第8話 父は子を想う

(アレクの父親視点)


私の名はアレクサンドル・サトゥーラ。


サトゥーラ国の国王であり、アレクの父である。


息子アレクが生まれた時は本当に妻と共に感動で涙したものだ。


しかし、アレクが成長するにつれ問題が生じた。アレクの容姿が私たちに全く似ていないことだ。


これにはしばらくは悩み続けた。ついには妻の不貞を疑ってしまい、素直に話してしまうと彼女は涙を流しながら不貞はなかったと訴えた。


しかし、彼女もなぜアレクの容姿が自分たちに似ていないのかはわからないと言った。


巷では妖精の悪戯で子供を取り替えるといった伝承もあるが、さすがに素直には信じられなかった。


仕方がないので、王族に伝わる「血族顕彰の秘儀」とよばれる儀式があることを妻に伝えた。


彼女の同意を得た後、私たちはアレクを連れて王宮の奥にある王族しか入れない秘密の間に入った。


蝋燭の火が小さく照らされた石の畳みには薄緑色に薄く光る魔法陣が描かれていた。


私は小さなナイフを取り出した。


刃の先端を自分の指先に近づけて軽く突き刺した。指先から血が出てきてその血を床に描かれている魔法陣に垂らした。すると魔法陣は赤く光り出す。


続けて妻の指先から血を出して同じく魔法陣に垂らした。すると今度は青白い光となって輝き出した。


そしていよいよアレクの番だ。


薬によって眠らされているアレクの小さな指先にナイフをつける。少し触れただけで指先からぷくっと血が出てきた。


少ない血だが同じく魔法陣に垂らした。


魔法陣は黄金色に輝き出した。その魔法陣の中には2つの魔法石があり、青白い光と赤色の光が別々に光っていた。これは2人の子であることを確かに証明していた。


私は考えた。


魔法陣が光る色はそれぞれ魔法の属性によって変わるものだ。


私は火の属性が強いので赤く光る。


妻は水と回復魔法が得意なので青白く光る。しかし、黄金色とはすなわち全属性であり、どのような属性の魔法も容易く使えるということだ。


そして魔法陣が黄金色に光るということは王族の中ではほとんどいない。


唯一、全属性だったのは王国が誕生した時の初代国王のみであった。


そうであるならば、アレクは偉大なる使命を与えられているのではないだろうか。


もしかしたらアレクの容姿は王国の創立にまつわる神々の一柱の姿に模して生まれてきたのではないだろうか。


私は妻にそう伝えると彼女もそうかもしれないと納得してくれた。


私はなんという大きな罪を犯そうとしたのだろうか。よりにもよって神の化身として生まれた我が子を不貞の子扱いしようとしたのだ。


私は素直に妻に詫びて赦しを乞うた。


妻は私に優しく口づけをして涙をながして私の罪を赦してくれた。


それからというもの、私は妻を更に愛した。


おかげでまた愛の結晶を授かることができた。


アレクには弟ができた。名をイスタルと名付けた。


イスタルはアレクとは違い私たちによく似た容姿で育ってくれた。アレクとは違い大人しくて聡明な子だ。第二王子として立派に育って欲しい。


数年後、次は娘ができた。


名をマリアと名付けた。


妻によく似て天使のように可愛らしい女の子だ。

少し甘えん坊だが素直で感情が表情に出やすく見ていて飽きない面白い子だ。


少しずつ大人しくなってゆくゆくは立派な淑女となってほしいと思う。


大きくなったら美人過ぎてどこにも嫁がせたくなくなるかもしれないがな。


マリアが生まれた時はアレクがものすごく喜んでいた。


なにやら兄としての意気込みが強くなったらしく、常にマリアの周りに纏わりつくようになっていたので魔法の授業を増やさせて少し遠ざけておいた。


あいつは少し王族としての自覚を持ってもらいたいものだ。


しかし、神の恩寵を受けているからか、5歳にして大人が読むような書を読み漁り、魔法まで使えるようになってしまった。いずれは王としてこの国民を支える者として更に成長してほしいと思う。


外見からいらぬ誤解を受けるかもしれない。そのためには心を鬼にして、アレクには試練を与えようと思う。


強き王であれば国民も納得し安心できよう。


魔法もいくつかはちゃんと使えるようになったようだ。


そろそろ、


魔法の次は剣術だな。


フフフ……。


王は書斎にて独り何か悪巧みをする少年のような顔をしていた。

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