霊能者階級検定
「なるほど。養子か……」
アンドリューは腕を組んで考え込む。
「リリーの両親がどこで何をしているのか分からないから何とも言えないが、もしまだ生きているなら今の今まで名乗り出てないのはちょっと普通じゃないと思わないか?」
「まあ、一般的な家庭ではないだろうな」
「だろ? それに、リリーもあの年なら親からの愛情ってのは欲しいはずだし、やっぱり一人で夜を明かすのは寂しいんじゃないか?」
「そうだな……」
閉じられていたアンドリューの目がこちらを射抜く。
「まあ、かなり私情に影響されているとはいえ、お前の意見も一理ある。リリーやあの夫婦に不快感を与えない自信があるのなら好きにしろ。強引に話を進めないなら、俺は止めん」
「……分かった。やってみる」
「ああ」
「邪魔したな」
「仕事を
「ああ。手は抜かないさ、どっちも」
「そうか」
薄く笑うアンドリューを尻目に、グレイスは司令室を辞去した。
その足で自室に引っ込み、計画を立てる。
さて、どうするか。
この話はどちらかといえばエマに希望を与えるだろうから、まずはリリーから攻略するべきか。
「……よし」
充分に話の攻勢を練って、グレイスはリリーの元へ向かった。
————————
「ほらリリー、遅刻するよ」
「今行きまーす」
ベンジャミンに急かされ、リリーは部屋を飛び出した。
今日は、半年に一回の霊能者階級検定日だ。
今日の結果で私が何級霊能者なのか決まる。
「全員揃ったな」
ウィリアムを先頭にして、軍の制服を着て馬に乗った集団が動き出す。
見習いと正規隊員で検定の行われる時間帯が異なるため、ここにいるのは正規隊員だけだ。
……私だけ小さい。明らかに。
警備などもあるため正規隊員は半分に分かれており、正規隊員で一番小さいヘーゼルはもう一つのグループだ。
「今回でA級になんねえとな」
「ああ」
ネイサンと話すグレイスを見る。
彼女が養子だなんだ、という話をしてきたのは三日前だ。
あれから進展はないし、コネを広げる意味で興味はあるけど、養子という話自体にそれ程魅力は感じない。
感じないが、話が中途半端に終わっているので気になっているのも事実だった。
「リリー?」
ベンジャミンに声を掛けられ、自分の馬だけ少しペースが落ちている事に気付く。
「あ、すみません」
ベンジャミンの横に並ぶ。
「不安?」
「え?」
「検定。不安?」
「まさか」
私はにやりと笑った。
「楽しみですよ」
会場はシエラの南にある広大な土地に建設されている。
ここは大きく五か所に分かれており、総勢五十名越えの隊員も五グループに分かれてそれぞれの場所で測定を行う。
検定は主に、
・それぞれの技の強度
・技の発動時間
・技の命中率
・技の強度の調整
の四項目をそれぞれ『一つの技を発動した時』と『複数の技を同時に発動した時』に測定したものと、
・技の種類
・総霊力量
の総合判断で階級が決定する。
ただ、霊術には似たような技がいくつもある。
例えば《
だから、強度や命中率などの測定に使われる技は基本技のみで、攻撃なら
・《
・《霊刃》
・《
の三つ。防御なら
・《
・《
・《
の三つが基本技だ。
優れた霊能者はもっと上級技を使って測定する事もあるらしいが、まだ習得していない私には関係のない事だ。
また、回復技に関してだけはここで実際に行う訳にもいかないため、申告制ということ。
「よっしゃ!」
私は気合を入れて測定場所に向かった。
他の隊員は最後の調整などをしているが、私は特にその必要性は感じなかったので、真っ直ぐに係の元に向かった。
「お願いします!」
「はい。ではお名前を……あれ?」
「あ」
係員と顔を合わせ、私達は同時に声を上げた。
「リリーさん?」
「ジャックさん?」
そう。その係員は、三日前に輩に襲われていた男性、ジャック・ベーカーだった。
「奇遇ですね。こんなところで会うなんて」
「本当だね」
「奥様やソフィーは元気ですか?」
「ああ、元気だよ。あっ、そうだ」
ジャックが手を叩く。
「ソフィーの両親が、是非君にお礼がしたいと言っていたんだ。今度食事でもどうか、と」
「そんな。私は任務をこなしただけですから」
「まあまあ、そんな事は言わずにさ。あいつ、シエラの役人で忙しいからすぐに、とはいかないかもしれないけど、稼いではいるからきっと豪華なのをご馳走してくれるぞ」
「……ちょっと考えておきます」
「ああ。まあたまには俺やエマも本部を訪ねるから、その時また話そう。今は測定もしなきゃいけないしな」
「そうですね」
そこで私とジャックの雑談は終了した。
————————
結論から言うと、私はC級霊能者になった。
「うーん……」
私は
ジャックも驚いていたし喜ぶべき事なのは分かっているが、個人的にはB級くらいにはなれるのではないか、と密かに思っていたのだ。
霊力量は結構評価も良かったし、技の種類や技の強度、発動時間についても悪くはなかったが、問題は命中率と強度の調整だった。
今までそんなに遠距離射撃を行ってこなかったからそんなに意識していなかったが、的の中心を狙うというのはなかなかに難しかった。
また、強度の調整というのも私がそこまで重視してこなかった分野だ。
霊なら特に加減する必要はないし、人間にしても使う相手は犯罪者だ。多少強くしてしまう分には問題ない。
そもそも、強度の調整なんてそんなに必要なものだろうか。
そんな事を心の中で愚痴っていると、向こうからベンジャミンがやってきた。
「リリー」
「あっ、先輩」
「お疲れ。もう全部終わった?」
「はい。結果も出ました。先輩は?」
「俺も。あー、疲れた」
ベンジャミンが伸びをする。
「結果、どうでした?」
そう聞けば、ベンジャミンがピースをしてくる。
「おかげさまでB級になれたよ」
「わあ、おめでとうございます!」
私は拍手をした。
ベンジャミンが今回こそはB級になる、と頑張っていたのは知っていたからだ。
「私はC級だったので、流石は先輩ですね」
「リリー、C級だったの?」
「はい」
「ちょっと結果の紙見せて」
「え? 良いですけど」
私はスコアシートを差し出した。
ベンジャミンが失礼、と紙に目を落とす。
「あー……やっぱり命中と強度の調整か」
「やっぱり、って?」
「これは結構当てはまる定説なんだけど、才能のある人間はこの二つが足を引っ張りやすいんだ。中心に当てなくても威力が高ければ除霊は可能だし、わざわざ意識して加減する必要はないからね」
「先輩も最初はこの二つが?」
「まあ、そうだね」
ベンジャミンは曖昧に頷いた。
まあ、しっかりと頷いたら自分に才能がある、って言っているようなものだもんね。
その時ウィリアムから集合がかかり、話は一旦中断になった。
ウィリアムの話はすぐに終わった。
「警備や除霊のある者は本部へ向かう。非番の者は結果を報告したら好きにしろ」
おおー、という歓喜の声が上がる。
そういえば、と隣を見れば、ベンジャミンも喜色を浮かべていた。
「先輩」
「ん?」
「この後、一緒にどこか出かけませんか?」
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