第3話 ステータスとジョブ
決意を新たにシェリルが向かった先は、やはりと言うべきか川だった。
倒せそうな魔物、ということで真っ先に思い浮かんだのがブレードフィッシュだったからだ。
無論、ウォーベア級の魔物と鉢合わせるリスクはある。
けれど常に気を張っていれば気付ける。気付いてしまえば横穴に逃げ込み魔物が去るのを待てばいい。魔物が去れば再び狩りを開始する。
これを繰り返していけば、いつかは装備が手に入る計算だ。
「倒せそうな魔物がブレードフィッシュなのも都合がいい。たぶんだけど、エピック級ドロップは剣。口先が少しだけ反っているから、もしかするとサーベルかもしれない……よしっ、魔物はいない」
周囲を念入りに見回し魔物の不在を確認したシェリルは、先ほどの狩りと同じ要領で魔法を発動させる。
「――ウインドアロー! ……あっ、また外した……」
掌から放たれた緑の矢は、ブレードフィッシュの背の上を通過すると、霧散した。
実のところ最初に二連続で命中させられたのはただのまぐれで、本来の命中率は50%程度だった。
「もっと精度を上げないといけないのはわかってるけど……でも、これ以上どうやって上げれば……」
ウインドアローの魔法は、一番初めに覚えた攻撃魔法だ。
最も簡単な初級魔法の割に貫通力が高く重宝していたが、ここに来て限界を感じ始めていた。あと少し早ければ命中率は大幅に上がるのだが、その方法をシェリルは知らないのだ。
「それに毎回、水の中まで布を回収しに行くのも怖い……できれば一度に済ませたいから、今は放置しよう」
そんな風に呟きながら狩りを継続し、ちょうど13匹目のブレードフィッシュを倒したときだった。
突然、シェリルの体を包み込むように、光が発せられた。
「えっ」と驚いたような声を上げて咄嗟に飛び退くが、当然のように光も
あとには何も残らず、そこにはただ呆然と佇むシェリルがいるだけだ。
「……何が、起こったの……?」
しばらく経って、困惑の声を上げる。
体に異常はなさそうだが、あれだけのことがあって何もありませんでした、というのは考えにくい。
「何も無いなんてことはあり得ない。きっと何かあるはず……でもその何かが分からない……」
知りたい。
それは本当に、ただ何気なく願っただけだった。
そしてその願いは、シェリルにとって思わぬ形で叶えられる。
驚愕に目を見開くシェリルの目前に、ホログラムのような画面が出現していたのだ。
「……これは、何……?」
現れた画面には規則正しく文字が並んでおり、シェリルにも読むことができた。
そこにはこう書かれている。
・ステータス
【名 前】 シェリル
【年 齢】 14
【ジョブ】 未設定《選択可能》
【レベル】 6(1UP)
【魔力量】 92/147
【スキル】
・魔法スキル
『初級風魔法』『初級水魔法』『初級火魔法』『初級土魔法』『初級闇魔法』『初級光魔法』『刻印魔法』
・武術スキル
『刀剣術(1)』『短剣術(1)』『格闘術(1)』『棒術(1)』
・補助スキル
『危険察知』
【ギフト】 刻印魔法
【称 号】 孤児の少女 孤独を乗り越えし者
「ステータス……自分の能力が、書かれてる? それにレベルが上がったって……もしかして、さっきの光はこれが原因? でも、これまでの人生でこんなことは起こらなかったし……」
最後まで読み切ると、その身に起きた光への疑問が解消されるとともに、いくつか気になる点が浮かぶ。
「レベルにスキル、ジョブも凄く気になるけど……もっと気になるのがこれ」
そう言って視線を向けたのは、ギフトと書かれた場所にある刻印魔法の文字。
それは、スキル欄にもしっかりと表示されていた。
「刻印魔法なんて聞いたこと無い。こんなの使えるなんて今まで知らなかった。でも魔法の名前からして何か書くものが必要そうだけど……」
状況を変えられそうな能力であれば非常に嬉しかったが、魔法名を見る限り、今すぐには使えなさそうだ。
どんな能力を持っているのか気にはなるが、いつまでも考えに
「とにかく狩りはいったん中止にするしかなさそう。ブレードフィッシュも逃げちゃったし、そろそろ魔物がやって来るような気がする」
こういった勘は大抵当たる。これまでに何度も、そういった直感に救われてきた。
もしかするとこの直感こそが、危険察知のスキルなのかもしれない。
シェリルは急いでドロップアイテムを回収すると、拠点へと戻って行った。
◆◆◆
戻ってきて早々に、シェリルは後悔していた。
目の前に積み上げられた白い布の山を見ながら、ため息交じりに呟く。
「なんで全部持って帰って来たんだろう……」
