第4話
「一旦状況を整理する。現在、魔蟲の群れが隣村に潜伏中。数は不明。死傷者数もだ。この村に逃げてきたのは13名のオーガ。隣村の族長とその護衛でいいか?」
「あぁ。今は来客用の家を貸して休ませている。偵察部隊も向かわせた。後に巣帰り鳥がこちらに来るだろう。付近の村にも早馬を出している」
今俺は、マリスと自警団副団長のメイとの3人と共に、族長の家で情報をまとめている。
「団長、巣帰り鳥が戻りました。こちらを」
「数は……思っていたより多いな」
外で待機していた仲間から紙をもらう。
巣帰り鳥は飼手の籠手を記憶する。
偵察部隊が見たことを紙に書いて、籠手に留まっている巣帰り鳥の脚に括り付けて空へ離す。
すると、村で同じ籠手を持つ者の腕に戻ってくる。
なので偵察部隊が戻ってくるより、はるかに速く情報が届く。
なぜ、巣帰り鳥が戻ってくるのかは誰も知らないので、そうだと言われている。
「メイ、記録を」
「準備はできています。いつでもどうぞ」
「鎌持ちが50。尾に針が80。でかい蟻が100を超える。あとは大型の蜂が200を超えるらしい。それと……複数の魔蟲を合わせたようなやつが何体かいるらしい」
絵を描いたのだろう。
そこには8本の脚で立つ両腕に鎌が生えた生物が描かれていた。
ご丁寧に3本の尾には大針が付いている。
「これは……合成蟲ですね」
「それは変異種か?」
「いえ。種類は魔法生物の類いになります。熟練の魔道士、もしくは普通の魔道士数名が集まれば作成は可能かと。強さは作り手の腕によります」
面倒なのが混ざっていたものだ。
だが、意図的に誰かが操っているのは分かった。
実行犯がいるならそいつを叩くのが速い。
各々が作戦を考えていると、族長が片手を挙げる。
「この会議は一度開こう。あと1日もすれば他の村からの応援がくる。話は彼らが来てからだ」
マリスと俺は礼をしてその場を後にした。
「ここまでが俺たちの話し合った内容だ。それにしても……」
「すまん!昨日の夜は隣村の族長の相手をしていてほとんど寝ておらんかったのだよ。もう一度礼を言わせてくれ。本当に助かった!」
「いや、別に大丈夫ならいいんだ」
「そうですよ〜。困った時はお互い様なのですからね〜」
父さんとマリス兄さんが帰ってきたのはお昼頃だった。
今はラベスおじさんと父さんで、昼ごはんを食べながら情報をまとめている最中だ。
父さんの話を聞いていると、おそらく来ているのはマンティスとスコーピオン、それとギガントアント。
蜂は聞いたことがないから対策はできない。
それと気になるのは合成蟲。
おそらくキメラ生物の一種だろう。
あれは禁忌に反する代物だ。
「応援に呼んだのはエルフとゴブリン、オークに獣人の連中だ」
「そこに魔王軍が加わるとなると……300はくるな」
「あぁ、いくつかのグループに分けて奇襲させたりして撹乱したほうがいいかもしれんな」
魔蟲に大勢で挑む時は少数グループが鉄則だ。
なぜなら、毒を撒き散らす個体や魔法を使う上級個体との遭遇時に出来るだけ少ない犠牲で済ませるためだ。
「ここが落ちれば次は魔王城に被害が出ます。2つの軍を派遣するのは新魔王様のお心遣いだとと思います」
「ここから、魔王城までそんなに近いの?」
「歩いて1日2日で着くぞ。ここを過ぎれば砦も櫓もない森だけだからな」
「もう少し魔王城に近づけば森を巡回する兵士がいるけどね」
そこまで魔王城も無防備ではなさそうだ。
しばらくの沈黙の後、父さんが一拍する。
「今回は短期決戦になりそうだ。エナトは医療部隊に加わってくれ」
「分かったのですよ〜」
「ラベスはメイと共に一部隊を任せる」
「おうよ!任せとけ」
「マリスとコルスは一緒に前線へ行け。俺は別部隊の指揮を取ってくる」
「えっ!」
突然の発言に目を丸くする。
オーガで初の戦場。
相手は単調な攻撃しかしない魔獣ではなく、多彩な攻撃方法を持つ魔蟲達。
前世は魔法で燃やし尽くしていた奴らに近距離で挑むとなると寒気がしてくる。
自分では勝てない。
足が震えて呼吸が荒くなる。
冷静な判断ができない。
断る、断らないの単語が頭を回る。
すると、震える僕の頭に兄さんが手を置いて撫でてくれた。
「わかりました。コルスの身の安全は私が保証します。奴らに殺しはさせませんよ。コルス、安心して戦ってください。君の実力は素晴らしいものです。君が上手なのは遠距離からの弓だけじゃない。日々の鍛錬で剣技も上達しています。
だから、自分の力を信じてみてはどうですか」
「マリスの言う通りだ!今日は弓無しの剣一本で行ってこい。倒した分だけ今度の晩飯が豪華になるぞ!」
「あら〜。それなら私も張り切らないといけませんね〜。コルス、頑張るのですよ〜」
「はっはっは。仲の良い家族で素晴らしいな」
みんなの顔を1人ずつ見回す。
混乱していた頭が戻って、判断力が回復する。
だが、今の俺に考えるのは必要ない。
答えは既に決まっている。
「ありがとう。僕、頑張って戦ってみるよ」
2度目の家族はとても暖かいものだった
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます