第1章
第1話
8年が経過した。
俺は身長も体重もかなり大きくなった。
オーガは8歳になれば、狩りに出られる。
年齢が増えていくほど、狩っていい範囲や動物、魔獣が増えていく仕組みだ。
俺はすでに父さんと一緒に狩りに出て魔獣や動物を狩っている。
「コルス、そっちに3匹向かったぞ!」
「任せてっ!」
こちらに走ってくるのは山豚と言われる、動物の一種だ。
その後ろから追いかけているのが父さん。
名前をメレインという。
オーガの自警団団長を現役で続ける、かなりの強者。
武器を持たせたら多分右に出るオーガはこの村にはいないと思ってる。
ちなみに、素手で3m近い森熊を投げてたから、素手でも十分やばい。
前世だったら王国が軍を派遣するレベル、もしくは俺が直接出向いてたかも。
そんなことを考えているうちに、俺は先頭の山豚の頭に矢の狙いを定める。
ヒュッ、という音がして命中し山豚が1匹倒れる。
先頭の仲間がやられたことで、後続の2匹が動揺して足を止める。
その隙に、もう1匹の頭にも矢を放つ。
ドサッ、という重い音がして2匹目も倒れる。
焦ってきた道を戻ろうとした3匹目には、追いつきた父さんの蹴りが入る。
鈍い音がして、最後の1匹も絶命した。
「お疲れ様、父さん。相変わらず凄い力だね」
「なぁに、これくらい毎日鍛錬を積めばできるようになるさ。コルスの方こそまた弓が上達したな。さすがエナトの子だな」
大きな手で頭を撫でられる。
母さんは、オーガの中では珍しく弓がとても上手だ。
前世で弓が上手い友人がいたが、そいつ以上の正確さと速さを兼ね備えている。
オーガだからこそできる芸当だ。
父さん曰く、
『エナトは凄いぞ。あいつは天高く飛ぶ鳥を、遥か遠くにいる魔獣を、そして俺の心までも、いとも簡単に撃ち落とすんだ』
めちゃくちゃに褒められて、恥ずかしがった母さんが、護身用の短剣を投げてきたのは今でも覚えている。
「よし!今日は帰るか」
父さんは2匹の山豚を、僕は1匹の山豚がくくりつけられた木を担いで家がある村へ帰ることにした。
僕の村はオーガが30体ほどしか住んでいないのにとても広い村だ。
それでも、近くには大きな湖があって水には困らないし、冬以外は森の恩恵を受けられる。
その中でも、俺が一番驚いたのはコメがあったことだ。
なんでも、昔襲われていた人族の商人を助けたお礼に貰ったコメの苗を、少しづつ増やしていったらしく、今では村の敷地の半分くらいはコメを育てている田んぼだ。
「そういえば父さん。干し肉や燻製したものならまだ家にあるのに、今日は狩りに出かけたの?」
「ん?別に何も理由なんてないぞ」
あっ、嘘ついてる。
オーガの戦士は嘘を憎み、正義を志す者が多い。
父さんも母さんも、当然嘘が大嫌いだ。
そんなオーガが無理に嘘をつけば、いくら言葉は平常で話せても、体は止まらない。
「父さん。足がすごい震えてるよ」
「いつも通りだ!」
気合いで足の震えを止めれば手が震え出す。
震える手を止めればまた足が震える。
これ以上はジリ貧だと思ったのか父さんは強硬手段に乗り出した。
「ええぃ、もう家まで競争だ!コルス、俺より遅かったら、明日から鍛錬を厳しくするぞ」
「ちょっと、それは酷いって!」
父さんの訓練は厳しい。
ただでさえ、ついていくので精一杯の鍛錬がより一層厳しくなったら僕の命が危ない。
(せっかく生まれ変わったんだし、まだ死ぬわけにはいかないんだよね)
僕は、嘘を隠すために走り出した父さんの背中を全速力で追いかけ始めた。
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