、もうすぐお会いできます」


アイリーンは窓から見える星を見ながら、未だ会ったこともない未来の夫に想いを馳せていた。

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