-10- 渋谷の歌姫

「まだ時間があるね。どこかでお茶する?」


「…カラオケ。に、行きたいです。」

「カラオケ好きなの?」

「ええと」

「いいね、行こう!」


真夏は、初めてカラオケに行った時と今の自分を重ね合わせていた。

真夏が歌い出すにつれて、空気がしんとするのが伝わった。中学の頃カラオケに行った時は、ある女子から、

「そんなに本気出さなくてもいいのに。」

と、言われたのだった。


でも、多分、この人なら、受け入れてくれる。

「加藤さん、先入れて歌ってて。」

真夏は、歌いながら自分が興奮していくのを感じた。真夏は、心から歌うことが好きだと感じた。いつも部屋やお風呂で歌っているが、両親はいつものことなので、真夏がそこまで歌が好きだと知らないようだった。その年頃の女の子は、みんな、そうだと思っているようだった。

歌い終わると、

「加藤さん、なんでも出来るんだね!加藤さんにないのは、自信だけ。」

と、昌彦は言ってくれた。

「ありがとうございます。」

「洋楽は、歌える?」

「知ってる曲なら。」

「歌って、歌って!」

「先生も、たくさん歌ってください。」

「じゃあ、二人で歌える洋楽を歌おう。」

こんなに楽しいカラオケが出来る日が来るなんて。真夏は、自分がこれまでの人生を悲観しすぎていたのかもしれないと感じた。

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