第24話 冒険者登録

 カフェを後にした一行は、学校の敷地内にある、一際目立つ建物へとやって来ていた。

 その建物は暗めの建材で建てられており、入り口上部には剣と盾、杖のエンブレムが装飾されている。

 そう。ここはファンタジーの定番、冒険者ギルドだ。

 三人はドアを開けて中へ入ると、中を見回す。


「外は冒険者って感じだけど、中は結構現代的だよね?」


 有希が言うように、ギルド内は現代の市役所のような作りをしていた。

 受付カウンターが用途ごとに分かれ、カウンターの上部には、呼び出し番号が書かれた液晶掲示板が取り付けられている。

 また、カウンター左にある階段を上ると資料室、右奥にあるドアの先が屋外試験場だ。

 冒険者ギルドと聞いてイメージするような酒場や食堂はない。

 代わりに、待合室には大人数がかけられるテーブルや椅子がいくつか置かれ、カップ麺や保存食などの一風変わった自販機が点在していた。


「こっちの方が便利なんだろうね~。学校の中もほとんどデジタル化されてるし」


 校内はIDカード一つあれば大抵のことができる。

 敷地内に建てられた冒険者ギルドでも、例に漏れずIDカードが使えた。


「人、多いね」


 シェリルの言うように、建物内にはかなりの人数がいた。

 待合室のテーブルには学生で半分ほど埋まっており、カウンターにも数人並んでいるのが見て取れる。

 三人はここへ来た用事を済ませるために、それぞれ冒険者新規登録と書かれたカウンターに向かう。

 新規受付のカウンターは3箇所あり、シェリルは一番端のカウンターに足を運んだ。


「冒険者登録をお願いしたいのですが」


 シェリルが言うと、カウンターの女性が応じる。


「はい、新世代育成高校の学生さんですね? IDカードをお借りします」


 言われた通りIDカードを手渡す。

 受付嬢は受け取ったIDカードを手元のパネルにかざすと、シェリルへ返却する。


「冒険者についての説明は必要ですか?」


 入学時に説明を受けていたため内容は概ね頭に入っていたが、念のため聞いておく。

 「お願いします」とシェリルが言うと、受付嬢は説明を始めた。


 冒険者とは簡単にいえば、ダンジョン探索を中心に生計を立てる何でも屋だ。

 ダンジョンに潜って魔物を討伐し、そのドロップアイテムを換金することが主な活動となる。あるいは稀に見つかる宝箱の中身を売りに出すのでも良い。

 また冒険者は武器の携行が許される代わりに、街中に魔物が出現した場合、出現した魔物と自身の冒険者ランクに応じて討伐、あるいは住民の避難を手伝う義務が生じる。


 続いて、冒険者ランクについて。

 冒険者ランクの意義に関しては最近聞いたばかりなので、その先の戦陣評価についてシェリルは教えて貰う。


 戦陣評価とは、文字通り九つあるポジションごとの評価。

 その意義は、冒険者の得意な戦陣を可視化し、役割を明確にするためにある。役割が明確になることでパーティが組みやすくなったり、混成パーティでの指揮が取りやすくなったりするので重要な要素だった。

 冒険者証には九つの戦陣評価欄があり、最も高い評価が冒険者ランクに反映されるようになっている。


 その後も基本的な説明を受け、しばらく経って話が終わると、「待合室でお待ちください」と番号の書かれた券を手渡される。

 それを持ってカウンターを離れると、美珂が話しかけてきた。


「シェリル、受付は終わった?」


「うん。待合室で待ってて、って」


「私たちと同じだね。呼ばれるまで、有希と一緒に待ってようか」


 空いてる席に三人で座り、時間が来るまで待つ。

 少し経ち、液晶掲示板の番号が自分たちの番になると、受け取り口へと向かう。


「シェリルさんですね? お待たせしました。シェリルさんは特殊な推薦を受けています。IDカードを確認したところ、新世代育成高校からDランク、そしてギルド本部からもDランクを推奨されていました。よって冒険者ランクはDランクになります……問題ありませんか?」


「はい、大丈夫です」


 受付嬢の確認に、シェリルは頷く。


「それでは、こちらが冒険者証と領収書です。ご確認をお願いします」


 紫色の冒険者証と領収書がトレーに乗って差し出される。

 冒険者証を手に取り、書かれている内容の確認を行う。

 

―――――――――――――――――――――――――――

冒険者登録証 階級【Dランク】 No.00000003027-00081

・朝比奈シェリル ・女 ・2017年12月6日生まれ

・志望戦陣:アタッカー ・魔法使用:可

・戦陣評価 ATK  SPT BRK

   前衛【D+】 【D】【D-】 

   中衛【D+】 【D】【D-】

   後衛【D+】【E+】【D-】 

―――――――――――――――――――――――――――


 アタッカーへの評価が非常に高い。これは恐らく『ブリッツショット』が原因だろう。逆に、後衛サポーターへの適性が低いのは、『ブリッツショット』が見方を巻き込むことがあるからだ。プラスとマイナスは該当ランクの中で、上位か下位かの違いとみて間違いない。


