除霊活動
「行くぞ」
アンドリューの一声で隊が動き出す。
今日は私にとって五回目の除霊活動だ。
スポット内に入るとそれぞれにバラけて除霊を行う。
出現してから経てば経つほど霊は強くなるので、そっちの方が効率が良いからだ。
五回目ともなるとだいぶ慣れてきて、より周りも見えるようになっている。
なかなかに良い視力を使い、遠くにいる霊を発見する。
《
「よっしゃ、次!」
一人密かに気合を入れ、私は次の標的を探しにかかった。
————————
大分時間も経ったところでベンジャミンと合流する。
「リリー、左から来てるよ!」
「了解です! 先輩は右後ろの奴らを頼みます!」
「分かった!」
左から来ている霊の集団に《霊弾》をいくつか浴びせる。
ほとんどがE、良くてもD級であるため、それだけですべて蒸発した。
同時にベンジャミンも近くの霊を全て祓い終えたようだ。
「ナイスです」
「そっちも」
ベンジャミンとハイタッチをする。
「うわああああ!」
奥の方から悲鳴が聞こえてきた。
「び、B級の霊を二体確認!」
同じ声が叫ぶ。
そちらに目を凝らせば、必死の形相で《
「俺が行く!」
精鋭班の中で一番近くにいたアンドリューが駆け出すのと同時に、その隊員の《霊壁》が破られた。
「やばっ!」
私は咄嗟にその隊員の周囲を《
二体の霊が鋭い爪のようなもので攻撃をしてくるが、そこまでの威力ではない。
第二波を防いでいるうちにアンドリューも霊を視認したらしく、その右手から《
「はやっ!」
常軌を逸する速さで飛来したそれは霊達に逃げる隙すら与えず、その身体は一瞬で蒸発した。
「ふう……」
「リリー、後ろ!」
一息吐いたところで、ベンジャミンの焦った声。
「え?」
後ろを振り向くと、視界を白い球が高速で通り抜け、近くに迫っていた霊が蒸発した。
「ここでは一瞬の隙で命を落とす。油断して良い暇なんかねえぞ」
私の後ろに向けていた手を下ろしながら、ネイサンが厳しい口調で言う。
「はい。肝に銘じておきます」
私は内心の動揺を静めながら頷いた。
ネイサンが除霊してくれなければ、間違いなく軽くないダメージを負っただろう。
「大丈夫?」
ベンジャミンが駆け寄ってくる。
その間にも周囲を見回す事は忘れていない。彼もまた熟練者だ。
「はい。少し油断しましたけど、ネイサンさんのお陰で」
「良かった」
ホッとした表情を見せつつ、ベンジャミンが近寄ってきた霊を《霊弾》で祓った。
「今日はここまでだ! 各自、周囲を警戒しながら結界から出ろ!」
アンドリューの言葉に従い、私達も結界から出る。
「な、なあ」
横から声を掛けられる。
そちらを向けば、先程霊に襲われていた男がこちらを不安そうに見ていた。
「あの《聖域》、本当にあんたがやったのか?」
「はい。どうして私だと?」
「司令がさ。あの時霊を視認出来た人物の中で、あれほどの《聖域》を作れるのは君しかいない、と言ったんだ」
「それは光栄な事です」
「あんた、まだ幼えのにすげえなあ。ま、なんにせよありがとよ! お陰で命拾いしたぜ」
「いえいえ。お互い様です」
私が頭を下げれば、男は再度お礼を言いながら去っていった。
「そう言えば先輩。前から気になっていたんですけど、霊って動物の
「そうだよ」
「それにしては数が多くありませんか? 毎日あんなに人や動物が死んでいるとは思えないんですが」
「そう? でも小さい虫とかはよく殺されてるじゃん」
「えっ」
思わず変な声が出る。
「虫も霊になるんですか?」
「あれ、知らなかった?」
「はい」
前世の感覚で、そういうのは大型生物とか知能の高い生物とかだけだと思っていた。
蚊とかも私達に恨みを持ちながら死んでいくのかと思うと、複雑な気持ちになる。
