第10話 アマリアの観察日誌①

月の裏側には様々な宇宙人たちの拠点がある宇宙基地が存在する。


アルタイルから来た地球探索チームのアマリアは仕事終わりで基地に帰っていた。


「ふっふっふーん♪」


さっと宇宙服を着替えて自室に戻ると地球から持ってきたポテトチップスとコーラを上機嫌で食べはじめた。


ぱりぽり、


ごくっっ、ごくっっ……、


ぷはぁぁぁあ!!


「やっぱり地球の食べ物は美味い!」


ここ数年は基地にある簡易な食事、栄養ドリンクとサプリメントばかり、そもそも食事に疎いアルタイル星人にとって地球の食べ物に興味を持つ者はアマリア以外にいなかった。

だからこそ地球の食べ物を入手する許可を得るまでには時間がかかってしまった。


アマリアが地球の食べ物に目覚めたのは偶然だった。


話は少し遡る。


それはアレク(佐藤明)を救出し、転生させた後、アレクの家族が持ってきていた所持品の中に本来アレクが食べるはずのポテトチップスとコーラがあり、両親たちは失った子のために泣きながら弔いの品として置いていったものだった。


アマリアはそれらの食べ物に対して好奇心を持ってしまい、ついつい、弔いの品であるポテトチップスとコーラを拝借してしまう。しかし、どういったものかがわからなかったため、地球人の生活を観察し、ようやくこれが食べ物であるとわかったのである。


しかし、アマリア自身、地球の食べ物が自分自身の体に合うかわからなかっため、アルタイルから連れてきた小動物をつかって臨床実験を行い、また、ポテトチップスとコーラの成分を調べて生体反応への副作用がないかをとことん調べ尽くした。


結果は先程の通りである。


毒物反応なし、嗜好品というものを初めて経口摂取したアマリアはその味覚というものに新しい感動を覚えた。


「こ、これが、地球の味!」


宇宙船の背後の窓から見える地球という星は太陽に照らされて蒼く光ながら美しい姿を映していた。


感動のあまり、涙を流しながらポテトチップスを貪り食べるアマリア。


コーラをまるでビールのように飲むアマリア。


「こんなに美味しいものを地球人たちは食べているのか」


もっと食べたい……。


しかし、アマリアには地球の貨幣を持っていない。しかも地球人に紛れて生活する容姿ではないために、あくまでも調査しているだけなのだ。


今回の件も上司にバレたらヤバい問題だ。


密かに死んだ地球人を復活させ、昔の惑星に転送したとバレたら強制送還の後、確実にクビになるだろう。


「うぅ、我慢」


「でも、また今度地球に行った時に持って帰ろうかな」


懲りない性分であった。


彼女は地球の味覚に対してやや中毒になりつつある。


アマリアの行為はあきらかに越権行為であった。しかし、アルタイル星人のもつ旺盛な好奇心には抗えず、ついつい、問題を大きくしてしまっているようだ。


「そういえばあの地球人はどうなってるかな?」


アマリアはアレクの生体反応を調べて、アレクの近くにつけておいた不可視の監視カメラをモニターに映した。


「あれ?前(前世)の顔のままじゃん!なんで?」


アマリアはアレクの顔立ちを見て驚いた。


「ああ!霊体が前世のままだったから子宮に転送したときにうまく変換されなかったのね」


「いまさらどうしようもないし……ま、いっか」


なにかよくわからない事を呟きながらアマリアはここ数年のアレクの生活を早送りで観察した。


「へぇ、魔法が使えるようになったんだ。そういやあの星は神の威神力を使える数少ない種族だったわね」


時折、おねしょしたアレクを見て笑い転げながらアマリアは観察を続ける。


「しかし、異世界転生って地球人の一部には人気あるみたいだけど、違う環境に生まれ変わってから努力するのに憧れるってどうなのかしら?だったら今生の人生をもっと頑張れば良いのにねえ」


頬杖をついてアマリアは1人呟く。


いまだ調査中とはいえ、地球人の思考にやや理解できないアマリアだった。


「ま、充実しているようでなによりね!今後の成長を見守りましょう♪」


あくびをしながらモニターを消して睡眠用のカプセルに入ったアマリアは数時間の睡眠をとった。

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