溶けだす甘さは心地よく

CHOPI

溶けだす甘さは心地よく

 「気持ちいいー!」

 暖かく穏やかな日差しが窓辺から差し込む午後2時。今日は存外吹く風も優しくて、午前中に洗濯物を片付けられて気持ちがいい。日差しの差し込む窓辺に座りベランダのはためくタオルを眺めながら、予定のないお昼過ぎを少し持て余していた。


 「元気だなぁ」

 なんて言う彼を横目で確認すると、クフクフと優しく笑いながら、部屋から一枚大きめのタオルケットを持ってきた。そのまま窓辺に座り込んでいた私の左横に座り込んで、タオルケットで私と彼自身を包み込む。特段寒さを感じる気候では無かったけど、2人でそれに包まると、2人の体温と春の柔らかな日差しを程よく吸い込んだタオルケットの中は心地いい暖かさになる。


 途端、左肩に重みを感じて視線だけ動かせば、彼の頭が左肩にのっていた。

 「おもたーい」

 別にそこまで思ってもいないから、音だけの言葉を紡ぐ。彼もそれをわかっていて、だから甘える猫のように頭をこすりつけてくる。今日は特にセットをしていないのだろう。彼のフワフワとした髪が私の首筋をくすぐって、ほのかにシャンプーの香りがした。


 甘くて優しく、安心できる空気感に思わず、「ふわぁ……」と小さなあくびが漏れる。こんな日はお昼寝すると気持ちいんだよなぁ……、なんて少しずつ溶けていく思考。

 「眠たいの?」

 彼の声が優しく、少しだけ遠くに聞こえる気がする。抗いがたい優しい眠気に誘われ、目を瞑って自分の頭を、彼の頭に寄り掛かる。

 「ねむたくないよー」

 発した言葉は思いの外覚束ないもので、聞いた彼は「絶対に嘘じゃん」ってクフクフ笑う。でもそれがなんだか嫌じゃなくて、このまま甘くて優しい空気に包まれていたい。


 回らない頭のまま「よる、なにたべたい?」と聞いてみる。彼は決まって「なんでもいいよ」と言う。それ、一番困る返答なんだよなぁ……、と一人胸中で呟く。でもまぁ、いいか。夕方になったら彼を引きずってスーパーに行こう。2人で買い物をしながらメニューを決めるのも悪くない。そんなことを考えていると、姿勢を後ろに倒されて、そのまま彼の抱き枕状態にされる。

 「まだ、もう少しこのまま」

 後のことは後で、考えましょ……、言うか言わないか隣から聞こえてくるのはクゥクゥ、規則正しい呼吸音。

 「そうだね、あとでね」

 私の言葉は届いているのか定かじゃないけど。優しく暖かい日差し、心地よく吹き抜ける風、彼の暖かい腕の中。抗いがたい睡魔に誘われて、やがて私の意識も夢の中に溶けていく。


 ――そんななんでもない、とある春の休日の、とある午後の幸せ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

溶けだす甘さは心地よく CHOPI @CHOPI

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説