いらないものは布以外放置と言っておきながら勿体無い精神が働いてしまい、ドロップアイテムを全部持ち帰ってしまったのである。
その数、驚異の10個。
無論、一度で運ぶために包み直し、大きな布三つに分けられているが、それでもなかなかに主張は激しかった。
「……罠にでも使うしかないか。毒なんて持って無いからただそこに置くしかできないけど……うん、そんなことよりさっきの続きをしよう」
「ステータス」と念じると、例の画面が目の前に現れる。
シェリルはその中のある項目に目を付けた。
【ジョブ】 未設定《選択可能》
気になっていたが後回しにしていたものだ。
そもそもジョブというのがどういうものなのか、シェリルにはよく分かっていなかった。
「むう……ジョブについて知りたいんだけど、どうすれば……ふにぇっ!?」
良いの、と自問しようとしたシェリルの体を、雷が走ったような電流が駆け巡った。その衝撃はシェリルにきょとんとした表情をさせるが、そんな彼女の脳内では今まさに凄まじい量の情報処理が行われていた。
しばらくして、ハッと我に返る。
謎の電流により、ジョブについての情報が手に入ったのだ。
それによると、ジョブとは職業であり、就いた者をその職業に適した身体へと強化する効果を持っている。
そんなジョブにはいくつかのルールがあった。
――――
・ジョブはその者がこれまで経験してきたこと、もしくは潜在的に有している才能に反映されて出現する。
・一度ジョブに就くと24時間変更不可。
・ジョブに就くことで、そのジョブに組み込まれている能力を得ることができる。
この能力の事をジョブスキルと言い、ジョブスキルは熟練度を上げることで、通常のスキルとして獲得することができる。
・ジョブを変更すると、スキル化していないジョブスキルは失われる。
・ジョブスキルを全てスキル化させることで、マスターボーナスとして少量の恩恵を得られる。
・ジョブは一次ジョブから始まり、それをマスターすることで二次ジョブ、三次ジョブへとクラスアップしてゆく。
中には複数のジョブをマスターしなければ現れないような特殊なジョブも存在する。
・称号によって、ジョブが固定される場合がある。
(例 称号:〇〇の殺人者、ジョブ:殺人犯)
この場合、特定の職業を持つ者でなければ解除できない。
――――
「……これはもしかしなくても凄まじい効果なのでは」
想像をはるかに上回る恩恵の凄さに唖然とする。
ジョブによっては今よりずっと、取れる選択肢が増えるかもしれない。
ではどんなジョブがあるのか。
それは新たに表示されたウインドウに並んでいた。どうやらこれが、現時点でシェリルが就けるジョブらしい。
――――
【ジョブ】 選択中……
孤児……一人で生きたいあなたに。
美少女孤児……びっくりするほど可愛い孤児。
見習い風魔法使い……風魔法の扱いに
見習い魔法使い……魔法使いへの入り口。
見習い魔法少女……君も魔法少女になってよ。
見習い刀剣士……刀剣術の入り口。
見習い魔法刀剣士……魔法と刀剣術を駆使して戦う。
見習い探索士……探索系の技能に長ける。
見習い戦士……戦闘全般に長ける。
刻印魔法士……刻印魔法の扱いに特化。
etc.
――――
「数が多い」
たかが孤児が持っているような量では無いだろう。
普通の一般人より就けるジョブは多いのではないか。
それだけ多いくせに説明はどれも経った一文程度。これでは何も分からない。
「とにかく就いてみるしかないけど……」
一度就いてしまうと24時間変更ができないのがネックだ。ここは慎重に選ばねばならない。
「武器を持っていれば見習い魔法刀剣士一択だった。でも今は持ってないし……」
まず見習い6属性、武術系は無しだ。単純に勿体無い気がする。見習い魔法使いも探索に向かなさそうなので、今は選べない。
次に、見習い魔法少女も無しだ。何故か強烈に、本能が就いてはいけないと訴えてくる。正直怖いので消えて欲しい。
孤児と美少女孤児に関してはもう突っ込まないでおく。考えるだけ無駄だ。当然この二つも無し。
この時点でかなり候補は絞られる。
探索に重きを置く見習い探索士か、戦闘に重きを置く見習い戦士か。
それともすべてが未知数の刻印魔法士か。
ただの直感だが、刻印魔法士が良いような気はしている。
けれど自信が持てない。
「刻印魔法について、知るしかなさそう」
※魔法少女に刀剣士。うっ、頭が……。
某有名ゲームの良いとこ取りみたいな設定になってしまった……。
今日は一話更新です。
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