第2話 5月
初めて瑠奈と出会った日から早一ヶ月、私たちは度々図書室で顔を合わせるにつれて良い友達になっていた。
最初は照れてなのかあまり言葉数も多く無かった瑠奈だけど最近は色々話してくれるようになった。それに笑顔も軽率に見せてくれる様になった。これがもう本当に可愛いの、友達がいない私がいうのもアレだけど瑠奈こそ友達が多くて彼氏もいてもおかしくないと思うんだけどなぁ。
「先輩、もう来てらしたんですね。おはようございます」
「瑠奈!おはよう。瑠奈とお出かけなんて楽しみであんまり寝れなくってさ」
「お世辞でも先輩が言うと洒落にならないのであまり…その…」
「ん?」
言葉を詰まらせて毛先を指で弄りながら目線を逸らす瑠奈の顔を覗き込むと、意を決したのか顔を真赤にしながら私の耳に顔を寄せて囁くように伝えてきた。
「先輩、私以外の人を無闇に口説かないでくださいね?」
「くどっ!?ちょ、瑠奈!」
恥ずかしそうにしている瑠奈に癒されていたら不意打ちを食らわされた気分だよ…。思わず赤面させられた私に瑠奈は言葉を続ける。
「先輩はあんまり信じようとしませんけど、先輩を狙ってる人ってすごく多いんですからね?友達が少ない私でも噂が耳に入ってくるレベルなんですから。そんな先輩が口説いたら私が関われる隙がなくなっちゃうじゃないですか」
「大丈夫だよ瑠奈。」
プクッと頬を膨らませて不快感を表現する瑠奈に対して私は胸を張って宣言する。
「私人見知りだから!」
「自信を持って宣言する事じゃないですよ!」
言っていて恥ずかしいけど仕方ないじゃん。そもそも人見知りじゃなかったら普通に友達いるはずなんだよ…。
「私が仲良くなりたいのは初めてできた私の知る限り1番魅力的な後輩で友達だけだから」
「……分かりましたよ。先輩を信じてその言葉を鵜呑みにしてあげます」
「それじゃあ先輩、早速行きましょう!」
◇
私たちは今日初めて二人で外に遊びに来ていた。比較的何でもある京都は大阪などに出なくても洛内まで出れば遊び場も結構点在している。
ゴールデンウィークになったのでいっそのこと遊びに行って見ようという事になったのだ。
「それで先輩、今日はどこに向かうんですか?」
「うーんどう、しよっか」
「わたしたち外に遊びに行く事自体滅多にないですからね…」
「そうだ!映画なんてどお?」
「良いですよ?えーっと、今の時間からだと11時半からアンチャーテッドがやってますよ」
「あのゲーム映画化してたの!?見たいかも!」
「先輩この前あのゲームのストーリーがいいって絶賛してましたもんね。では映画館にいきましょう」
「瑠奈はいいの?」
「はい?」
「その…私の見たい映画で…、瑠奈が見たい映画でもいいんだよ?」
「変なところで気を使うんですねぇ、全く可愛い先輩です」
瑠奈は近づいてくると背伸びしながら私のおでこをコツンと小突いた。
そして慈悲のような笑顔を浮かべながら優しく囁いてくれる。
「私は先輩と一緒に入れるだけで十分楽しいので先輩の見たいもの見ましょう」
「瑠奈…」
「それに先輩の好きなものは私も好きになりたいので!」
さっきは口説くなって怒られたけどこの子の方がよっぽど魅力的だと思わない?私はこの可愛さにいつまで耐えられるのかな…。
◇
京都駅の近くのイオンに入っている映画館にやってきた私達はお目当てのチケットを買うとポップコーンやジュースを買うために列で並んでいた。
「私、一個丸ごと食べれないかもです」
「じゃあ半分個する?」
「いいですね!」
「先輩として今回は私が奢ってあげます。だから瑠奈は椅子にでも座って待ってて?」
「え、でも…」
「いーの!先輩っぽい事したいんだもん。小説でもよくあるでしょ?」
「もーじゃあお言葉に甘えてあげます。でも、そうですね…今度私にご飯をご馳走させてくれますか?」
「ええ!?そっちの方が負担おおき…」
「じゃあそう言うことでっ!待ってますね〜♪」
