強敵との遭遇
「行ってきまーす!」
「はーい。気を付けてねー」
「マテオ達を頼んだぞー」
両親の言葉を背に家を出る。
今日は、マテオから依頼された護衛任務で、ホワイト家の三人とグレイスとともにシエラを回る事になっている。
護衛の気を抜かないのは勿論だが、単純に都であるシエラに行くのも楽しみだ。
ホワイト家の門をくぐると、目の前に広がる庭の中央から、桜色の物体が駆けてきた。
「リリー!」
「ソフィー、おはよう」
「おはよう!」
ホワイト家の一人娘、ソフィア・ホワイトだ。
頭を撫でてやれば目を細めて笑う。
まだ六歳であるソフィアは反抗期でもないため、可愛くて堪らない。
間もなくしてマテオとヴィクトリアも出てくる。
「おはようございます。マテオさん、ヴィクトリアさん」
「ああ、おはよう」
「おはよう。今日はよろしく頼むわね」
「はい」
それから少し雑談をすると、大きめの馬車がやってきた。
そこからグレイスを筆頭にオーロラ、ヘーゼル、ジャクソン、トーマスと、五人の軍関係者が降りてくる。
シエラでは私とグレイスのみの護衛だが、シエラに行くために通るハイダ森は
それぞれが挨拶がてらの自己紹介を済ませると、一行は早速シエラに向けて出発した。
アイリア国の都であるシエラは賑やかな街だ。
通路は常に人だかりがあり、客引きの声が絶え間なく響いている。
都に入る手前でオーロラ達とは別れ、五人で都に入る。
役割分担としては、私がソフィアに、グレイスが夫妻に付きっきりで護衛をする形だ。
最初は五人で回っていたが、子供と大人の興味はいつまでもは一致しない。
という事で、途中から役割分担にならって私とソフィア、夫妻とグレイスに分かれて行動する事に決まった。
サラにも釘を刺されていたし、私としては責任重大であるため肩に力が入るが、私の手を引くソフィアはそんな事は関係なしに色々なものを眺めては手に取っている。とても楽しそうだ。
そんなソフィアの影響か、途中からは緊張もほぐれてきて、ベンジャミンや友達にお土産でも買って帰ろうか、なんて考えながら、私も色々なものを見て回っていた。
遅めのお昼を五人で食べ、そのまま五人で行動していた昼下がり、事件は起こった。
五人で通りを歩いていると、視界の先では軍服を着た人間が何人も集まっていた。
何があったのか、と様子を見ていると、近くにいた隊員が話しかけてきた。
「すみません」
「はい」
「この先で現場検証をしているので、あちらに行かれる際には、お手数ですがそちらの裏道を使ってください」
現場検証という事は、重傷者がいるという事か。
「分かりました」
その示す方向に従い、私達は裏道に足を向けた。
「暗いねー」
ソフィアが呟く、
「まあ、裏道だからね」
なんて適当に返事をしながら裏道のちょうど中間まで来た時、頭上に『何か』がいる気配を感じた。
(何?)
素早く視線を上に向ければ、その『何か』がこちらに飛び降りてきていた。
「っ上!」
叫びながら《
直後、
――キィィィィン!
という音が響き、二人の人間が私達の周囲に降り立った。
「へえ、このタイミングで反応出来るんだ」
「どうやら本当に実力はあるみたいだね」
どちらも男だ。手には短剣を持ち、顔には笑顔を浮かべている。
「何者だ!」
グレイスが詰問しても、二人は意にも介していないようだ。
「なあ、俺が魔術師やって良いんだろ?」
私の目の前にいる男が更に口の端を吊り上げた。
こっちの正体を知っているうえで襲ってきたのか。
「ああ。だが、そこのガキが最優先だ。俺がそいつを回収したらズラかるからな」
「へいへい。分かってますよー」
相手は隠す気もないのか、ペラペラと内部事情を喋っている。
そこのガキとは、ソフィアの事だろう。
要は、こいつらはソフィアの回収を誰かに頼まれているのだ。
目的は知らないが、大方都のお偉いさんであるマテオの金か権力だろう。
「グレイスさん。三人の保護を頼みます」
「ああ。だが、無理に攻撃しようとはするな。じきにシエラ軍が来るはずだ」
「了解です」
私の《聖域》の中で、グレイスが私以外を含む小さめの《聖域》を発動させた。
それを確認して、私は自分の《聖域》を解除する。
「最後に聞いておくけど」
私は目の前の男に目を向けた。
「私がミネス軍所属なのは知っているでしょ? それでも投降する気はない?」
「わりいな。あの噂の魔術師と戦える機会を逃すほど――」
男が姿勢を低くする。
「俺は阿呆じゃねえよ!」
こちらに突っ込んでくる。
速い。
《
続いて《
と思ったら、男はいつの間にか握っていた石を投げつけてきた。
私がそれに対処しているうちに、こちらに向かって突進してくる。
それを読んでいた私は自分の目の前に《霊壁》を展開した。
しかし、そこで男は予想外の行動に出た。
手に握っていた何かを空に放ったのだ。
それに気を取られた私は、《霊壁》を素早く迂回してきた男の拳への反応が遅れ、左頬に衝撃を受ける。
――ガッ!
「ぐっ……!」
大きめの《聖域》で距離を取り、体勢を整える。
手加減をして勝てる相手ではない。
私は《
「うおっと!」
しかし、男はそれを軽々と避けた。
大袈裟に避けないのは、絶対の自信を持っているからなのだろう。
「噂通り、ガキの癖に強えなあ」
男が二、三度ジャンプをした。
「じゃ、ボチボチ本気で行くぜ!」
「今まで本気じゃなかったの?」
「アップってやつだよ」
そういって実に楽しそうに笑う男に、虚勢を張っている様子はなかった。
(……あれ?)
その時、私は自分に対して違和感を感じた。
相手は常軌を逸したスピード持った手練れ。この狭い路地では《霊砲》や《
そんな、いわばピンチであるのに――、
(私。楽しんでいる?)
そう。私の心は踊っていたのだ。
ワクワクが抑えきれなくなり、私の口元はいつしか弧を描いていた。
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