⑧ 写真
太陽は頭の真上にあった。
もうすぐなの夏の季節だぁ!と敬一郎は思った。
律子にあんな事を言わなければ良かったと少し後悔していたのである。
今日の自分はどうかしていたみたいだった。
でも、悪い事ではなし良い事にしておこう。
律子さんだって、まんざらでもない風だったではないか。
店を出る時、律子さんが言ったではないか、
また、近いうちに必ず来て下さいね!と、
恥ずかしそうな顔をして。
あの人にとっても、僕にとっても本当はこれが一番良かったかもしれない。
きっと良かったのさ。
と、敬一郎は一人て口の中で呟くのだった。
何ヶ月振りに街に来たついでに映画でも観て帰ろうと思って、映画館の前に行ったら、出入り口の左右に感心しない若い女性の写真が所狭しと貼り付けてあるのである。
商売上とはいいながらも、こんな写真を人の目にさらすという事は、青少年の教育上いけないことだと思い、もう一つの映画館に行ってみると、やはり、同じような写真がいっぱい貼り付けてあった。
これも時代の流れには勝てないのかなぁ?と、
一人で当惑しながら中に入ることなく家路を急いだ。
家に帰ると、机の前に座して詩でも書こうと思ったが、詩を書くどころか、今見て来た若い女性の写真が脳裏にチラついて詩を書くどころではない。
最後(しまい)には、律子とその感心しない映画館の前の写真が二重写しになってきたので、
こんな事ではいけないと慌てて裏に行き、
冷たい井戸水で顔を洗ったら気分がスッキリしたので改めて机の前に座して詩を書き始めた。
手を進めていると、
「チュン・チュン」と、スズメの声がしたので
縁側に視線を向けると、
いつも遊びに来る夫婦のスズメが縁側の傍で昨日の残りのパンくずを二匹で仲睦まじく突いているのである。
なんという微笑ましい姿であろうか。
敬一郎は二匹のスズメにしばらく見惚れ、
爽やかな気分になって手を改めて進めるのだった。
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