第23話 同好会設立

「君達、待たせたな」


 数分経って、金剛寺は一人の教師を連れて戻って来た。

 その教師を見て、有希は驚いたように名を呼ぶ。


「――あっ、アージェント先生!」


 ルイズ・アージェント。

 部活と話題を二分する、もう一人の人物がそこに現れた。

 名前を呼ばれたルイズは、有希へ言う。


「ルイズで良い。毎度毎度アージェントは長いからな……それと良ければ周囲の友人にも、そう呼ぶように伝えておいてくれ」


「分かりました、ルイズ先生!」


 有希は手を上げて、元気よく肯定する。

 そんな様子にルイズは少し目じりを和らげ、シェリルと美珂の二人とも軽く会釈をした。


「君達も知っての通り、ルイズ先生だ。要件を話したところ、引き受けてくれた……で、構いませんよね、ルイズ先生?」


 金剛寺の言葉にルイズは頷く。


「ああ、もちろん構わないとも。私でよければ引き受けよう」


「だそうだ。君達は問題ないか?」


 金剛寺の確認に三人は顔を見合わせる。

 担任に顧問を頼みに行ったら、なぜか話題沸騰中のルイズがやって来た件。

 金剛寺には悪いが、海老で鯛を釣ったような気分だ。

 むろん、三人に否はない。


「お願いします」


 三人はそう言って、顧問ルイズを歓迎する。

 それにルイズも、


「困ったときはいつでも相談してくれ」


 と応じた。

 一段落したのを読み取った金剛寺は、席を立つ。


「……ではルイズ先生、俺はこれで失礼します。押し付けたみたいになって、すみません……君達もせっかく誘ってくれたのに悪かったな」


 金剛寺の言葉にルイズは首を振る。


「気にしないでくれ金剛寺先生。私の方が適任だと見たのだろう? それに恥じぬよう努めてみせるさ」


 同じく三人もルイズを紹介してくれたことに礼を言う。

 それらを受け取った金剛寺は、自身のデスクへと戻って行った。


「さて、では同好会設立に向けての最終確認をしよう。これから読み上げていくから、相違があれば言ってくれ……同好会名、新世界研究会。活動内容はダンジョン探索と、魔法や武術などの研究。メンバーは1年A組の朝比奈シェリル、朝比奈美珂、市ヶ谷有希の3名。このうちリーダーは朝比奈美珂。顧問は……私だな。あとは魔法実験が可能な部屋と、練習場の優先使用権を求む、か。ふむ……」


 そこまで言って、ルイズは何か思案するかのように黙り込む。

 何か問題でもあったのかと、シェリルと有希は心配そうにルイズを見つめる。

 そんな二人に代わって美珂が訊ねた。


「あの、もしかして同好会部屋、取れなさそうですか?」


「……ん? ああ、すまない。私が考えていたのはそちらではなくてね……」


 問いかけに少し遅れて返答したルイズは、申請用紙に書かれた、魔法実験が可能な部屋、の部分を指さして続ける。


「魔法実験と書いているのなら、三人のうちの誰かが魔法を使えるのだろう? 私はそれに興味を持っただけだ……それと、同好会部屋は恐らく確保できる。基本的に申請した順で振り分けられるからな。問題は練習場の優先使用権だが……混み合うことが予想されるので少々厳しいかもしれん」


 現状、魔法を使用できるのはシェリルだけ。

 なので同好会部屋を確保出来ても、作業できるのはシェリルだけになってしまう。


「人数が少なければ、逆に端の方を借りられたりしませんか?」


 美珂はダメ元で聞いてみる。


「交渉してみないことには分からんな……同好会の承認はこの後の職員会議で行われる。その時にでも聞いてみよう」


「ですよね……」


 今はその可能性に賭けるしかなさそうだ。

 とにもかくにも、これで一通り確認を終えたことになる。


「最終確認は以上だが、他に何か問題点はあったか?」


 特にない。

 三人はそのことをルイズに伝える。


「そうか。まあ、練習場に関しては私にも当てがある。校内で使用権を取れなければ、多少手間だが校外に行けば良い……同好会の承認は、今日の職員会議で行われる。まず間違いなく通るだろうから、明日から活動可能だ。詳細は今日の18時頃、各自の端末にて通達されるので、確認しておくように……これで受理は完了だ。では、私はこれから会議があるのでこれで失礼する」


