第12話 天水分神のお願い

「じゃあ僕の支配下に入ってください!」


 俺は右手を差し出しながら頭を下げる。


 いま俺に協力すると約束してくれたし…断られることはないのだろう。

 そう思うと、あまり気負わずに支配下に入るように言うことができるんだなぁ。

「いやだ」

「え?」

「だから、いやだって。」

「えぇ…」


 いまのってどう考えても「うむわかった。よろしく頼むぞ」っていわれるながれだったよね⁉

 何なのこの世界!どうしてこんなにもうまく行かないの⁉


 心のなかでのたうち回っていると、天水分神あめのみくまりのかみがクツクツと笑いながら、言葉を続けた。


「どうやら混乱しておるようじゃが……落ち着け。わしもただで協力してやりたい気持ちはやまやまなのじゃが、流石にそうすると、わしの、ひいては和歌山県の体裁に関わってくる。じゃから、わしの頼みをひよ雪いてくれたら、お主のいう『支配下』に入ることを約束しよう。」

「なるほど…」


 確かに折れが和歌山県のヒトだったとして、自分たちのリーダーが、無条件で、他の県神の支配下になったらさすがに嫌だからな。


 こんな自堕落な神に見えるが、県の内政も考えているあたり、さすが県神だな、と思った。


「事情はわかりました。では、そのお願いとやらを教えてもらってもいいですか?」


「うむ。実はわしは…ってまぁ、もう感づいておるかもしれんが、めったに外に出ないんじゃ。」

 さっきお主が持ってきてくれたお土産で喜んだのは、外に出ないと買えないようなものばかりだったからじゃよ、と微笑みかけながら言ってくる。


 じゃあ、別に桜餅と柿の葉寿司じゃなくてよかったのではないかという思いが頭をかすめたが、一生懸命選んだのが虚しくなるので、心に留めないでおく。


「そんな感じでも大概のことはそれでうまくいくのじゃが、例外もある。それが、賊の問題じゃ。賊というのはわしに逆らおうとする勢力なんじゃが、わしが井戸から出ないことをいいことに好き勝手にしているらしい。本当は近々殲滅させに行こうと思っていたのじゃが、ちょっと、億劫になってのぉ……丁度いいから代わりにやっといてくれんか?」

 それをしてくれたら、支配下に入ると約束しよう。

 そうやってニコッと笑いかける天水分神あめのみくまりのかみに俺は冷静に訪ねる。

「…それって、めんどくさいことを俺に押し付けているだけでは…?」

「まあ、そうとも言う」


 あっけらかんと笑う天水分神あめのみくまりのかみを見て頭を抱える。



 それくらい自分でできるだろ…!


 まあ、それをやったら見返りに自分に協力してくれるなら、美味しい話だ。


「わかりました…。」

「おう、やってくれるのか!サンキューじゃ!」

「はぁ……あ、ちなみにその賊って強いんですか?」

「お主、神なんじゃろ?ならスキルを使ったら一発で制圧できると思うぞ!どれどれお主のスキルは何じゃ…?」


 余談だが、神様限定の能力らしいが相手のステータス画面も見ることができる。


「相手神の名前+ステータス表示」とつぶやくことで簡単に見ることができるので、相手の特徴を調べるのにはお手軽なのである。


 閑話休題それはさておき


 俺のステータスをみた天水分神あめのみくまりのかみの表情がみるみるうちに曇っていく。


「………」

「…天水分神あめのみくまりのかみ?大丈夫ですか?」

「んん、あ、お、おう!まあそうじゃな、生きて帰ってこれることを祈っておるぞ!じゃぁな!」

「ちょっとぉ⁉」


 必死に呼び止めようとするが、天水分神あめのみくまりのかみは井戸の奥に全速力で走っていって、すぐに見えなくなってしまった。


 なぜ、天水分神あめのみくまりのかみがあんな反応をしたのか、思い当たる節は一つしかない。


「俺のスキル、底辺スキルだもんな」


 俺のスキル、『協力』は戦闘どころか、ほとんど使いどころのない底辺スキルなのだ。

 天水分神あめのみくまりのかみがあんな顔をするのも無理はない。


「大丈夫だよね…?」


 俺の不安げなつぶやきは井戸の上の方に伝わっていき、やがて消えた。

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