第11話 一族からの問いかけ (1)

「二人は未だ子供をつくらないの?」


 親戚一同が集う場所、行事の度に、彩達夫妻へと親戚からの問いかけが飛んでくるから。


「えっ!」と、彩はその都度自身の両目を大きく開けながら驚嘆を漏らす。漏らし俯き。彩はその場で腰を折り。己の身を屈め小さくなっていくのだよ。


 だって彩は結婚生活が三年目にもなるのに、未だに親戚一同の期待に応える事もできない。


 そう、夫健太の子供を妊娠、出産をすることができない嫁だから形見も狭く。親戚一同の集いでは、『彩さん、子供は未だなの?』、『子供を産む鬼がないの?』、『彩さんはもしかして子供が嫌いなの?』と質問、問い合わせの度に彼女は段々と小さな小石のようになっていくしかない。


 だから彩は本当の所、親戚一同の集まりにはいきたくはない。顔をだしたくはないのだが。


 彩の夫健太は上島家の本家の長男、跡取り息子と言う奴だから嫁の彩が顔を出さない訳にはいかないから。


 彩自身は夫の叔父や叔母、祖父に祖母と従姉妹達に問われる度に。


(私が、私が悪い訳ではないのに……。只毎日頑張ってみても私達に子供を神様、仏様が授けてくれない……。コウノトリさんが運んでくれないだけなのに……)と。


 彩は自身の奥歯と拳をグッと強く噛み締め、握りながら。自分の事、嫁としての役割、所業を全うできならと嘲笑い。蔑み。愚弄をしてくる一族の者達の冷淡、冷ややかな瞳、眼差しからいつも耐え忍ぶ生活を続けている。続けていると。


 彼女の横に座る夫健太が彩の急変──気落ち落胆している様子。


 それも俯く彩の顔を良く見て確認をすれば、自身の瞳を潤ませているのが。


 彼女の真横に座る夫健太の目、瞳に映るから。


「……嫌々、そんな事はないよ。叔母さん。僕と彩も毎日頑張って励んでいるのだけれどね。中々できないだけなんだよ。こればっかりは天からの授かりものだから」と、健太が彩の事庇うように言葉を漏らせば。


「そうか?」

「そうなんだ?」

「それは知らなかったよ」と。


 夫健太の話を聞いて親戚の者達は一応は納得をした言葉、台詞を彩達夫婦へと漏らす。呟いてはくれるのだよ。


 その時、この時、あの時はね。


 でもまた月日が経ち、親戚一同の寄りが、宴がある正月、盆で会えばまた同じ言葉、台詞を告げる。呟く。


「ああ、未だ二人は子供ができないのかい。もうそろそろ私達はねぇ。あなた~」

「うん、俺達も孫の顔が見たいよなぁ」と。


 義母、義父が嘆くように呟けば。


「儂も曾孫の顔が見たいものだ。なあ、母さん……」

「ええ、あなたの言う通りです。お父さん」と。


 祖父と祖母迄もが彩達夫妻へと嘆くように曾孫が見たい。抱き締め。抱きあげたいとプレッシャーをかけてくるのだ。


 ……だけではいのだよ。


「健太も彩さんも早く子供を作らないと。二人ともいつまでも若くはないのだから。早く。さっさと産んで、後で楽をする方がいい」とね。


 そんな事は彩達夫妻でもわかっている。理解ができる事を二人の気持ち等考えないで親族一同はお酒に酔えば、酔う程に平然と告げ。彩達夫婦を中傷する台詞を漏らし、呟き続けるから。


 彩は家に帰ると毎度、毎夜のように。


「あなた。私はもう親戚の寄りにはいきたくありません。いくらお正月やお盆だとしてもいきたくはありません」と、泣きながら不満を漏らすのと。


「あなた、早く私を妊娠させてください。子供授けてください。お願い。お願いします」と。


 彩はやはり泣きながら夫健太に対してベッドの上、彼の胸、腕の中で優艶、艶やかに甘え、戯れ、交わり鳴きながら夜明け近くまで、自分自身に子が早く宿る事を願い続ける事も多々ある。


 だから彼女、彩のストレスはピークに達する程溜まっていくのだった。



 ◇

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る