第2話

僕は家の前の地面に寝そべっていた。

父さんとの競争の結果は僕の負け。

初めの頃と比べたらかなり走れるようになってきているけれども、それでも父さんには敵わない。

「よく頑張ったな。ほら、ゆっくり飲めよ」

「ありがとう、父さん。また負けちゃったね」

父さんが腰にかけていた竹の水筒を渡してくれる。

狩りが早く終わったせいか、まだ少し冷たい水が喉を潤す。

「負けたのなら、それ以外で相手に勝つ方法を考えるんだ。例えば、俺とコルスでは筋力や体力の差がかなり大きい。いくら剣術と槍術ができてもな」

前世では持つことすら敬遠していた剣や槍は、意外にも僕の体にすぐに馴染んだ。

畑仕事や狩り、母さんとの弓の特訓の合間に父さんと一緒に練習をしている。

「僕が父さんに勝てること……」

「そうだ。何か思いつくことがあるか?」

難しい質問だ。

僕の今の実力で近接戦闘をすれば勝ち目はないだろう。

弓は父さんより当たると思うけど、多分僕の速さの矢なら切り落としてくる。

前世では魔法を使って格上とも戦闘をしてきたが、オーガの特徴として魔法を扱うセンスが無いと思うからこの案も無駄。

「考えるんだ。考えた分だけ戦いの方法が増えていく。だが」

「初めのうちは人から教えてもらい、鍛錬を積む。そうですね、師匠」

家の扉が開いて、中から父さんを超える長身のオーガが出てくる。

「正解。まだ忘れていないようで何よりだ」

「マリス兄さん!帰ってきてたの?」

「久しぶりだね、コルス。また身長が伸びたかな?」

そう言って兄さんは、僕の髪を優しく撫でてくれる。

マリス兄さんは正しくは僕の兄さんでは無い。

隣の家に住んでいたオーガの家族一人息子だ。

父さんの自警団に入っていたらしいのだが、かなり強い魔獣との戦闘で今はもういない。

兄さんはかなりの実力者で、今では魔王軍の一軍を任されているらしい。

普段は忙しいらしく、不特定に休暇をとって帰ってくるので、村の人達に気づかれないことが多い。

それでも、帰ってくるたびにいつも優しく僕に剣術を教えてくれる僕の師匠だ。

そして、父さんがマリス兄さんの師匠という関係。

父さんが僕の木に括り付けてあった山豚を外して兄さんに渡す。

「マリス、これを見てくれ」

「山豚ですね。見事に頭の骨を射抜いています。

コルスには弓の才があるようですね」

「弓だけじゃない。俺の稽古にも、なんとかついてこれているんだ」

前世で近接戦闘の経験がなかった僕は、今も必死に鍛錬を積んでいる。

おそらく、他のオーガの同年齢の子と戦えば、多分負けるだろう。

彼らは、根っからのオーガだ。

僕の前世は人間、しかも魔法職。

だからって、負けていいはずがない。

少なくとも、この村に比べる相手がいないのが幸いか否か。

オーガは、長命だから子供を産む回数がかなり少ない。

僕の下は3年前に産まれた1人の子供だけだ。

「鍛錬は剣ですか?槍ですか?それとも……いや、斧を扱うには若すぎますしね……」

「その3つに、棍と格闘技、弓を合わせた6つを今は教えている」

「6つを日替わりで、ですか?」

「そうだ。剣と槍ならコルスと俺には経験の差しかない。このまま鍛錬を積んでいけば、俺を抜くのは時間の問題だろう。弓はまだエナトのほうが上手だと思うけどな」

「そんなことないですよ〜。コルスはもう私より、弓の扱いは上手なんですよ〜」

家の扉が開いて、母さんが出て来た。

それにしても、2人は俺のことを褒めすぎだ。

父さんとの模擬試合では10本のうち3本、良くても4本しか取れない。

それに、母さんと同じ距離にある的で練習はしているが、母さんよりは当たらない。

「この年齢で師匠から3本も……。それに、鷹の目と同じ的を……痛っ!」

「もぅ!その名前ははかわいくないのですから呼ばないでって言ったのですよ〜」

母さんが、いつものゆっくりとした雰囲気から一転。兄さんの身長の半分くらいしかなかった母さんが飛び上がって頭を叩いた。

「それでは、日も暮れて来たことですし、続きは中で、ゆっくりと話しましょうかね〜」

「そうだな。山豚はあとでみんなで解体だ」

僕たちは家の中に入って、いつもより早めの夕飯を食べるのだった。










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