第3話 居候になった魔王

「もしかして……魔法陣間違ってた? うろ覚えなところがあって、そこは適当に描いちゃったんだけど……」

「正規の魔法陣と違うと思ったらハル、あんたこれほぼオリジナルだよ。よくこれで悪魔を召喚出来たね。流石私の妹だ。うん、才能あるよ」

「その魔法陣、本当は呼び出せない感じなの?」

「普通に考えてハッキリ100%不可能だよ。どう言う理屈で召喚出来たんだろ? これで呼び出せたって事は……うん。ああ、そう言う事ね。完全に理解した」


 妹の描いたほぼオリジナル魔法陣をじっくり観察していたナツキは、1人で納得してうんうんと何度かうなずく。置いてきぼりになった2人は、ほぼ同時にツッコミを入れた。


「「いや説明は?」」

「え~? 聞きたいの? まぁいいけど。あのね、この魔法陣で強引に呼び出されたら本来の10の1程度の力しか出せない状態で召喚されちゃうんだ。普通の悪魔だったら召喚と同時に死ぬね。魔法陣が力を吸い取っちゃうから。これはとんだ召喚トラップだよ。逆に悪魔を倒す武器になるわ、うん。ハル、大発明だよ。偉いね」

「えっ、わたし、そんなつもりじゃ……」

「ちょっと待て! と言う事は吾輩、今は本来の10分の1の力しか出せぬのか?」


 ナツキの説明を聞いた魔王は、その事実に顔を青ざめさせる。逆に、魔法陣の仕組みを理解したナツキは、目の前の自称魔王が本物だと言う確信を得たのだった。


「あんた、本当に魔王だったんだね。よくこの召喚に耐えられたもんだよ。流石は魔王だ。名前聞いていい? 私らだけ名前を知られるのは不公平だしさ。別にいいでしょ」

「わ、吾輩の名はリ・ガ・レヴィウス2世だ……」

「オッケーレヴィン、確か魔導書にあんたの父親の名前は記載されていた気がするよ。偉大な魔王だったって話じゃない。ちゃんと立派に後継げてんの? 正直さあ、妹のへっぽこ魔法陣に召喚されるってちょっと不安を覚えちゃうなあ……」

「よ、余計なお世話だ! 勝手に吾輩の名前を略すな! それにお前の話は長い! お喋り好きか! 後な、何故吾輩の父上の事を知っている?」


 ナツキのマシンガントークに対抗するかのように、レヴィンも長台詞で応酬する。無理をしているのがその表情で読み取れたので、ナツキはハァと軽くため息を吐き出した。


「私、魔法使いの修行中だから魔界の事も勉強してんの。理由はそれだけ。じゃあハル、帰るよ」

「な、待て! お前なら吾輩を魔界に戻せるのではないか?」


 ナツキが妹を連れて帰ろうとしたので、レヴィンはとっさに手を伸ばして懇願する。背中越しに悲痛な叫びを聞いた彼女はくるりと振り返ると、氷のような冷たい視線を困り顔の彼に向かって突き刺した。


「はぁ? 無理に決まってるでしょ。召喚で呼び出した悪魔を戻せるのは召喚主だけなんだから。私にその権限はないの。あ、そっか。レヴィン、帰れないんだ~。知らない人間界で1人ぼっちね。可哀想~。哀れ~。お気の毒~」

「ぐぬぬ……性格悪いな、お前」

「悪くて結構です~。大事な妹の唇を奪おうとした変態悪魔なんて、そこらでのたれ死ねばいいんです~」


 自分の方が立場が上だとハッキリ理解しているナツキは、相手が魔王だろうと容赦はしない。それに、現時点では力でも自分の方が上なのもあって、全く慈悲の心を持ち合わせてはいなかった。

 姉がレヴィンを見捨てる気満々なのがその態度で分かったハルカは、彼女の腕を引っ張って帰宅拒否の意思を見せる。


「ねぇお姉ちゃん、助けてあげて。だってわたしのせいなんだもん」

「本当にいいの? 力が10分の1でもあいつは魔王だよ? 何してくるか分からんよ? よく考えて。あいつを家に入れていい理由なんてひとつもないんだよ?」

「でも、お姉ちゃんがいるなら大丈夫でしょ」

「う……」


 ナツキはシスコンだ。可愛い妹の頼みを無碍には出来ない。それに、ハルカもここぞと言う時には強情なところがある。レヴィンを連れて帰ると言うまでこの場から動かないと言う強い意志を感じたナツキは、顔に手を当てて大きくため息を吐き出した。


「あ~もう分かった分かった! じゃあレヴィン、一緒についておいで。戻る方法が分かるまでは置いてあげるから」

「ふ、ふん。お前がそう言うなら従ってやってもいいぞ」

「このツンデレめ! あ、家に来るならお前呼び禁止ね! 名前で呼んで!」

「わ、分かった」


 こうして魔王を含めた3人は姉妹の家に帰宅。魔導書の並ぶナツキの部屋に集まった。本棚にずらりと並ぶ魔導書を見たレヴィンはほうと感心する。


「中々の蔵書ではないか。しかも全部魔導に関する書物とはな」

「私もまだ見習いだからね。師匠はみんな覚えてるって。これ全部師匠からもらったものなんだ。ハルが盗み見した本もこの本棚の中の一冊だよ。私に一言言ってくれればもっと安全で確実な方法を教えられたのに」

「ごめんなさい。お姉ちゃん忙しそうだったから」


 姉を気遣ったが故の独断専行だと分かり、ナツキはハルカの頭を優しくなでる。

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