2、食い扶持稼げたら何だっていい

 早くて1~2年次、遅くても3年次には、就活の諸々が始まる。まずはお決まりの自己分析、業界分析、企業分析。自分が何をやりたいのか・何に向いているのかを明確にし、方向性を定めるとともに、志望動機へ繋げていく。とかなんとか。

 私はまずこの第一歩からつまずいた。

 なぜか。

 このなんとか分析も志望動機も、全部が全部「就職し労働することが人生の中心である」という前提のもとで成り立っている。「あなたはどんな人生を送りたいですか?」という問いと、「あなたはどのように労働したいですか」という問いがほとんど符合するほどに。


 私の人生の中心は、今までもこれからもずっと「小説」しかない。


 小説を書くために生きてきた。自分の人生の立ち位置は「人生って小説の参考になるなあ」程度のものである。小説の題材にしたいという下心のために学部もサークルも選んだ。「就職先を決めること」と「バイト先を決めること」は私にとってほとんど変わらない。要は、生活をしていくだけの収入が得られればいい。

 私の体は小説を書くための道具にすぎない。けれどこの道具にはけったいな維持費用がかかる。

 人生を送ることは私にとって「手段」でしかないのに、就活ではそれを「目的」として扱うことが前提となる。

 まず、ここが合わなかった。


 食い扶持が稼げるならどこでもいい。あとは小説を書く時間さえあれば。労働での自己実現とか社会貢献とか心底どうでもいい。だからやりたい仕事が見つからない。向いていない仕事はいくつか思いつくが、消去法を志望動機にするのはまずいと、就活音痴の私でもさすがにわかる。

 強いて言えば、小説のネタになるような経験ができればいいな。そんなこんなで、出版社の雑誌部門やら映画製作やらにとりあえず当たりをつけた。


 そして始まる分析ラッシュ。自己分析をすればするほど自分が社会に不適合なことがわかる。自分の内側を見続けることはしんどい。自分がどんな人間なのかなんてこっちが訊きたい。「私って何?」の問いに気が狂いそうになる。まさしく「何者」である。


 あとは業界研究と企業研究。こちらはやることが多くかったるいことこの上ない。業界調べて企業のHP見て競合他社も調べて。眺めるだけじゃ頭に残らないしとりあえずノートを作って。時間も手間もかかることかかること。あとはとにかく情報量が多い。資本金とか見たところでよくわからない。とりあえず福利厚生だけはしっかり確認しておく。望むことはシンプルだ。健康で文化的な最低限度の生活を確保したい。それだけ。

 しかし「福利厚生が充実している」というのは就活ではマナー違反らしい。ステータスだけで選ぶのは失礼だから、建前としてきれいな理由を用意しろとかなんとか。そういうところがだるいんだよな就活。向こうはステータスで選んでくるくせに。


「就活」と書いて「欺瞞」と読む。


 無理やりいいとこ探しをして、さも自分がその業界・企業に入りたくてたまらないという暗示をかける。自分に嘘をつけない人間が。「人生」なるものの維持をするために。やりたくもないのに。

 つらいだろうなと思っていたけれど、この時点でだいぶしんどかった。


 そして幸先の悪いことに、3年次の夏に重い腰を上げインターンシップに応募するも、書類だけでことごとく落ちる。

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