第21話 悪役のミチト。

やはり昔取った杵柄とはよく言ったもので、ナハトは重い剣になると動きは格段に良くなった。


「ナハト!重い剣が使いやすいならサルバンに行け!スカロさんとパテラさんに仕込んでもらうんだ!」

「はい!」


剣に対する信頼感と安心感が違うのだろう。

剣を壊さないように小さくなる動きが消えていて、蹴りでも剣撃でもキチンと受け止めていく。


「動きはいい、3年前とは比べ物にならない。…イブと同じ八連斬を今から放つから耐えて見せろ!」


ミチトが放つ八連斬をナハトは剣の腹に身を寄せて前進して全てを受け止める無茶苦茶な方法を取ってそのままミチトを斬り付けた。


想定外の回避法にミチトは「やるな…」と感嘆の声をあげていた。




ミチトとナハトの訓練に皆が目を奪われる。観覧席でタシアは「お父さんすげぇ!ジェード!僕達のお父さんって格好いいよな!」と言って盛り上がる。


「はいはい。興奮して怪我しないでよ?」

横に座るリナがミチトに見惚れているとイブが「リナさん」と言って近づいてくる。


「イブ?」

「うふふ。ちょっとナハト君の為にやりたいんだけど、アクィさんとライブがイブとリナさんのどっちかにあげるって言ってくれたの」


イブの話にリナは「パス」と言う。


「あれ?なんでですか?」

「仮でも私になんかあったらミチト黙ってないもん」


「あ〜…確かにですね」

「だから見てるからイブが行きなよ。タシア達は?」


「うふふ。タシアちゃん。ジェードちゃんもコードちゃんもトゥモちゃんもロゼちゃんもパパの敵になって訓練しましょう!」

イブはその時その時で子供の呼び方や自分達の呼び方を変える。

「ちゃん付け」「パパ・ママ」はご機嫌な時なので子供達は「なにするの?」と興味津々になる。



「ナハト、そろそろ疲れたろ?一度飛ばしてやるから落ちろ…」

ミチトはナハトの剣を逸らしながら懐に入ると膝蹴りでナハトを浮かせて「飛べ!」と言って二段蹴りで訓練場の端に蹴り飛ばした。


蹲るように転がるナハトを見てシヅ達が「うわ…マスター…えぐっ、弟にも容赦ない」と言いながらすごい顔で見ているとナノカとメロが駆け寄ってヒールを行いながらナハトに声をかける。


「くっ…まだ…戦いたい。メロ…ヒールしてくれるか?」

「うん!頑張りなよ!ナノカも応援してね!」

「うん!ナハト頑張れ!」


これにシヅ達も一緒になって「立て!」「頑張れ!」と声援を送る。

それを見て引き気味に「何あれ、俺悪役?」言っているミチトの横にイブが近づくと抱きついて「ミチトさん、左腕で抱きしめて」と言う。


「イブ?左腕?なんかこの場所でコレって嫌な予感するんだよね」

「うふふ。今晩は私の日だよ。守ってこのままベッドまで連れて行ってね」


いやな予感が的中したミチトが「マジか…」と言いながらイブを抱きかかえて肩を落とすとノリノリのイイヒートが「ナハト・レイカー!助けに来た!一緒にマ・イードの闘神を倒すぞ!」と言う。


「え?イイヒートさん?」

状況のわからないナハトが困惑する中、メロが「皆でパパと戦うの。ナハトは皆と連携の訓練だよ」と説明をした。


だがまだナハトはヒール中でイイヒートは待ちぼうけてしまう。

ここにタシア、ジェード、トゥモ、ロゼ、コードが自分用に作ってもらった訓練用の剣を持ちながら「イイヒートさん!なら僕と!」「僕も!」「俺も!」「俺も!」「僕も!」と駆け込んでくる。


「あらあら。ミチトさん、うちの子達皆やる気だよ」

「マジか…、まあ訓練はしてるからまだマシかな?」


そう言ってみたがミチトの見立て以上に子供達はよく動く。

隠れてメロやアクィ達が教えていることもあり、動きも技も多彩でタシアは余裕だがジェードも第一騎士団と互角に戦える。

そして恐ろしいのはアクィとの息子トゥモで生まれながらの真式が本能的に軽身術を使って飛びかかってくる。


そしてその隙を埋めるようにイイヒートが動いてくる。



一瞬フリーになったタシアがイブと同じ体勢で「二刀剣術…」と言った。


「タシアが撃つ?撃たせるか!」

ミチトは剣の腹でタシアを殴り飛ばすがタシアは止まらない。

すぐに起き上がると「くそっ、お父さんはイブお母さんまで抱っこしてるのに強い…。コード!二刀剣術だ!」と同じリナを母に持つコードに声をかける。


「はぁ!?コードまで撃てるのかよ!?」

「二刀剣術は子供達の楽しい遊びですよー」


「イブ…もしかしてロゼ達も撃つの?」

「勿論!」


イブは子供達の遊びに幼い頃から木の枝を持たせて二刀剣術の基本動作を踊りのように何度も楽しそうに教えて反復練習をさせる。動作が身に付いたところで「ママを見ていてください」と言って八連斬を披露すると「一瞬で何回剣を振れるか競いますよー」と言って子供達に練習をさせていた。



「くそっ!身体強化!一刀剣術!隠し球だけど!」ミチトはそう言ってタシアの十連斬を弾き返した流れでジェードの八連斬、ロゼとコードの六連斬を全て弾き返す。


イブは真剣なミチトや子供達が見られて事で嬉しそうに「わぁ!ミチトさん片手で三十連斬?凄い!」と喜びの声をあげる。

だがミチトは「まだ!トゥモが拍子をずらした!?何をする気だ!?」と言ってアクィとの息子、生まれながらの真式で連斬に参加しなかったトゥモを見る。


トゥモは「パパ…耐えてみせてよ…」と言った後で「サンダーデストラクション!」と唱えた。


ミチトは「術か!?俺に術攻撃なんて十年早い!」と言ってトゥモのサンダーデストラクションを乗っ取ると全弾子供とイイヒートの足元に目掛けて落とす。

子供達が慌ててる所にミチトは蹴りを入れて蹴飛ばすと「子供達は終わり。次!」と言った。


転がって不服そうに焦げた落雷地点と自身の手を見るトゥモにイブが「あはは、残念でしたねートゥモちゃん。パパに術攻撃は悪手でしたよー」と声をかける。

トゥモはいじけたミチトを髣髴させる表情で「パパ強すぎ」とぼやいた。

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