第25話 同好会、始動
翌日。
今日まで午前授業のため、学校は昼までとなる。
ホームルームが終わり、昼食を学食で済ませた三人は、職員室を訪れていた。
顧問ルイズに会うためである。
「来たか」
そう言って出迎えたルイズは、三人を職員室のデスクスペースに案内した。
「きのう通達したように、同好会の活動が認められた。それに応じて部室も与えられている。場所は本校舎7階の第二実験室だ。壁は通常よりも頑丈だが、あくまで多少なので気を付けるように。加えて、活動内容は私が認める範囲で自由……極端な内容でなければ、私が止めることはない。何か質問は?」
事前に通達された通りの説明だ。
ただ一つ、気になっていた情報が無い。
「屋外練習場は使えなさそうですか?」
美珂の問いに、ルイズは頷く。
「そうだな。すでに使用権に関しては5つの部が主張している。我々が間に入るのは分が悪いだろう……まあ心配するな。高尾山ダンジョン前の練習場を借りられるように話は付けている。手間だろうが、そこへ行けば人数も少ないうえ、強度の高い練習も可能だ」
どうやって話を付けたのか有希は疑問に思ったが、頭を振って、別の質問をする。
「あの、私たち今日からダンジョン探索に行く予定なんですけど、これって同好会の活動に入れでも良いんですよね?」
通常、同好会の活動には費用が下りず、公欠も認められない。
しかし例外も存在する。
それは、同好会活動で一定の成績を収めた場合、内容に応じて活動費用が下り、公欠も承認されるというものだ。
つまり、普通に部活動と同じだけの扱いを、学校側からされるということである。
そのためには、同好会の積極的な活動が必須。
ダンジョン探索が同好会の活動として認められるというのは、とても重要な事だ。
「ああ、構わないとも。活動内容にダンジョン探索も含めただろう? なので心配はいらない……ところで、今日はどのダンジョンに向かうつもりだ?」
ルイズの問いに、有希は胸を張って答えた。
「滝山ダンジョンですっ!」
◆◆◆
滝山ダンジョンは、滝山城跡の入り口から少し外れた位置にある、Fランクダンジョンだ。Fランクダンジョンは市内に2つあり、そのうちの1つである。
出現する魔物は動物系が多く、ダンジョン方式は階層型。
ダンジョンには自然型と階層型という、二種類の構造が存在する。
シェリルの脱出した両神山ダンジョンのように、一層だけで構成されるのが自然型。逆に、何層にも渡って異なる空間をもつのが階層型だ。
階層型ダンジョンは、出入り口や階層の間を、階段やポータルなどで繋いでいる。
実を言うと、日本に存在するダンジョンの8割以上が、この階層型ダンジョンであった。
「君達、もうすぐで目的地だ。降りる準備を」
学校を出て数十分。
シェリルたち四人は、ルイズの車で滝山ダンジョンの近くへやって来ていた。
運転手は、ルイズが転移時から世話になっている女性。ルイズの正体は当然のこと、シェリルの本当の出身地だって知っている。
少し経ち、車はダンジョン近くの駐車場に停車した。
各自、探索用の装備や武器を持って、車を降りる。
運転手の女性を見送った一行は、ダンジョンの前に建てられた冒険者ギルドへ顔を出す。Fランクダンジョンということもあって、建物内は閑散としていた。
一行は、探索手続きと書かれたカウンターへ近付く。
「ようこそ、冒険者ギルド滝山支部へ。ご用件をお伺いします」
そう言って受付嬢が顔を出すと、美珂が応じる。
「新世代育成高校の生徒です。滝山ダンジョンの探索へ来たので、手続きをお願いします」
「かしこまりました。確認のため、生徒証と冒険者証を確認いたします」
受付嬢に言われた通り、三人はカードを手渡す。
受付嬢は、渡された6枚のカードを素早く機械へ通すと、再び三人へ返却した。
「はい、お返しします……それと、そちらの方はいかがされますか?」
シェリルたち三人の後ろで様子を見守っていたルイズへ、受付嬢の視線が向けられる。
「ああ、私に構うことはない。ただの付き添いだ」
腕を組んで瞑目するルイズに、受付嬢は「恐れ入ります」とだけ告げて、シェリルたち三人の最終手続きに移る。
「――Dランク一名、Fランク二名のパーティとのことなので、Fランクダンジョン潜入資格を満たしていますね。探索階層と時間は決められていますか?」
「はい。階層は3層までで、4時間を予定しています」
現在の時刻は2時過ぎ。
ダンジョンを出て寮へと戻る頃には7時を過ぎるだろう。夕食と移動の時間も考えると、これが限界だった。
「……では0時を回っても戻って来られない場合、救出の者を派遣いたしますので、お気を付けていってらっしゃいませ」
そう言って受付嬢は三人を見送った。
手続きの完了を察したルイズが、三人へ歩み寄る。
「終わったようだな。車の中でも言ったように、私が君たちの探索へ着いて行くことは出来ん。くれぐれも気を付けるんだぞ」
真剣な表情で告げるルイズに、三人も顔を引き締めて「はい!」と返事をした。
◆◆◆