私の表情を読んだのか、ベンジャミンが明るい声を出す。
「にしても、あれだけの距離があってもB級二体の攻撃を防げるなんて、リリーは本当に凄いね」
「有難うございます。でも、それに満足して背後取られましたから、気を付けないと」
「そうだね。いくらリリーが強くても、生身で受けたらやばいからね」
「生身で言ったら最弱の自信があります」
「ははっ」
ベンジャミンが短い笑いを漏らす。
「そこは嘘でも否定して下さいよー」
「ああ、ごめん」
「謝られると余計に
「えー」
などと
「クレアー」
「ん? ああ、リリーじゃん。お疲れー」
茶髪の女の子が人懐っこい笑みを浮かべる。
「友達?」
ベンジャミンが聞いてくる。
「はい。同い年で見習いのクレア・マルティネスです。クレア、こっちが正規隊員で三つ上のベンジャミン・スコットさん」
「えー、その歳でもう正規隊員? 凄いですね」
「そうでもないよ。リリーの方が強いくらいだし」
「え、そうなの?」
「騙されないで、クレア。そんな訳ないでしょ」
「そ、そっか。そうだよね。あーでも、リリーならワンチャン……?」
クレアが首を捻って空を見上げる。
「リリー。クレアさんの前で何をしたの?」
「あ、いや」
誤魔化そうとするが、クレアに遮られる。
「クレアで良いですよ。りりーは、同じ見習いの先輩達に絡まれている時に助けてくれたんです」
「そうなんだ」
ベンジャミンがこちらにジト目を向けてくる。
私はスッと視線を逸らした。
「あれ、私何か変な事言っちゃいました?」
クレアが不安そうな顔になる。
「いや、別にそういう事じゃないし、リリーが悪いとかいう話でもないんだけど」
ベンジャミンが複雑そうな顔をした。
「ほら、リリーは目立つから、あんまり派手な事はして欲しくなくて」
過去にもあんまりよくない形で注目されて注意されたし、ベンジャミンが本気で心配してくれているのも分かっているため、何も言えない。
「ああ、確かに。この見た目で除霊活動参加していますしね」
「そういう事」
二人でうんうんと頷き合っている。
「という訳でリリー。人助けも良いけど、他の人に相談するなりしてあんまり目立たないように」
「私も監視しているからね」
「はーい。それよりさ」
良い子の返事をした後、私は素早く話題を変えた。
「クレア、そろそろ部屋戻らないとじゃない?」
「あっ、本当だ。それじゃ、リリー、ベンジャミン先輩。また!」
「うん、また」
「転ばないようにねー」
クレアを見送り、私達も建物の中に入る。
「でも、良かったよ」
しみじみとベンジャミンが呟いた。
「何がです?」
「リリーにあれくらいフランクな同年代の友達が出来て」
「馬鹿にするな……と言いたいところですけど、幼い子達以外はまだ結構他人行儀なんですよねー」
「クレアは助けた後から仲良くなったの?」
「はい。今でこそあんな感じですけど、絡まれていた直後はむしろ怖がられてましたね」
「ははっ」
納得するような笑い声を上げたベンジャミンを睨めば、彼はさっきの私のようにスッと目を逸らした。
————————
「ふー……」
クレアは自分の部屋の扉を閉め、息を吐いた。
明確な時間がある訳ではないが、見習いは早めに休むように言われており、遅くに部屋の外で見回りに見つかると注意される。
他の隊員はまだしも、副司令のウィリアムに見つかった時はネチネチと説教されて最悪だった。
それをリリーに話すと、
「不器用なだけで、悪い人じゃないよ」
という返事を貰った。お人好しだ。
「それにしても、あのリリーとこんなに仲良くなるなんて思ってなかったなあ」
布団にもぐり込み、クレアは呟いた。
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