第2話 可能性
「装備が貧弱すぎるし、今どこにいるのか全く分からない。分かっているのは、出会えば即死の魔物がうろつくCランクダンジョンってことぐらい……これはもう無理なのでは……?」
しばらくたって冷静になったシェリルは、状況のひっ迫具合に頭を抱えていた。
言葉にしようにも、マズい以外の感想が出てこない。
はっきり言って詰みである。
今すぐにでも投げ出したい気分だった。
ウォーベアが立ち去った巨大な横穴を見やってため息を吐く。
「……いや、ダメだ。前向きに考えないと……定期的に食事や水をとりにやってくる魔物がいる。戦わずにそれを確認できたのは良かったのかもしれない……それにやっぱり水辺は危険だった」
そんな呟きを溢しながら、シェリルは切り身の入った布袋を持って立ち上がる。
「戻ろう。あれだけ無防備に寝ていても襲われなかった。たぶんあそこは魔物の近付きにくい場所なんだ」
そう言って、自分がやって来た緩やかな坂のある横穴へと引き返す。
横穴は、高さと幅がともに3メートルほどで、シェリルが歩く分には問題ない広さだった。逆に言えば、ウォーベアが入って来れないくらいには狭い。
それに多少カーブはあるものの、分岐が無く一本道なのも良かった。もし魔物が入ってきても、近付かれる前に魔法を打つ余裕ができるからである。
20分ほどかけて元いた場所まで戻ってくる。
更に下方へと続く道も気にはなるが、一度それは後回しにして、もう一度策を練ることにした。
「拠点はここで確定。他に安全な場所があるなら移動するけど、今の私にC級ダンジョンを探索できるほどの力はない」
そもそも丸腰の状態ではCランクのウォーベアどころかEランクの魔物にすら勝てやしない。Fランクの魔物は武器があればまだなんとかなるが、今のままではやはり厳しいだろう。
「とりあえず、今必要なものを考えよう」
生きるために必要な水、食料、拠点は手に入った。
だが衣服などの装備問題は依然として解決していない。
それに脱出するために探索するのならせめて武器は必要だ。
「装備と武器……手に入れる方法が無いわけじゃない」
確率でドロップする、ドロップアイテム。
それには三つの種類がある。
撃破した魔物の体の一部である素材や食材。
それらが材料になったと思われる道具。
最後に、魔物の名を冠した装備、ネームド装備だ。
それは全ての冒険者の夢であり憧れでもある。
「エピック級ドロップアイテム。賭けるならもうそれしかない」
その確率は約0.05%。
そんなものに賭けるなど正気の沙汰ではないが、これ以外に方法が思い浮かばなかった。
「とにかく私でも倒せる魔物だけを倒してドロップを狙う」
魔力の節約、などとはもう言わない。
ウォーベアクラスの敵に出くわせば、魔力があってもどのみち殺されるのがオチだ。それなら勝てない戦闘を回避する方に全力を注いだ方がずっといい。
もとより決死の、策とはいえないお粗末なものだ。
そこはもう割り切っていくしかなかった。
「不要なものは布だけ回収して中身は放置、使えそうなものは拠点送り、これでいこう」
鞄なんて贅沢なものを持たない今、ドロップアイテムを包む布は貴重な袋代わりになる。素材は勿体無いが、荷物になるので諦めるしかない。
「策なんて無いも同然。ただ、賭けに勝てばいいだけ……大丈夫、きっと帰れる」
シェリルの瞳に、決意の色が宿った。
※明日以降は一話投稿です。毎日投稿できるかは分かりません。完結目指して頑張りますので、どうぞ気長にお付き合いください。
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