第14話 お茶会

アレクの婚約発表のためのお茶会が開かれることになった。


通常であれば夜に舞踏会などのパーティーが開かれて婚約発表がなされることが多いのだが、当の主役である子供たちが(とくにマリアが出たがっていたため)まだまだ幼いことを考慮してか、お茶会として午後13時からのお披露目開催となった。


アレクが婚約できたことに今まで縁談を断ってきた貴族たちは驚き、お茶会に招待されなかった貴族たちは王が第一王子を王太子としてちゃんと考えていたことをようやく理解した。


そして今までの対応がまずかったことを悔やんだものの、今更どうにかなるまいとやはり第二王子を王太子にという声をあげ出す貴族も数多くいた。


そしてお茶会に呼ばれなかった貴族たちはこぞって第二王子擁立派として結託することになる。


一方、当事者であるアレクはお茶会の前から浮き足立っていた。


実はお茶会の一週間前、偶然にも婚約者であるアイリーンの姿絵を見てしまったのだ。


王としてはこうなるだろうと予想して、なるべく当日までは秘密にしておくつもりだったのが、愛娘のマリアが勝手に婚約者であるアイリーンの姿絵をアレクに見せてしまい、しまいにはボルトまでもがアイリーンの容姿についてアレクに話してしまったのである。


いわく美少女であると、


そしてアイリーンの姿絵を見てしまったアレクは王の予想通り、毎日浮ついてばかり、鍛錬にも集中できず、ボルトにしごかれていた。


また魔法の訓練の時には思わず巨大な火の玉を出して屋敷の隣りにあった倉庫を丸焼けにしてしまった。


流石に王も怒り、アレクに説教したのだが、しばらくすると元に戻ってしまう。


仕方なく婚約を破棄させようかと王が言うとアレクは顔を真っ青にして土下座し、「もう二度としません!心から神に誓います!!」などと言ってきた。


よほどアイリーンに惚れたのだろう。


王も若い頃の王妃との出逢いを思い出しニヤけながら思い出話を語り出す始末。


側近などはそんな王と王子の様子を見て頭を抱えていた。


そんなこんなで、お茶会の当日。


アレクは普段よりもお洒落な衣装を着ており、なんとなく様にはなってはいるものの完全に衣装に負けていた。さらにはもう緊張のあまりガチガチになり、貴族たちが挨拶にきても上の空であった。


アレクは完全に場に呑み込まれていた。


アレクは当日までアイリーンに会えず、毎日ベットに入った時にはアイリーンの姿絵を抱えて寝ていたほどだ。


メイドのサーシャもアレクの奇行には流石に引いてしまい「アレク様、このようなことはおやめください」と言ったぐらいだ。


仕方なくアレクも姿絵を机の上に置くことで納得し、ほぼ毎日、寝る前に机に置いたアイリーンの姿絵を気持ち悪いほどの笑顔で見ているのであった。


そして時折、アレクの寝室では蝋燭に映るアレクの顔がなにやら不気味で物怪か悪魔に取り憑かれたのではないかと侍従たちから噂されるほどであった。


そうしてやってきたお茶会の当日。


ようやくアイリーンの登場である。


アレクのもとに近づいてカーテシーをする少女。


「アレク様、私はガスタル・サラトム辺境伯の孫娘アイリーンでございます」


見事なほど綺麗な所作、美少女アイリーンは所作も含めて本当に美少女だった。


異世界ならではの水色がかったカラフルな髪はツインテールに結ばれており、小柄でありながらもスラリとした体躯。


ぱっちりとした可愛らしい目はアレクをしっかりと見つめている。


まつ毛も長い。目の色はアクアブルーだった。


愛くるしい唇は喜びを表しているのか口角は上がり微笑みを浮かべている。


衣装は桜色に近い可愛らしいふわりとしたフリルのついたもの、しかも清楚な感じで、まだまだ幼いものの将来を期待できるほど整えられた容姿であった。


アイリーンはアレクが過去世の中で見てきたどのアイドルも霞むほどの美少女っぷりであった。


そして姿絵よりも実物はもっと美しかった。


「ア、アレクです」


もはやブリキ人形のようになりつつあるアレクはぎごちない動作で握手をするよう右手を差し出してアイリーンに返事をする。


「わたくし、アレク様にお会いできる日を心待ちにしておりましたの」


「ふふっ」と和かに微笑んだアイリーンの笑顔はかなりの破壊力があった。


しかもアイリーンの柔らかな両手はアレクの右手をやんわりと包むように掴んでいる。


もはやアレクは木人形となり、言葉すら出ない状態になってしまった。


(我、一片の悔いなし!)


アレクは満足(満悦)した表情で天に召されたかのように意識を失った。


アイリーンたちは驚いて、すぐに近くの従者に助けを呼ぶのであった。


アレクはすぐに館の寝室に運ばれた。


周囲の貴族たちは驚いてどうしたものかとたじろいたが、王がなんとか場を和ませて、お茶会はかろうじて中止にはならなかった。


アイリーンは付き添いたいと申し出てくれたものの、それはいけないと王妃と妹のマリアがアレクの容態を見に行くことになり、アイリーンは辺境伯と共にお茶会に残ることになった。


王としても辺境伯の家族との絆を深めることをしっかりとアピールしたかった。


そしてアイリーンとの婚約を公にしたことで王太子はアレクであると公表したかった王の思惑は成功し、勝ち馬に乗りたい貴族たちもそのメッセージをしっかりと受け止めるのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る