 用紙を手に、ルイズは職員室奥へと去って行く。

 それを見送ったシェリルたちも、職員室を後にする。



「それにしても、驚いたよね? まさかルイズ先生が顧問になってくれるなんて!」


 まだ初日にも関わらず、ルイズはあっという間に生徒たちの憧れの的となった。

 有希から見ても、ルイズという教師は憧憬に足る人物だ。

 授業は分かりやすく、生徒思いで情熱的な一面も持ち合わせ、おまけに美しく格好いい。

 ルイズ本人が何一つ狙っていないのが、なおのこと好感度を上げていた。


「ん、私もそう思う。先生の知識は、私の魔法をもっと良くできる。そんな気がする」


 有希に続いてシェリルも言う。

 シェリルは、ルイズという教師が信用に足ると知っている。

 自分の正体を知る金剛寺が紹介したのだ。わざわざ信頼できない者を寄越すはずがない。

 シェリルの見立てでは、ルイズもまた、自分の正体を知る者の一人だと認識している。であるならば自重は不要だろう。


「ところで私たち、勢いで同好会なんか作っちゃったけど、具体的にいつからどんな活動するか決めてないよね? 一度どこかで話し合わない?」


 話がスムーズに進み過ぎて忘れていたが、同好会設立を考えてからまだ1時間くらいしか経っていない。

 もう少し中身を詰めていく必要があると、美珂は提案する。

 その意見に有希も同意して言う。


「あっそれ賛成! なら、カフェで話さない?」



◆◆◆



 有希の提案に乗ってカフェへと向かった三人。

 世間ではティータイムと呼ばれるような時間。混み合いを予想して少し速足で向かったものの、思いのほか席は空いていた。


「結構空いてるね~。部活勧誘とか忙しいのかな?」


 今朝の教室内での評判を聞けば、もう少し客足があってもよさそうだが、席は半分ほどしか埋まっていない。


「うん。それと来週あるダンジョン実習のパーティ決めとかもありそう。私たちはもう決まってるけど、そうじゃない子も多いだろうし」


 この三人が初日に組めたのはほとんど奇跡のようなものだ。

 注文を終えて、三人でドリンクを受け取る。シェリルは一つ、パンケーキも頼んでいた。

 メニューの乗ったトレーを持って、三人は適当な席へ座る。


「ダンジョン実習かあ……私たちが参加するのって、特別実習だったよね? 何人くらい来ると思う?」


 ダンジョン実習は、全員が参加可能な基本実習と、実技成績上位50名が過半数を占めるパーティのみ参加できる特別実習がある。

 基本実習はGランクダンジョンで行うのに対し、特別実習はFランクダンジョンで行う。当然、危険度も難易度も後者の方が高い。

 上位50名に余裕でランクインしている三人は、当然、特別実習を希望していた。


「ううん……この学校へ実技で入って来た生徒なら特別実習を選ぶだろうから、50人以上はいると思う。私達以外の参加パーティが9人全員揃えた場合、最大で84人だけど……そこまで増えることは無いと思う。たぶんだけど、60人前後になるかな」


 大まかな予想を美珂は提示する。


「はえ……結構多いね。バス一台じゃ済まなさそう……というか今更だけど、私たちまだ陣形とか決まってないよね」


「陣形?」


 それまでパンケーキを無言でほおばっていたシェリルが聞き返す。


「そう、陣形。教科書には戦陣って書かれているんだけど、要はダンジョン探索をより安全に、効率的に探索するための布陣みたいなものだよ」


 有希は説明を始める。

 戦陣は今のところ9種類。

 前衛、中衛、後衛の三種を基準に、アタッカー、サポーター、ブロッカーの三つの役割がそれぞれに振り分けられている。


「アタッカーが攻撃役。サポーターがアタッカーとブロッカーの援護役。ブロッカーがアタッカーとサポーターの守備役。配置の基準は武器や攻撃時のリーチ、場合に応じた役割で変わるよ。近接武器なら前衛、槍や遊撃なら中衛、魔法なら後衛、みたいな感じ……ちなみに私は前衛サポーター志望。武器はナイフだよ」


 有希は座ったままナイフを構えるポーズを取る。

 その姿は確かに様になっていた。


「おおお……有希、かっこいい」


 シェリルが目を輝かせて言うと、有希は照れたように笑う。


「えへへ……でしょ? ……ところで二人はどうなの?」


「私はアタッカーならどこでも。武器も魔法も両方使えるし、たぶん遊撃が一番良い」


 シェリルに続いて美珂も言う。


「私は前衛アタッカー志望だよ。武器は刀。陣形は私と有希のツーマンセルに、シェリルが遊撃で暴れてもらう形になると思う」


「私は美珂をサポートすれば良いんだよね?」


「うん、そうしてくれると嬉しいかな。とはいえお互いの実力とかちゃんと知らないし……実習前に最低一回はダンジョン探索に行って、連携の確認とかしたいね」


 美珂の言葉に二人も同意する。


「有希、明日の放課後、空いてる?」


「うん、特に予定はないかな」


 有希の返事に美珂は満足そうに頷き、


「それじゃあ明日の放課後、同好会の活動として、第1回ダンジョン探索へ向かおうと思います! そのつもりでよろしくね?」


 と、宣言をした。

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