第29話 ダンジョン実習当日

 ダンジョン実習の当日の朝。

 新世代育成高校からバスで西に3時間ほど移動したとある山林地帯に、実習着に身を包んだ生徒たちが武装して集まっていた。


「ではこれより、ダンジョンにおける特別実習のルールの最終確認を行う」


 説明を担当するのは1年A組の担任である金剛寺だ。

 金剛寺は生徒たちの前に立つと、マイクを持って進行を始める。


「ダンジョンに滞在する期間は、今日昼から明日18時にかけての二日間。事前に申請、あるいは通達されたパーティーごとに、自由に行動することが基本だ。各パーティには人数に応じて見守りの人員が付き、期間中に危険だと判断された場合のみ介入することになっている。逆に危険と判断されなければ実習は継続となるので、気を抜かないように。君たちも知っての通りこれから行くダンジョンはFランクの階層型ポータル式だ」


 ダンジョン方式や出現する魔物に関しての注意点などはすでに知らせている。

 多くの生徒たちにとって、ここで話される内容は本当に最後の確認でしかない。


「――この実習のメインミッションは、1層のポータルから3層の帰還ポータル前にあるゴールまでたどり着くこと。これを達成した者は各自5万ポイントを支給される。多くの者はこのメインミッションの達成に時間を使うことになるだろう。しかしそれを軽々と乗り越えてしまう生徒も、中にはいる」


 シェリルは一瞬だけ、金剛寺と視線が合った気がした。


「そういった者のために、サブミッションとして各階層にチェックポイントというものを用意した。チェックポイントを通過した者には、各自5万ポイントが報酬として追加で支給される。チェックポイントは各階層に1ヶ所ずつだ。場所は事前に知らせていた通り……いいか? チェックポイント探索はあくまで余裕のある者たちのために作った処置だ。今回の実習の真の目的は、他人とのダンジョン探索に慣れること。だから決して、無理だけはするな」


 事前の情報によればチェックポイントはどれも、進行用ポータルからかけ離れた位置にある。

 金剛寺の言うように、余裕のある者たちでなければ通過は厳しいだろう。

 チェックポイントについての説明は、ざっくりとしかされていない。

 教師は立っておらず、仮設トイレとIDカードのタッチパネルがあるとだけ書かれていた。


「最後に、期間は二日としているが、あくまでそれは実習期限にすぎん。一日で帰還しようが期限間際に帰還しようが、支給ポイントに変化はないということを伝えておく……以上だ。では各パーティごとに、決められた順にならってダンジョンへ向かうように」


 金剛寺がいなくなると、教師の指示に沿って生徒たちが動き出す。

 シェリルたち三人は、集まって教師の指示を待つ。

 ポータルのある小屋に生徒たちが消えて行くのを見て、シェリルは訊ねる。


「美珂ねえ、私たちの番っていつ?」


「一番最後だよ。一つ前が藤堂君たちのパーティだったと思う……たぶんだけど、チェックポイントを回れるようなパーティほど、後ろになってるんだと思う」


「正解だ、朝比奈姉」


 美珂の予想に低めのアルトの声で答えたのは、三人も良く知る人物だ。


「ルイズ先生!」


「やあ、昨日ぶりだね有希君……私が君達のパーティを担当することになった。まあ君達に限って滅多な事は起こらんだろうが、気を付けたまえ」


 ルイズの言うように、滅多な事など起こり用もない盤石な布陣である。

 何せ三人は、事前に同じ形式のダンジョンを、3層までたった4時間で踏破しているのだから。


「さて、そろそろ並ぼうか」


 ルイズに促されるまま、三人はポータルへの行列に並ぶ。

 すると、列の前にいた藤堂が歩み寄り、シェリルへ話しかけてきた。


「やはり君らが最後だったか」


「うん……それとやっぱり、持ち武器はロングソードじゃなかった」


 藤堂の背負う巨大な盾と、腰に差した細身の剣を見て、シェリルは言う。


「あの時は模擬戦だったからな。大剣を叩くには細身の模擬剣だと厳しいんだ」


 思った通り、武器を変えていた。

 本来の戦闘スタイルは大盾を使ったブロッカーなのだろう。

 しかし模擬戦で披露した戦い方は、他の武器の特徴を理解した上でのものだった。

 やはり藤堂という人物は場慣れしている。


「こちらからも聞いて良いか?」


「なに?」


 ずいぶんと愛想のない返事のように聞こえるが、別にシェリルに他意はない。

 当然、藤堂もそんなことは分かっているので、気にせず続ける。


「君は上へ行くために、魔法が必須だと思うか?」


 真剣な表情で藤堂は問う。

 それにシェリルは即答した。


「うん、必須だと思う。魔物には物理攻撃が通用しない相手だっているし、強力な魔法攻撃を防ぐには魔法で対抗するしかない場面だってあるから。物理だけならたぶん、Cが限界」


「そうか……とても参考になった」


 藤堂は目を閉じると、静かにそう言う。


「何か力になれることがあれば、遠慮なく言ってくれ。実習、健闘を祈る」


 手を軽く上げて、藤堂は列へと戻って行く。

 その様子を、美珂とシェリルは不思議そうな顔で見つめていた。



 しばらく経って列が掃けて行き、シェリルたちの順番が訪れる。


「君たちで最後だな」


「金剛寺先生」


 ポータル前には金剛寺と数人の教師が立っている。

 教師陣は生徒全員を見送ったあとから、順に見回りに向かうことになっていた。


「君たちの実力は間違いないが、それでもダンジョンでは何が起こるか分からない。気を抜かんようにな」


「はい!」


 三人は揃って返事をする。

 それに頷いた金剛寺は声を上げた。


「よし、行ってこい!」


 言葉に押されるように、三人はポータルに消えてゆく。


「ルイズ先生も、見守りお願いします」


「任せておけ」


 そう言ってルイズも三人の後に続いた。

 波乱の特別実習は、もう始まっている。




※初レビュー頂きました……! ありがとうございます!


※明日はお休みしようと思います。

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