もう、格好いいところ見せようと思ったのにまたカウンターを貰った気分だよ…。普段は大人しそうな物言いなのに私といる時は結構アグレッシブになるんだよね。それだけ心を開いてくれたって事なのかな。そうだったら嬉しいなぁ。
私は二人分の飲み物とキャラメルポップコーンを買うと待合スペースでちょこんと座って待っている瑠奈の元へ近づこうとした。
声を掛けようとした所、瑠奈が数人の女子高生らしい少女に詰め寄られているのが見てとれた。人も多いから瑠奈とは関係ないと思ってたけど、まさか絡まれてたなんて…。あ、でも友達って事もあるよね、瑠奈は誰が見ても可愛がりたくなる様な愛嬌を持ってるしそれが普通だよね。
楽しく話してるのを邪魔するのも悪いし声を掛けるのを躊躇ってたのだけど、アンチャーテッドの上映開始アナウンスが流れてしまったので仕方なく声を掛けようと近づくと、それまで喧騒に埋もれて聞こえなかった会話の内容が聞こえてきた。
「ねえ、なんであなた見たいな隠キャが神楽様と一緒にいるの!?」
「え、えっと…」
「そうよ!ハーフでちょっと可愛いからって馴れ馴れしくしすぎじゃ無い?」
「私だってすっごいアピールしてるのに声すら掛けてもらった事ないのに」
え…、もしかしなくても私がらみ?神楽様とか言われてるし…。って、ならそもそも友達ですら無かったってこと!?あーどうしよう、もっと早く声かけなきゃじゃん!
よしっ、ちょっと不安だけど瑠奈のために頑張ろう!
「る、瑠奈ー。そろそろ映画始まるから入らないと…」
「先輩…!」
ぐああああ…。普段瑠奈以外の子と喋らないからすっごい気弱な感じに…。カッコわるっ!瑠奈も不安で泣きそうな顔になってんじゃん!しくじったぁ!
私が背後から声を掛けた事に驚いたのか、瑠奈を取り巻いていた少女たちが呆気に取られて一瞬固まった。その隙を見逃さず、小柄な体で隙間を縫うように瑠奈は私の元に駆け寄ってきた。
「…先輩、遅いですよぅ」
「ごめん、友達と話してるのかと思って」
瑠奈は小声で私に少し文句を言うが、その言葉に棘は微塵も感じられなかった。むしろ安堵した様な泣きそうな声音だった。
ここで言い争ったら120%負ける。相手が年下とか関係ない、コミュ障の私がレスバで勝てる可能性があると思う!?いや無いね!そう瞬時に判断した私は少女達が口を開くより前に瑠奈の手をジュース等を持っている方の逆の手で掴むと、逃げるようにシアターへ駆け込んだ。ちゃんとチケットは半券千切ってもらったからね?
席に着くと既に予告編が始まっていた。まぁ本編が始まるまであと数分はあるから大丈夫か。
横の席に腰を下ろした瑠奈は息を深く吐き出して胸を撫で下ろした。何か声をかけてあげたいけどシアター内で不用意に声を出すわけにもいかないので私はそっと瑠奈の手に自分の手を重ねた。比較的小さい私より一回りくらい小さい瑠奈の手は小さく震えていた。
私が早く声をかけ無かったからだよね…、そもそも私と関わったのがダメだった?
そう私が考えたのが分かったのか、瑠奈は私の手に指を絡めながら握り返して来ると耳に顔を寄せて小声で囁いてきた。
「助けてくれてありがとうございます。小説みたいで嬉しかったですよ!…あとですね、優しい先輩の事ですから自分のせいだとか思われるかも知れませんが、そんな理由で私から離れるのは許しませんからね?」
「るっ…!?」
「静かにしなきゃダメですよ?先輩」
驚いた私の口に人差し指を突きつけて黙らせ、天使のような甘い笑顔でこちらを見つめてくる。本当にびっくりするくらい可愛くて、それでいて優しい子だなって脳に擦り込まれた気分だよ。
私と瑠奈は映画が終わるまでずっと手を握ったままなのでした。羨ましい?ダメだよ、瑠奈の手を握って良いのは今のところ私だけなんだから!
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