第9話 出口を目指して
「疲れたぁ……」
疲労に軋む体を動かして拠点へ帰還したシェリルは、回収したドロップアイテムを確認することにした。
両腕に抱えられたドロップアイテムの山を地面に下ろすと、数を確認する。
「エピックとレアとコモンが一つずつ……なんという幸運……!」
マイムニュートの総討伐数はまだ100匹も超えていない。
それに対してエピックドロップの入手確率は0.05パーセント。レアドロップだって3パーセント程度である。確率の上振れもいいところだ。
結局のところ、確率は確率でしかないということか。
こういうこともあるのだと、自らの幸運を嚙み締めることにした。
マイムニュートのエピックドロップは情報が正しければ装備品である。
これで装備品が手に入れば、脱出に向けた探索を本格的に始めることができるのだ。
シェリルは緊張の面持ちで、紫色の布で包まれたアイテムをそっと開放する。
そして、
「良かった……!」
と、布の上に出てきた装備を見て、安堵の息を吐く。
現れたのは、黒いフード付きのレザーアーマーだった。
上は固定パレットと内ポケットがついた黒のジャケット。下は膝上丈のベルト付きプリーツスカート。そのうえ簡素だがインナーまでついている。いったいどこで調べたのか、サイズもぴったりと一致していた。
「ちょっと怖いけど……でも、念願の装備! これでやっとぼろ布を着なくて済む……!」
さっそく着替えを済ませたシェリルは、感触を確かめる。
フィッシュサーベルを抜いて、軽い戦闘シミュレーションを行う。
「すごい……怖いくらいによく馴染む」
右に、左に。
縦横無尽に動いても何一つ違和感のない装備に、シェリルは感動した。
同時に、この上ない心強さを感じる。
「装備説明の紙は……あった、これだ」
フィッシュサーベルの時と同じように、装備の詳細をインストールされた紙が同梱されていた。
その紙に触れて、装備の情報を手に入れる。
「
階級が二つも高いとやはり何かが違うのだろう。
今回手に入れた装備には、三つの能力が付与されていた。
一つ目は、斬撃、打撃、刺突への耐性。
その軽減率は、シェリルがフィッシュサーベルを使って本気で斬り掛からなければ傷付けられないほどである。
二つ目は、魔力治癒。
魔力を消費し、装備者の怪我を癒す効果だ。
ただし万能ではなく、一定以上の怪我には反応しないらしい。また、小さな怪我であっても消費魔力が多くなる傾向にある。
そして三つ目は、リペア。
魔力とマイムニュートの素材を使用して、傷付いた場所を修復できるという効果だ。
フィッシュサーベルといい、自分で手入れの出来る装備は非常にありがたい存在だった。
さすがにD級のエピックドロップだけあって、ブレードフィッシュのそれより強力な効果だ。
シェリルは満足げな笑みを浮かべながら、もう一つのレアドロップを確認する。
「これは、入れ物?」
水色の布が開かれた場所にあったのは、黒い革製のベルトポーチだった。
大きなものを収納することはできないが、魔石や魔術刻印が刻まれた布はこれに入れて持ち運べる。
悩みの種が一度に解決した形だ。
そのベルトポーチを、シェリルは自身の右腿に直接巻いて固定する。腰に巻かなかったのはサーベルを
「これで良し」
そう言って、ふと拠点を見やる。
残りわずかとなったブレードフィッシュの切り身と、実験で使用した大量の布切れがそこにあった。
それらはすべてシェリルがこの場所で過ごしてきた形跡だが、一週間誰にも触れられることが無ければ、ダンジョンに吸収される。
その痕跡は跡形もなく消滅するのだ。
ホブゴブリンに襲われ、このダンジョンに囚われてから二十一日。
ずいぶんと長い時間を、この場所で過ごしてきた。
だがそれも、もう終わる。
「行こう」
安全な拠点を捨て、シェリルは命がけの探索を始める。
どこかにある、出口を目指して。
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