滝山ダンジョンの入り口は、冒険者ギルド右奥にあるドアを出て、道なりに進んだ先にある。
林の中に開かれた一本道を歩いて行くと、やがて開けた広場に出た。
広場には数人の自衛官、および警察官が行き来する様子が見られる。
そこに、たまたま一行の前を通りかかった警察官らしき男性が声をかけた。
「嬢ちゃんたち、もしかしてこれから探索かい?」
驚きと興味を含んだ表情で、そう訊ねる。
一般人の少女三人がFランクダンジョンへ訪れたことに、珍しさを感じたのだろう。
「はい。今日は3層まで行こうかと」
代表して美珂が答えると、男性警察官は驚いたように目を丸くする。
「3層っ!? 凄いな……ああいや、今までここに入った一般人の話なんて聞かなかったから、驚いてね。嬢ちゃんらが一番乗りなんじゃないか? いやあ、さすがは新世代育成高校の生徒さんだ」
三人が身に着けている、探索用の実習装備を見て言う。
実習装備といっても、所詮は耐久性の高い体操着。防御力は気休め程度である。
逆に武器はとても充実して見え、なんともチグハグだ。
ではなぜそんな装備をしているのか。
それは、来週のダンジョン実習を想定しているからである。
ダンジョン実習で自由に持ち込めるのは武器だけ。あとは全て制定のものを使う必要があるのだ。
なので今回は条件を揃えるために、三人とも持ち込みは武器のみにしている。
「おっとすまない、つい気になって引き止めてしまった……ダンジョン入り口はあそこの黄色い屋根の小屋にある。分かっていると思うが、その装備でまともに攻撃を受けるのは危険だ。そんじゃ、気を付けてな」
そう注意を残して気の良い男性警察官は去って行った。
三人は軽くお礼を言うと、入り口の小屋へと向かう。
ドアを開けて中へ入ると、ここにも係の女性がいた。
あらかじめ話が通っていたのか、「どうぞ」と入り口方向を手で示す。
そこにあったのは、地面から黄色い光を放つ、直径2メートルほどのポータルだった。
女性は注意点を説明する。
滝山ダンジョンは階層型ポータル式ダンジョン。
階層型は一層ごとに違う空間で構成され、階層のどこかに進行口と戻り口、そして帰還口が存在する。この階層間を移動する方法が、ポータル式だ。
ポータル式とは、名前の通りポータルと呼ばれる転移陣で、階層間を移動するシステム。
しかし厄介なことに、移動先が毎回ランダムになるという特徴があった。
最初にポータルへ入ってから20秒の間、後続は同じ場所に出られる。だが20秒を過ぎると、転移先が変わるのだ。
「なのでパーティメンバーが一緒に探索するには、20秒以内にポータルに乗る必要があります。説明は以上です」
そう言ってポータルを指さす。
三人は顔を見合わせ、ゆっくりとポータルに近付いた。
「せーので行くよ?」
美珂の確認に二人は頷く。
それを見て息を吸い込んだ美珂は言った。
「せーのっ!」
掛け声と同時に、三人は一斉にポータルへ飛び込むと、一際強く光が立ちのぼり、その場から消え去った。
◆◆◆
床も壁も天井も、すべてが石造り。
所々に埋まった緑光結晶の光が、薄暗いダンジョンにわずかな影を落としている。
そこに、淡い光とともに現れた、三人の少女の影が加わった。
「みんな、警戒して」
後ろを振り返った美珂が鋭く言うと、二人も武器をいつでも抜けるように構える。
前も背中側も廊下だったが、今のところ敵の姿は見えない。
それに一先ず息を吐くと、構えを解く。
「近くに魔物はいないと思う。とりあえずは大丈夫そう」
第六感を駆使してアンテナを飛ばしていたシェリルは、二人へそう報告する。
「シェリルセンサーに引っかかってないなら問題ないか……それじゃあ陣形の再確認だよ。前衛アタッカーの私が先頭、前衛サポーターの有希は私の少し後ろで援護をよろしくね?」
「まっかせて!」
先生に当てられた生徒のように元気に手を上げて、有希は答える。
「それとシェリルは遊撃だね。攻撃するときに声をかけて」
「ん、わかった」
「ただ、まずはそれぞれの実力をちゃんと見てからだね。連携の確認はその後。とりあえず、魔物が出てきたら順番に1対1で戦ってみよう。シェリルは一番最後で、私たちがもし危なくなったら倒してね?」
「任せて。みんなは私が守る」
心強すぎるシェリルの返答に、有希は「おおお……」と目を輝かせた。
「それで……私か有希どっちが先に戦うかだけど、有希はどっちが――」
いいの、と美珂が訊ねる前に有希は手を上げて言う。
「はいっ! 私先に戦って良い?」
わくわくと期待するような視線を向ける有希に、美珂は楽しそうに微笑み、頷く。
「じゃあ、有希に一番目、頼める?」
「任せてっ!」
満面の笑みで返事をした有希は、元気いっぱいに歩き出す。
音符が舞いそうな足取りで進むのを、シェリルが手を引いて止める。
「有希、そっちじゃない」
シェリルの突っ込みに顔を赤らめた有希は、気を取り直して、美珂の隣にちょこんとついて行くのだった。
大冒険の始まり始まりだ。
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