残酷な世界

紅龍

序章

「ふ~~~疲れた」

俺は何時もの如く疲れた体を万年床と化している布団の上にダイブさせた。

「うっぶ」

長年放置してきた布団からはお返しとばかりに埃が舞い上がり、抗議を態度で示してくるが、構うものか。不快は不快だが、俺としては寝る事が出来れば問題がない。

「だが、寝て起きたらまた早朝から仕事か~~~~」

俺としても掃除なりしてやりたいと思うが、この過密スケジュールが全ていけないのだ。

そう、だからこそ何時も面倒なので背広のまま寝ているが、それも仕方の無い事。

首から下げた社員証も何時もの事で、久しぶりに見たそれには何とも悲しい事実が記載されている。

『田中 一郎 年齢 三十七歳 役職無し』

分かっている、分かっているが、悲しいもんだ。

写真も貼ってあるが、客観的に見てもお世辞の言葉すら出てこない容姿という奴だ。

疲れた雰囲気を表情で示しており、目の下にはくまと他人受けしない愛想笑い。

意識して覚えなければ翌日には忘れてしまう様な容姿に、特徴を丁寧にそぎ落としたかの様な見事な表情。多分、現代じゃなくて過去の世界なら密偵として歓迎されたんじゃないかと思える様なその容姿。見ているだけで溜息が漏れるそんな人物が俺な訳だ。

「・・・・自己肯定でもしてから寝ようかと思ったが、憂鬱になるだけだなこれ」

せめて寝てる間ぐらいはいい夢をみたいもんだが、考えるだけ疲れるだけか。

「さて・・・寝よ・・・寝・・・・よ」


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