第5話 魔王、動く!
「魔界と連絡が取れれば暇も潰せるが、この結界の中ではそれも出来ぬ。ナツはアレで魔女見習いだと言うのか。恐ろしいやつだ。せめて何とか外の様子が分かれば暇くらいは潰せるのだが……」
その日から、レヴィンの暇潰しは外界とのコンタクトへの挑戦へと変わった。ナツキの結界の精度が高く、自身の能力も封じられているため、これが彼の良いリハビリにもなっていた。
通常の方法では弾かれて全く歯が立たなかったものの、召喚主のハルカをイメージした時だけはぼんやりとイメージが浮かぶようになってくる。
そこで彼女の周囲を見る事に特化したチャレンジをし続ける事3日、彼はついにハッキリとした映像を見る事に成功した。レヴィンの脳内に浮かんだのは、ハルカが学校で無視されていると言うイメージ映像。
このイメージを認識した彼は、そこに謎の違和感を覚えていた。
「何か不自然だな……。悪魔がいるのか?」
力が抑えられてはいてもレヴィンは魔王。悪魔特有のオーラがあればそれを敏感に感じ取る事が出来る。そう、ハルカのいじめの背景に悪魔が関わっている事を見抜いたのだ。その悪魔の正体を探るべく、彼は慎重に観察を続ける。
やがて、このいじめの主犯格っぽい少女がハルカの前に現れた。どうやら彼女もまたハルカのクラスメイトらしい。黒髪の長髪で黙っていれば美少女にも見えるものの、顔色が極端に悪く病んでいるようにも見える。そして、何故か彼女の命令に他のクラスメイトが盲目的に従っていた。
どうやら、ある種の洗脳のようなものを主犯格少女が使っているようだ。レヴィンは彼女を見た瞬間、その背後にハッキリと悪魔の姿を見る。
「おお、これで帰れるぞ!」
レヴィンが魔界に帰る方法は2つ。ひとつは今やっている帰還魔法陣での逆転移。もうひとつが召喚主ハルカの願いを叶える事。主犯格少女の背後の悪魔を倒せば願望が成就されると考えた彼は、すぐに行動を開始する。
まずレヴィンはハルカとのイメージを繋げたまま、結界の壁に手を当てた。
「ぐおおおおお!」
外の世界と意識が繋がっていると言う事は、そこに穴が空いていると言う事。レヴィンはその穴を力付くで無理やり広げていく。ある程度亀裂が広がったところで、結界はパリンと言う音と供に粉々に砕け散った。
「良し! ハル、待ってろ!」
勢いよくナツキの部屋を出た彼は、そのまま家を出て周囲を見渡す。目的の場所はハルカのいる小学校だ。とは言え、道順とかは全然分からなかったため、一直線に最短距離で行こうとレヴィンは空を飛んだ。
「フハハハ! 久しぶりだな、この感覚は!」
その頃、ハルカに対するいじめは更にエスカレートしていた。無視をされても必死に堪える彼女を見て、主犯格少女がずいっと彼女の目の前まで来てジロリとにらみつける。
「ハルカさん、何故あなたは私の言葉に従わないんですの?」
「アキラちゃん、元に戻ってよ! 私達友達じゃない!」
「あなたの友達のアキラはもういないのですわ。前にも言いましたでしょう?」
主犯格少女のアキラは元々ハルカの友達だったようだ。しかし、今はもうその頃の彼女ではないらしかった。いじめられるようになっても、ハルカはまだ友達の事を信じて精一杯の力を振り絞って訴える。
「アキラちゃんはアキラちゃんだよ! 何で変わっちゃったの?」
「うるさいですわね! みんな! 分からせてあげて頂戴!」
アキラが号令をかけると、催眠状態の他のクラスメイトが一斉にハルカの周りを取り囲む。みんな目がうつろになっていたため、怖くなったハルカはその場で頭を守りながらしゃがみ込んだ。
「いやぁっ!」
取り囲んだ中の1人、半ズボンの男子が足を後ろに引いて彼女を蹴ろうとした瞬間、開いていた教室の窓からレヴィンが現れる。
「そこまでだぁーっ!」
彼は、アキラの背後でニヤニヤと笑う普通の人には見えない悪魔を一撃でノックアウト。悪魔が倒れて力を失った瞬間、クラスメイト全員の洗脳が一気に解けた。
「あれ? 何で僕まだ学校にいるんだろ? 早く帰らなきゃ」
「私も音楽教室に遅刻しちゃう!」
「みんな! バイバーイ!」
「バイバーイ!」
洗脳が解けた途端にクラスメイトは全員すぐに教室を出ていった。放課後だから当然の話だろう。で、その場に残ったのはまだ怯えているハルカといきなり悪魔の呪縛から解き放たれたアキラ。彼女もまた悪魔に精神を乗っ取られていたのだ。
ひと仕事終えたレヴィンは、しゃがみ込んでいるハルカの頭を優しくなでる。
「もう大丈夫だ。いじめは終わった。よく耐えていたな」
「え? レヴィン? 嘘? お姉ちゃんの結界を破ったの?」
「ああ、吾輩、本気になればすごいのだぞ。ハルがいじめられているのが見えて飛んできたんだ。で、コヤツも操られておったぞ」
「そっか……。アキラちゃんも被害者だったんだね」
ハルカはまだ呆然としているアキラの顔を見る。彼女は操られている間も自分のした事は分かっていたようで、だからこそ正気に戻った今、逆に顔を青ざめさせていた。
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