化け物

「どれどれ?」


何とも呑気であると、他人事を装いつつも、俺の視線はワニの餌に注目していく。

「ふむふむ・・・・ふ~~む? むむむ?」

うん・・・・何だか凄く見た事のある肉だな。

「・・・・・悪夢って奴か」

自然と口からでた言葉を俺は意識しつつも、目の前にある光景を注視する。

そうして眺めた先には、ポツリと樹に寄りかかった俺の顔。

目と目があった気がして、『こんにちわ~~』と言いそうになったが、

悲しい事に返答はなさそうだった。

「まぁ、死んでるもんなこれ」

自分で言っておいて薄情な気もするが、慌てたところでどうもならん。

だいたい空を飛んでる時点でおかしいよなって思っていたのでやっぱりと納得したぐらいだ。

「だが、そうなると死んだら目覚めるとかそういうテンプレ展開では無いのかな?」

だいたいの映像作品ではお約束の展開として、夢落ちなんてものが存在する。

当然、これは夢落ちにおける目覚めのきっかけなんだが、どうにもそういった気配が無い。

「となると、謎を解明するパターン? いや~~俺ってそんな頭良くないよ?」

正しい自己認識をかましたところで内心ダメージを受けたが、そんな事は今は置いて置く。

今必要なのは謎解きかもしれんとなれば、それを解くのが先決。

「ふふふ、鮮血だから先決ってか・・・・っはははは・・・・っていやいや、おいおい」

現実逃避も此処までくれば重傷だな。

「さてさて、樹木が赤いのはなんでかな~~~」

そうやって軽口を叩きつつ、化け物がお食事中の樹木を眺める、すると・・・。

「上から血がついて・・・・俺の死体にいきつく・・・・となると上から落ちた?」

ぼんやりと口にした予想だったが、どうやらそれが正解のようで、そのまま空を眺めていると、空は思い出したかのように何かを『ボトボト』と降らし始めた。

「・・・・んん?」

視界の中に広がるのは人、人、人。

人が洪水のように降り注ぐ光景に、発想力豊かなもんだと溜息も漏れるってもんだ。

「しっかし、此れは・・・・流石に現実だよな」

空から降って来るご馳走にワニっぽい化け物が反応して嬉々とばかりに尻尾を振るう。

当然、そんな近くに居るのだから俺に気付いてもいいものだが、化け物は急いで俺の残骸を腹に納めて駆けていく。

「そうですかそうですか・・・・分かってはいたけどやっぱりですか」

口に出すまでも無いが、結論は出た。

つまるところ、俺は奴に見えておらず、存在すらしているか不明な存在。

端的に言い表すならば、『幽霊』みたいな存在って事なんだろう。

「まぁ、そうでしょうとも・・・・」

結論に不満は無いが、納得もしたくない。

だが、このまま此処の居ればおのずと『幽霊』は数を増していくのだろう。

そしてそれが常識に変化して、俺は成仏でもするのかねぇ?

「・・・・さて、寝なおすか」

それだけ吐き捨てて俺は悪夢の中、眠りに落ちた。


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