 次に領収書を確認すると、3000ポイントが引かれていた。

 登録料にしてはかなり高い。


「――確認しました」


「はい、ありがとうございます。それと注意点です。冒険者証は耐久性に優れた特殊な素材を使用しているため、再発行にはお金がかかります。紛失にはご注意ください。手続きは以上となります」


 そう言って受付嬢は丁寧にお辞儀をする。

 シェリルも軽く頷くと、やはり先に登録を済ませていた美珂たちのテーブルへと向かった。


「ねえシェリル、ランクはどうだったの?」


 有希の問いにシェリルは答える。


「Dランクでアタッカーは全部Dプラス。学校から推薦されたみたい」


 ギルド本部からの推薦のいうのはあえてぼかす。

 有希は驚きに目を丸くする。


「……美珂の言った通りだったね。シェリル、凄いなあ……私も追いつけるように頑張らなきゃね!」


「私はたまたま強力な魔法を使えただけだから。私も追いつかれないように頑張るよ」


 シェリルはそう言うと、続けて訊ねる。


「ところで有希と美珂ねえはどうだったの?」


 シェリルの問いに、有希が元気よく答える。


「私はF! 前衛サポーターがFだったよ!」


 そう言って、有希は二人に緑の冒険者証を見せた。


―――――――――――――――――――――――――――

冒険者登録証 階級【Fランク】 No.00000003025-00081

・市ヶ谷有希 ・女 ・2017年6月12日生まれ

・志望戦陣:前衛サポーター ・魔法使用:未定

・戦陣評価 ATK  SPT  BRK

   前衛【F-】 【F】 【G+】 

   中衛【G+】【F-】 【G】

   後衛【――】【――】【――】 

―――――――――――――――――――――――――――


 サポーターに特化しているのかと思いきや、前衛アタッカーの評価も高い。実技上位に食い込んだ実力は伊達ではないようだ。

 二人して関心の眼差しを浮かべていると、有希は照れたように冒険者証を仕舞い、


「美珂はどうだったのっ?」


 と、聞いた。

 美珂はそれに応じて、有希と同じ緑の冒険者証を取り出す。


―――――――――――――――――――――――――――

冒険者登録証 階級【Fランク】 No.00000003026-00081

・朝比奈美珂 ・女 ・2017年4月5日生まれ

・志望戦陣:前衛アタッカー ・魔法使用:未定

・戦陣評価 ATK  SPT  BRK

   前衛【F+】 【F-】【F-】 

   中衛【F】 【G+】 【G+】

   後衛【――】【――】【――】 

―――――――――――――――――――――――――――


「私も有希と同じFランク。見ての通り、前衛アタッカーがFプラスで中衛アタッカーがFだよ。中衛がこの評価なのは薙刀も使えるからだと思う……でも、これからは前衛に特化させていくつもりだから、薙刀を披露することはなさそうかな」


 そう言って美珂は苦笑する。

 美珂はこんな反応をしているが、メイン武器とワンランクしか変わらないほどの練度は相当なものである。

 その苦労を良く知る二人に尊敬の眼差しを向けられ、美珂は少しだけむず痒そうな表情を浮かべた。



「――そういえば、冒険者登録するときに試験とか無かったよね。なんでだろう?」


 少しの間三人で話をしていると、不思議そうな顔をした有希が、そんな疑問を口にする。


「たぶん、私たちの受けた入学試験が、冒険者試験の代わりになってるからだと思う……ほら、IDカードを渡したでしょ? あの時に情報がやり繰りされるんだよ」


「ああ、そういうことかっ! 私たちの成績確認と支払いを同時に済ませるなんて、よく考えられてるなあ……ところで美珂、一つ聞いても良いかな?」


 納得したような表情で手を打った有希は、声のトーンを少し落として訊ねる。

 美珂はほんの少し早まる鼓動を隠しながら、「どうかしたの?」と問い返した。


「朝比奈師匠――朝比奈博司さんと美珂って、もしかして親戚だったりする?」


「っああ、うん。朝比奈博司は私の祖父だよ。同時に師匠でもあるけど……祖父を知ってるの?」


 どこか安堵の笑みを浮かべて答えた美珂に、有希は目を輝かせる。


「そりゃあ知ってるよ! 姉のお師匠さんで、物凄く強い人なんだもん。昔一度だけ、あの人が女の子を連れてるところを見かけて、そのときの子と美珂が重なって見えたんだけど……やっぱりそうだんたんだっ!」


 長年の疑問が解消されたような、清々しい表情を浮かべる有希は、そう言って声を弾ませた。


「それにしても、この学校の人たちはみんな凄いよね……普通の人を今のところ見たこと無いや」


 有希はそんな風にしみじみ言う。

 と、ここでずっと黙っていたシェリルが口を開く。


「この学校に普通の生徒はいないと思う」


 当たり前の事実を語るように告げられ、有希は硬直する。

 その様子を見て、しまったと思ったシェリルは、慌てて言い被せる。


「……いや、普通の実力だと入れないって意味。みんな凄いって……うう、日本語難しい」


「あ、はは……そうだよね、まだこっちに来て一年経って無いんだったよね……」


 そんなシェリルの様子に、どこか安堵の表情を浮かべた有希。

 その横顔をたまたま目撃した美珂は、不思議そうに首を傾げるのだった。

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