第13話 戦いの鬨
そして、
「いや、賊の本拠地がこんなに近いなら自分で行けただろ…」
賊の本拠地は今までいた井戸がある神社のすぐ横の裏山なのだ。
最初に地図を見たとき自分の目を疑ったが、裏山から時々「えい、えい」と大きな声が聞こえてくるから間違いないのだろう。
――引きこもり、恐るべし…
そんなことを考えながら、俺は再度ため息をつくのだった。
◇◇◇
「えい、えい、えい」
「「「「おう、おう、おう」」」」
「えい、えい、えい」
「「「「おう、おう、おう」」」」
山の中に入って行くと、次第に賊の声が大きくなってくる。
「オロチ。敵ってどれくらいいるかわかる?」
「さぁ。ただ正確な数値はわからないですけど、今までの経験からすると、あの声を出すには2000人くらいはいるかと。」
「えぇ…」
自分が神か人間かは違うとはいえ、前世では、喧嘩なんてしたことがない。
腕相撲で相手に勝ったことはないし、多分腕っぷしは弱いと思う。
更に悪いことに、さっきから聞こえている声は、息ぴったりで、とても統制が取れているように聞こえた。
統制が取れた人間2000人v.s.最弱スキル持ちの神様の俺と蛇の精霊オロチ。
どう考えても、数の暴力で負ける気がする。
事実、この世界に精通しているであろう、オロチも難しそうな顔をして物思いにふけっている。
――
心のなかで
だが、実際に悪態をついても仕方ないので、表面上何も気にしていないように取り繕い、オロチに、
「悪いんだけど、念のために落とし穴を作っておてくれない?」
「あ、はい。いいですけど…あの数の相手を貶すにはかなり大きく作らないといけないんですけど…」
「ああ、いや。これで、勝負を決めようとはしていないんだ。落とし穴の存在を相手の頭の中にちらつかせることで、相手の思考のリソースが少しは避けるかなって思ったんだ。」
「ああ、そういうことですか。じゃあ、あんまり隠さなくてもいいですかね?」
「うん、流石にむき出しだったら底がどれくらい深いのわかっちゃうからまずいけど、ちょっと土を被せてくれるくらいで大丈夫だよ。」
「わかりました。今から精一杯作らせますね。」
「オッケー。じゃあ、頼んだよ。」
「ん?大宮神はどこかいくんですか?」
オロチは自分の髪の毛を抜きながら、そういった。
「いや、相手の大将みたいなヒトと対話を試みようと思って。」
「あぁ…そういう相手って基本対話は意味を成さないことが多いですよ。だって、
「まあ、そうなんだけどさ…もともといた世界が平和な国だったからさ、どうしてもあらごとに発展させたくないんだよね。」
「無駄だと思うんですけど……いや、大宮神がそう言うなら止めません。ただ危なくなったらすぐに諦めてここに戻ってきてくださいね。死んでは元も子もないんですから。」
「わかった。」
俺が総返事をすると、オロチは俺の方に手をそっとおいて、顔を近づけて、静かに
「約束ですよ。」
と言った。
「ッ!」
ここまで、あまりにも大変だったのと同性だったのでオロチがかっこいいことを忘れていたが、オロチは普通にかっこいいのだ。
そんな御顔を目の前に持ってこられたらいくら同性でも少しドキッとしてしまう。
ただ、すぐに今はそんな場合じゃないよな、と自分に言い聞かせて頭を振ると苦笑いを浮かべて、
「ありがとう。行ってくるよ。」
オロチに言い残すと、敵の声が聞こえてくる方に進んだ。
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