② 親友 浜村
日曜日の午後、親友の浜村が久し振りに私(敬一郎)の所に遊びに来ました。
浜村は同級生で幼な友達です。
浜村は気が向いたら酒を一升下げて来て、私と二人で取り留めのない世間話をしながら楽しく酒を酌み交わすのです。
私は一人の時は酒は口にしないのです。
あまり酒は好きではないのです。
だから、アルコール類は家に置いていないのです。
浜村はそれを承知していますので、遊びに来る時には必ずと言っていいくらい一升下げて来るのです。
浜村は実に美味しそうに酒を口に運びます。
酒が体全体に回りますと少し口数が多くなりますが、人の気を悪くするような事は言いません。
愉快になる方だと私は思っています。
酒を飲み出すと浜村は必ずと言っていいくらい
「僕も君のような生活を、一年でもいいからしてみたい」と言います。それも真剣な顔をしてです。
私はニコニコして「ありがとう」と答えます。
浜村は赤くなりだした顔で追い打ちをかけてきます。
「僕は君を思う時、君が世の中で一番幸福な人間であるように思えてしかたがないんだよ。
君は、この地球上で誰からも束縛されないで生きている。それに君は、この世の悪を見ないで過ごしている。いつも言っているように僕だって、君のように悪を見ないで一生を暮らしたい。
僕だけでなく、たいていの人間が僕のような考えを持っているのかもしれない。
君のような人間が一人でも二人でも多くなれば、もっともっと住みよい人間社会が生まれて来るのだと僕は思っている。
でも、遺憾ながら僕達にはそれができない。
なぜ出来ないかというと、単純な事かもしれないが、他の生物と違って生活していかなければならない。
妻や子供の事を考えると尚更そう思うよ。
それに増して人間は、自分以外の人間よりも一つでも二つでも負けたくない。自分だけは上にいたい。
隣近所や同じ会社で働く人や、知り合いの人が家を建てれば自分も負けないで家を建てたいと思う。
これが、人間の本性ではないかと僕は思う。
君はどう思う?
僕は酒が回ってきて、なかなか、いい心持ちだよ」
と言って、浜村は湯呑みに残っていた酒を一気に飲み干した。
私は飲み干した湯呑みに並々とついでやり、私も少々口に含んだ。
一升瓶を見ると、いつの間にか半分空になっているのである。
「あんたが俺の生活を一番の幸福と言ってくれるのは非常に喜しい、また穴があったら入りたいくらい恥ずかしい。
俺だって本当は妻子を持ち、出来るならば家の一つや二つ建ててみたい。
親の為、妻子の為に仕事をする時が男にとって一番の幸福ではないのかなぁ。俺はそう思っているよ。
あんたは俺よりも、何でも持っている。
良いご両親も、優しい奥さん、そして子供も。
そして何よりも、素晴らしい仕事をねぇ。
あんたは、この俺に比べれば段違いに幸福な人間なのですよ」
「どうもありがとう。君は素晴らしい人だよ。
僕は良い友達を持ったと思っている。
君の話を聞くと楽しくなり、明日の仕事にも張り合いが出て来るよ」
と言って、浜村は空になった一升瓶を枕にして、いかにも気持ち良さそうに眠ってしまった。
私も以外と話に夢中になって酒をいつもより飲み過ぎ、頭の中がドラム缶を打ったように気分が悪い。
しばらく横になって目を閉じていると、いつの間にか私も眠ってしまった。
目覚めた時に朝であった。
浜村は知らぬ間に帰っていた。
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