第7話 モブ王子魔法を使う

初めて魔法が使えた日のこと。


徹夜明けで割とハイテンションだったので、意気揚々と家庭教師のアバウト先生に魔法が使えたことを伝えた。しかし、先生は全然本気にしてはくれず、ただ微笑みながら授業を淡々と進めていった。


さすがに悔しくて仕方がなかったので、先生を見返すために数日の間、毎晩寝室で魔法の訓練をした。


最初の感覚を思い出しながらやってみると、最初の苦労が報われるようで、二回目は最初の半分ぐらいの時間で魔法を出すことが出来た。


しかし、またもや魔力切れで倒れてしまい。連日おねしょをするという屈辱的な汚名を被せられることになってしまった。


くぅぅぅ!悔しい!


結局、弟の部屋では練習させてくれなかったしな。


メイドのサーシャに「おねしょ王子様」と言われたのはさすがに悔しい。


前世高校生だった俺としては悔しすぎる。なんとか魔法を使いこなして名誉挽回しなくては。


さて、魔法を使えるようになった後は、次は魔力量の問題が出てきた。さすがにもう「おねしょ王子」と呼ばれるのは嫌だ。


どうすれば魔力量が増えるのか、


んーーーー、


ん?


そういえば、お腹の中でゼンマイを巻くようにしていたんだよな。

少し長めに巻き巻きしたら良いのでは?


よーし!


そう思いついたらもう待てないとばかり、さっそくお腹ぐるぐる魔力充電トレーニングに入った。


2時間後……。


よーし、もう一度水の魔法をやってみるぞ!


3時間後……。


ピューーーーーー。


おおっ!前回よりも水の出る量が増えた!


そしてまた意識を失った。


翌朝、今度はおねしょの量が増えたということで夜に水を飲まないようにとメイドのサーシャと執事長のセバスに注意された。


くそう!!


悔しくて仕方ないが、もうおねしょ王子の汚名を晴らすことは諦めて、魔力量を増やすトレーニングをしばらくやり続けた。


異世界もので前世ニートだった奴が魔法チートになるまで頑張る話とかあったけど、なんか一生懸命になる理由がわかるような気がする。


なんか楽しいんだよな。


出来なかったことが出来る様になる。


こんなに夢中になるような事って前世ではなかったもんな。


やっぱり魔法は楽しい。


魔法が使えるようになって2週間ほど経った。とうとう俺は魔力切れも無く水の魔法を使えるようになったのだ!


今までの恨みを晴らすかのように、先生の目の前で水の魔法を使ってみた。先生は口をあんぐり開けたまま驚いていた。


むふふん、ザマァみろ!


俺は胸を張って踏ん反り返った。


だって5歳で魔法使えるんだよ?


すごくない?


しばらくすると先生もこれはスゴイ!素晴らしい!この若さでなんて事だ!とべた褒めしまくった。


そして国王にも報告しなければと興奮したまま王宮の執務室へと駆け足で行ってしまった。


数刻後、父である王が先生と共にやってきた。


「アレクよ、魔法が使えるようになったとは本当か?」


「え?は、はい、水の魔法だけですが、使えるようになりました。」


「そ、そうか!それは凄い事だ!でかしたぞ!アレクよ、今夜はお祝いをしよう!」


今度は父がべた褒めしてくれた。


やっぱり5歳で魔法使えるって凄いことなのね。


おねしょ王子の汚名があっという間に覆されるほど5歳にして魔法使いデビューのウワサは瞬く間に王宮に広まった。


生まれたばかりの妹を抱きながら母も喜んでくれたし、2歳になった弟のイスタルはよくわかってなかったけど、メイドのサーシャ、執事長のセバスたちも驚いていた。


メイドのサーシャなんかは「やはりおねしょではなかったのですね」とか、「私はとっくに気づいていました」とか、今更だろとは思うが、まあ、名誉挽回できたのは本当に良かったと思う。


心から。


しばらくの栄誉に浸っていた俺だが、自ら先にくる苦難への道に入っていったことには今はまだ気づいてはいなかった。


そう、これがスパルタへの道の登竜門だったのだ。


王宮には王子5歳にして魔法使いデビューの噂が流れてから約一月後、俺の元にはなんか有名だと言われる魔法の先生がつけられた。


名前はガルシアと呼ばれているらしく、先生ではなく師匠と呼べと言われて杖で頭を叩かれた。


痛いんですけど。


王国では大魔法使いと呼ばれ、なんかハリー◯ッターに出てくる◯ンブルドア校長先生みたいな感じの人だ。この日から家庭教師のアバウト先生の授業とは別に魔法の授業が始まった。


その日からだ。


毎日毎日、魔法のスパルタ教育が続いた。


最初は水の魔法だけだったのが、火の魔法を教えてもらい、風の魔法など色々な魔法を座学を通して教えてもらった。


実習ではとにかくしつこかった。


水の魔法も火の魔法も、出す量の加減を調整しろだの、何回も使えるようにしろだの。


繰り返し繰り返し、


そう、何度も何度もやらされる。


魔力切れになっても、すぐに頭に水をかけられては叩き起こされ、また魔力貯めからやらされる。


あれ?俺って王子じゃなかったっけ?


異世界ものってこんなにスパルタだっけ?


もう辛すぎて目から水の魔法が勝手に出てくるようになった。


しかし、スパルタ教育のおかげか、二年ほど猛特訓をした成果として、水の魔法は消防隊の消火ホースのようにドバドバと水を出せるようになり、火の魔法も小さな家なら火事を起こせるぐらいに強くなった。


なんとも物騒なものだ。


でも一応、王子なんだけどなあ。


まあ、これなら廃嫡されても生きていけるかもな。


そんな風に呑気に思っていた俺はまだ知らなかった。


この先には更にまだまだたくさんの試練が待ち受けていたのだ。

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