第11話 モブ王子剣の修行に明け暮れる

朝の5時。


メイドのサーシャが毎朝起こしに来てくれるのだが、いつも起床6時だったのが、剣術の稽古が加わったため、起床時間が、6時から5時になってしまった。多少抗ってみたが、ボルトのせいでゴリ押しでスケジュールに加えられてしまったのだ。


眠い……。


眠そうに瞼をこすりながら欠伸をしてアレクは着替える。サーシャはもっと早く起きているのだ。自分のために起床時間がさらに早くなったことにアレクは少し申し訳なく感じた。


それもこれも父上とボルトのせいだ。


朝から少し不機嫌になりつつも、木剣を携えて稽古場に向かった。


「よく来ましたなアレク王子」


「よろしく頼む」


むすっと不機嫌な顔を隠さずにボルトに礼をした。


「まあ、アレク王子、いや坊ちゃんには厳しいが、これも将来に対する投資だと思ってくれ。強くなれば王としての威光も増すもんだ!頑張ってもらうしかねえ」


朝からテンションの高いボルトは高笑いしながら語り出した。


(坊ちゃん扱いかよ!)


「さて、まずは走るか」


いきなり、走り出しからの指示を受けたアレクは「わしについて来な」と走り出したボルトの後を必死でついていった。


数刻後……。


ぜぇっ、ぜぇっ、はあ!はぁ!


膝がガクガクする。


生まれたての子鹿のように両足をガクガク振るわせながら滝のような汗を額から流れているアレクはもはや倒れる寸前だ。


「まあ、準備運動はこれまで」


ボルトは木剣を手に持ち、上段から振り下ろす。


「それでは素振りをやりましょうや」


アレクは息を整えて、木剣を両手に持ち構える。


せいっ!


木剣を上段から振り下ろす。


「違う!」


ごつん!


ボルトはアレクの頭に木剣を下ろす。


痛ってぇぇぇぁ!


頭にたんこぶができ両手で頭を押さえてアレクはしゃがみ込んだ。


「坊ちゃん!振りが甘い!もっと真剣にやれ!」


「いや!すぐに叩くんじゃねぇよ!」


「そんだけ元気があるならちゃんとやるんだ!坊ちゃんなら出来る!」


いや、そんな根性論……。昔のスポ根じゃないんだから、ていうか、すぐに体罰って良いのか?俺王子なんだけど。このおっさん本当にスパルタなんだけど。


「さあっ!もう一度!」


しぶしぶ、アレクは素振りを再開した。


いつもより力を入れながら、


「違うっ!わしの素振りをちゃんと見るんだ!」


ぶんっっ!!


いや、すぐにあんたと同じ素振りできませんて。


アレクは涙目になりながらひたすら素振りを繰り返した。


剣術の鍛錬は初日からハードな内容だった。


一応たんこぶは鍛錬の後ポーションで治してもらった。また筋肉痛もポーションで治るため鍛錬後は何もなかったかのように屋敷に戻った。


くそう!ボルトの奴!ゴリゴリやりやがって!


アレクは初日からの理不尽な鍛錬メニューに腹を立てていた。


それからは過酷な鍛錬の日々である。


アレクは流石に父王に直訴した。しかし、父からはボルトに一任しているため、多少の苦情を申し立てても「頑張りなさい」と言われるだけだった。


「悔しかったら強くなれ!」


父からは厳しい言葉をもらうだけで、改善されないと悟ったアレクは泣きながら必死に鍛錬についていった。


半年後、


朝の鍛錬に木剣での打ち合いが加わった。


走り込みは10キロ以上走った。


もはや走り込みで息切れなどなくなったアレクは少しずつ強くなっていった。


しかし、それに合わせて鍛錬メニューも少しずつ厳しくなっていくのでアレクからすれば常に己の未熟を感じながらも必死で食らいついていった。


1年後、


アレクの目の前には小さな魔物と呼ばれる生き物がいる。


一角獣のウサギみたいな生き物だ。


「よし!坊ちゃん、この一角ウサギを倒すんだ!」


今度は木剣ではなく、ショートソードを持って一角ウサギと対峙した。


一角ウサギは興奮してダンピングをしながらこちらを威嚇している。

姿は可愛らしいが、ウサギよりも一回り大きく結構こちらを睨みながらジリジリと構えている。


その一瞬、


いきなり一角ウサギは突進して目の前に角を突きつけてきた。


「うおっ!?」


咄嗟に横飛びで避けたものの肩の服が裂けて掠った所から血が流れる。


慌てて体勢を整えて剣を構える。


一角ウサギはすぐに向きを変えてこちらに突進してきた。後ろ足を力強く踏み込んで再び飛び込んできた。


アレクはまた横飛びで避けた。今度は怪我はなかったが、避けるだけでまったく攻撃できていなかった。


「坊ちゃん!一角ウサギの動きをよく観察するんだ!!隙を見てすぐに攻撃!」


いや、そんなに簡単にいくかよ!


アレクは焦りながらも一角ウサギの動きを観察する。


緊張しながら必死に剣を握りしめてアレクは一角ウサギの隙を伺う。


何度か一角ウサギの攻撃を避けながら、アレクは一角ウサギの攻撃した後の隙を見出した。


よしっ!


次の一角ウサギの攻撃の後、今度は避ける動きを最小にしながら次の攻撃に移れるよう体勢を整えながら一角ウサギの攻撃を避けた。


そして、


一角ウサギが着地してこちらに振り返るところに今度はこちらから飛び込んで上段から剣を振り下ろした。


ざんっっ!!


アレクは興奮しながら横に倒れた一角ウサギの死体を見る。


はあっ、はぁっ……ふう。


震える両手を左右に振って息を整える。


「よしっ!!坊ちゃん良くやった!」


一応一撃で倒せた。


少しでも手負いにすると益々凶暴になり、攻撃も苛烈になる獣も多いので、ちまちま剣で切らなくて一撃で殺したのが良かったらしい。


「坊ちゃん、良くやった!とにかく今回わかったかもしれんが、人間と獣は動きが違うんじゃ!戦い方は魔獣の動きをよく観察してどう戦うかをしっかり覚えることだ!人間との戦いも大事だが、魔獣との戦いは討伐の時に必要になる。これから坊ちゃんにはどんどん魔獣と戦ってもらう。少しずつレベルを上げてより強い魔獣と戦ってもらうからしっかり予習してコツを掴んでくれ!」


いや!今回予習なかったよね!?

いきなりぶっつけ本番だったんだけど。


いつもの通りポーションを飲んで全快する。


今回ボルトに褒められたにもかかわらず釈然としないアレクだった。


いつまでこんな生活が続くんだ……。


アレクはただ必死で毎日を過ごす。


そして半年後には魔獣の森で戦うアレクの姿があった。

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