13 梅雨明け
六月中旬から七月上旬にかけて、毎年うっとうしい雨が続く、この梅雨の季節になると私の気持ちも晴れ晴れとしなかった。
雨とは不思議なものである。
雨は人の気持ちを憂うつにする力がある。
毎日降り続く雨を見て、心が楽しくなるという人を私はまだ一度も聞いた方がない。
雨が一日降り続くと嫌な気持ちになるものだが、
一ヶ月中降り続ければ嫌な気持ちを通り越して憂うつになるのも当然のことである。
絵を描くことしか脳のない私には、嫌な雨が一ヶ月も降り続くと落ち着いて絵も描けぬ有様である。
私はあきらめて、例年と同じく梅雨が明けるまで
絵を描く事を断念した。
いよいよ待ちに待った七月中旬、梅雨が明けた。
空は青く、入道雲が一つ二つ、サンサンと照り輝く太陽、裏山では草木が燃え、セミや小鳥たちの宴の真っ盛り、私ばかりでなく動植物の全ての生き物が梅雨の明けの日を待ち焦がれていたのである。
裏山に入ってセミや小鳥たちの宴に耳を傾けると、
何ともいいしれぬ、爽やかさが体全体を包み込む。
天地自然の恵みを受けて、私もやっぱり生かされているのだという事をしみじみ感じる。
私も声を出して宴の仲間入りをする。
すると得体のしれぬ者が来たので、裏山が一瞬静寂になり、数秒もたたぬうちに元の宴が始まる。
私は木々や草やセミや小鳥になったつもりで、
みんなに合わせて、訳のわからぬ言葉を歌にして
大きな口を開け、裏山全体に聞こえる大きな声で歌う。
人が見たら気が狂っているとしか思わないだろう。
でも私はそんな事などお構いなしに、大きな口を開け、大きな声で歌う。
三年前に同じこの山で小鳥や蝉の宴に参加して大きな声で歌っていたら、ハイキングに来ていた人が、気が狂った男が山の中で暴れまわっているので取り押さえてほしいと警察に通報し、三人の警察官が飛んできた。
運良く一人の若い警察官が、
私と同じ部落の人だったので、
「大変失礼しました」
と言って、二人の年配の警察官を促して山を降りていった。
通報した人は、
「どうして、取り押さえないのですか!
あの男は狂っているとしか思えないですよ!」
と、三人の警察官に話をしていた。
今思えば懐かしい梅雨明けの思い出である。
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