第3話
「コルス、動きが単調になっている。一度休憩でもするか?」
「大丈夫だよ。まだまだここからっ!」
兄さんがいる朝は早い。
父さんとマリス兄さんと僕。
この3人で日が昇り始める時間に鍛錬をするのが日課だ。
今はマリス兄さんと僕が模擬試合をしている。
兄さんの剣技は鋭く、重い突き技を多用してくる。
父さんより軽い一撃だが、繰り返されると防戦一方になってしまう。
「まだまだいくぞ!」
弓の訓練で鍛えた動体視力と予測で、自分に当たる木刀だけ弾いていく。
それをひたすら繰り返して、隙を探っていくのだが、
「全くと言っていいほど隙がないっ!」
「魔王軍第三部隊隊長を舐めてもらっては困るね!」
「くっ!」
隙を作らない連続突きから一転、大きな薙ぎ払い。
思わず距離を取って、体制を立て直す。
「両者そこまでだ!コルス、相手の動きをよく見ているな。一度も当たらなかったのは大きな進歩だ。ただ、隙を狙いすぎだ。自分で作れるようになれるといいな」
審判の父さんが片腕を空に掲げて終了の合図を出す。
その後に、反省点を教えてくれる。
「これは……想像を軽く超えていますね。実際に戦うまで分かりませんでした」
「マリス、最後の薙ぎ払いは良かった。あの攻撃ならば相手の不意をつけるだろう。あえて何か言うならば、もっと懐を狙え。距離を詰めれば、お前の重く素早い剣技は回避不可能な強みとなるだろう」
「ありがとうございます。以後も精進していきたいと思います」
父さんは兄さんにも指導をしている。
最後の重い薙ぎ払いは、今までの兄さんの剣技ではなく、父さんの一撃に重視を置いたものに近かったと思う。
「兄さんは強いね。今の僕じゃ、捌くので精一杯だよ」
「僕の剣技をあそこまで捌き切るのは、師匠と第三の部隊長。あと旧・新魔王様と軍団長くらいなんだけどね……」
「魔王軍は全部で9つ。一つ前の旧魔王の掲げる政策である実力主義によって、上から順に強い部隊になっていく、だったか?」
「はい。おかげで、貴族でも歴戦の戦士の系譜でもない僕が軍団長になれたんです」
一つ前の魔王、旧魔王は武力と知力に優れた魔人だったらしい。
人間との講和に積極的に取り組んでいたが、人間側がそれを拒んでいるため、今も国境付近は争いが絶えないらしい。
元人間からしたら、なぜ講和を結ばないのかが謎である。
一方、新魔王は武力に恵まれてはいなかったが、知力は旧魔王を上回るらしい。
2人の弟たちとは比較的仲が良く、分担して内政をしているので、しばらくは権力争いは起こらないだろう、ということ。
「魔王の入れ替えの時期は初めてなので、部隊の再編成や予算の組み替えで忙しかったので、久しぶりのお休みです」
「兄さんはいつも、どんな仕事をしているの?」
「そうだね。基本は新しく入って来た者の実力に合わせた部隊の配属を決めたりしてる。あとは、魔王城の図書室で文献を漁ったりして、次の戦術や訓練方法を考えたりしているかな」
思っていたより魔王軍の環境はいい。
人族と同じように休みが取れたり、本として歴史が残されているところを見ると、人族と魔族に違うところはない。
「3人とも、朝ごはんができたのですよ〜」
「おう。今行くぞ」
母さんが右手に包丁を持って、呼んでいる。
「エナト様は相変わらずだね」
「あの包丁、たまに飛んでくるんだよ」
「そこも変わらないんだね……」
兄さんの顔が引き攣っている。
母さんは今も昔も包丁を飛ばしていたことが分かった。
「ん?こんな朝早くに誰だ?」
朝食を食べていると、急に扉を叩く音が聞こえてきた。
「今出るぞ……」
「メレイン!大変だ。今、隣の村からの遣いが来た。大型の魔蟲の群れが来ているらしい。
数は不明。もうすでに4つの村が襲われた。
魔王城にも遣いは飛ばしたが、おそらく軍が動くのにはまだ時間がかかる。幸いにも奴ら、今は進行を止めている。あとは……」
「お、おい!しっかりしろ!すまんが、コルスとエナトはこいつを頼む。マリスは俺と長のところへ行くぞ」
「任せるのですよ〜。コルス、冷たい水を汲んできて。私はお布団と手拭いを準備してくるから」
ようやく倒れた人の顔が見れた。
向かいに住むラベスおじさんだ。
僕は水を、母さんは布団を敷いて、おじさんを寝させる。
「コルス、急ぐのですよ〜」
「すぐに向かうよ!」
今は、おじさんを休ませる。
話は2人が帰ってきてからにしよう。
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