第4話 モブ王子のショック

異世界転生して3年経った。


少しずつ言葉がわかるようになり、もう歩く事もできる。まだオムツは卒業していないが、3年も世話されていたら嫌でも慣れる。


食事はもう普通に食べられるので子どもにも食べられる料理を毎日食べている。


今のところ平和な日を送っており、この国が争いもなく平和である事もわかった。


あと弟が生まれた。名前はイスタルだそうだ。


赤ちゃんだから産まれた時の顔だけではわからないが俺とは違って両親に似ていそうな顔立ちだった。そう、ただ一つ、俺の将来の夢が潰される大きな出来事があった。


それは俺が2歳になった頃、母の部屋に行った時のこと。


ベッドの近くに姿見の大きな鏡があったので今の自分の姿を見てみたくなって鏡に近づいてみた。


すると鏡に映った自分の姿は前世の子供の頃の俺の姿そのものだった。


「ふ、ふぇぇぇぇぇぇ!?」

(な、なんでだーーーー!?)


違うのは髪の色と目の色だけだ。

顔や髪型もほとんど前世と同じだった。


う、嘘だ……。


これは悪い夢だ。


現実逃避してみたものの、試しにほっぺたをつねってみると痛かった。


それ以来、俺は鏡を見ていない。


自室にも鏡は置かないように頼んだほどだ。


自分の姿を知ってしまったこと。


それは今まで異世界転生で浮かれていた俺にはとてもショックだった。


お、俺の異世界ハーレムが……。


イケメンになって美女たちと戯れる日々が……。


蜃気楼のように目の前に消えていく幻の美女たち。


それから数日間、俺はおねしょではなく涙で枕を濡らす日が続いた。


それと同時に新たな不安がよぎった。


あまりにも両親に似ていないのだ。


おそらく母の不貞を疑われ、俺は廃嫡されるのでないかと思う。


そうなったら最悪処刑、もしくは出家して教会に、もしくはこの屋敷の片隅に幽閉されて一生を過ごすことになるのではないか。


いや、ここは異世界。自ら望んで冒険者になればモンスターを倒しながら生活していくことも出来るかもしれない。


強くなれば……。


なんとかして生きる道と術を身につけなくては。


異世界ならではの唯一の希望が一気に絶望へと変わる。


しかし、俺は諦めない。


今のうちに強くなって生きる術を身につけなくては。


弟が出来たのなら俺は国王にはなれないかもしれないし、たしかに俺には王様なんて出来る気がしない。


だから強くなって独立しよう。剣と魔法をたくさん鍛えれば大丈夫だろう。


そう、異世界といえば魔法だろう。


この世界には魔法がある。一流の魔法使いになればこの世界でも生きていける。


そういえば、


異世界にあるべき肝心の事を忘れていた。


異世界転生の定番中の定番。


そう、アレだ。


俺は手のひらを前に出して小さな声で言ってみた。


「すていたす・おーぷん」


・・

・・・。


シーン……。


「あ、あら?」


おかしいな。呼びかたが違うのかな?


「すてーたす!」


もう一度、俺は手のひらを前に出して大きな声で言ってみた。


・・

・・・。


「いでよ!すていたす!」


「のうりょくみたい!」


「のうりょくのまどおーぷん!」


・・

・・・。


「すてーたすでろ!」

「すてーたすみたい!」

「すてーたすみさせて!」


「おねがい!」

「おねがいしますぅ!」




シーーーーン。


う、うそだ。


ここ、異世界だろ?

なんで出ないんだ?


レベルとかあるのか?


それともそもそも存在しないのか?


とりあえず、まだまだわからんが気合いだ。気合いを入れたらなんとかなるかもしれない。


俺は気合いを込めて、できる限り大きな声を出した。


「すてぇぇぇたぁぁぁあす、うぉぉぉぉぷぅぅぅんんん!!!」


「アレク様、お食事の時間になりましたのでお迎え上がりました。」


タイミング良くガチャっとドアが開くと、メイドのサーシャが俺を呼びにきた。


俺は手を前に出したままの怪しい姿勢で羞恥で真っ赤になって涙目になったままの顔で固まり、彼女と目が合った。


シーン……。


メイドは空気を読んですぐに振り返り、外でお待ちしておりますと言って部屋から出ていってくれた。


その後はお互い、気を使いながら両親の待つ食事の間へと移動した。


しばらくあれは(ステータス)封印しよう。


俺は心からそう誓った。

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