第1話 目覚め

「目覚め爽快・・・・って感じではあるんだが、何でだ?」

目が覚めるなり長年の肩こりやら腰痛やら節々の痛みが無い事に気が付いた。

不思議な事もあるもんだと思うが、単純な話、夢落ちってのが一番説得力があるのでそれなんだろう。目が開いているのに眠っているとか笑えない話だが、夢なら夢で楽しむべきかとあたりを見回してみる。

「・・・・森・・・だな」

俺の目に見えるのは樹が生い茂る森の中という印象の視界。

自然を堪能してみたいなんて思った事もあったから、それらの願望が形をなしたのかと思ったのだが、それにしてもリアルだ。

「しかしなんだろなこれ、森を求めるとか急にどうしたの俺? 自然に目覚めたの?」

単純に考えればそういう事なんだろうが、それは俺が主体としての答え。

これが受動的な結果だとしたら答えはまったく違ってくる訳で、どうしたものか。

「う~~~~ん、やっぱ夢だよな~~~、視界が凄く遠くまで広がってやがる」

何時もなら眼鏡ありでもこんなに見える訳も無いのでおかしな話。

体に関しても先程の腰痛やらの痛みが無いのもそうだし、重さすら感じないのも変な感じだ。

「軽いっていうより何も感じないな・・・いや、それどころか浮遊感すら感じるよう・・なっ?」

感覚のままに足を踏み出した途端、俺の体は浮遊しており、ジタバタと足をばたつかせる結果になった。唐突な浮遊感に気持ちの悪さを感じたが、慣れればそう悪いものでも無く、次第に暫くすると空を自由に飛べるようになっていた。

「・・・・・あれ? でもこれって・・・・」

空を飛べたり感覚が無かったり、色々と不思議な体験をする内に何故か湧きおこる違和感。

夢だと理解している筈なのに、現実味を帯びた現状に不安が増していくのを感じてしまう。

だが、これは夢だ・・・夢の筈だ。

そう心に言い聞かせて浮遊していると俺の視界に異様に赤い異質な樹木が写りこんだ。

「・・・・何だ?」

浮遊する事にも慣れたせいか、探求心が湧きおこったのだろうが、俺は見てしまった。

ばらばらに喰い荒らされた肉片を。

「・・・・っぶ」

樹が赤い事から気付くべきだったんだ。

あの赤色を見た事あると思った時点で引き返すべきだった。

一本だけ赤い樹があるとか不思議だと思ったならそれがサインだと理解するべきだった。

だが、結果としてそれは見なければいけなかったのだから今更か。

俺が視線を向けた先には肉を喰らう化け物が一匹。言葉で言い表すと巨大なワニだな。

そういえば海外とかだとこんなサイズのワニも居るらしいからおかしくは無いんだが、

俺の生活圏でこんな馬鹿でかいワニがいる筈がない。

つまる所、夢が夢であったという明確な証拠になりえるのだ。

だが、しかしながら想像力豊かであると言わざるを得ない。

「なるほど~~匂いすら感じてしまうな~~」

己の想像力と情報量の多い悪夢に関心してしまう。

しかし、そんな事で消えてくれないのが悪夢の悪夢たる所以。

夢であろう安心感もあってか、奴等が何を喰っているのか、動物園を眺めるつもりで覗いてやろうでは無いか。

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