第9話 11年の月日。
メロが居なくなるとミチトは同席しているシックとアプラクサスをジト目で見ながら「なんでこんなに良くしてくれるんですか?」と聞く。
今度はどんな無理難題だ?干ばつの酷い土地にひと月くらい雨でも降らせたいのか?キュウヨ大河を東まで繋げろとかか?と思ってしまう。
「勿論友達の娘さんだからと言うこともあるが、もう11年だよミチト君」
「あの日、バロッテスの施術で人形同然だったメロさんが目も眩むほどの淑女になって15歳になった。こんなに喜ばしい事はありません」
シックとアプラクサスはスレイブとしてのメロを見ている。
感情のない人形そのものの4歳の幼女。
それが今や誰もが振り返ってしまう美しく眩しい少女になった。
それが嬉しくて堪らなかった。
その真意を察したミチトは「あっという間でした」と言うと着替えているメロが居るほうを見て「よく出来た子で実の子達が不出来に見えてしまいます」と続けた。
「よく言うよ。高望みしすぎとローサ殿に怒られるよ」
「まったくです。タシア君もわずか9つでサルバンの訓練についていけるではないですか。ラミィさんはあの歳でミチト君の術を放てる」
タシアに関しては本人の才能もあるがパテラの育て方がうま過ぎる。子供と楽しみながら訓練に勤しむので、これが別の者との訓練なら少ない訓練量でもタシアは弱音を吐いた。
ラミィは生まれながらの真式だからで完全に才能に依存している。
だがミチトは余計な事を言わずにキチンと立って「出自を気にしないで可愛がってくれていてありがとうございます」と親の顔で感謝を告げた。
少ししてメロが照れながら戻ってくる。
そっと現れて「パパ…どうかな?」とメロが聞くとミチトは「メロ!よく似合ってるよ!」と言って目の前まで行くと本当に嬉しそうにメロを褒める。
褒められたメロは「恥ずかしいなぁ」と照れた後で「でもローサおば様達が褒めてくれる何倍も嬉しいよ」と言って笑顔を見せる。
「それでは参りましょう」
「さあ、ミチト君、エスコートだよ」
アプラクサスとシックに言われたミチトは照れながらメロを馬車までエスコートをする。
御者はまだ少女のメロを見て美しさに目を見張る。
カラーガ邸に着くとミチトが1番に降りてメロに手を出す。
メロは気恥ずかしそうにその手を取って馬車から降りるとアルマとマアルが「メロお姉ちゃん!」「ようこそ!」と迎えに来る。
「お招きありがとう。アプラクサス様とシック様にもご挨拶よ」
2人がアプラクサス達に挨拶をしている間に中に入ると暫定的に屋敷の主人をしているウシローノとイシホが「ご無沙汰していますミチトさん、メロさん」「マスター、お久しぶりです」と出てくる。
「やあ、こんばんは。お邪魔します」
「ウシローノお兄ちゃん、イシホお姉ちゃん、お招きありがとうございます」
ミチトとメロはそのままサンクタとナイワにも挨拶をする。
その間にモバテとエーライが来て、遅れてイイヒートがナハトを連れてくる。
ナハトは挨拶もそっちのけでメロの美しさに言葉を忘れてミチトから怒られながらウシローノとイシホの前に出される。メロはその場から離れてモバテ達と談笑を始める。
「ナハト、自己紹介とご挨拶だ」
「はい!はじめまして!ナハト・レイカー、16歳です。今後王都第三騎士団でお世話になります」
ウシローノとイシホはサンクタ達から何も聞かされておらず、ただメロがミチトとカラーガに遊びに来て王都まで連れてきてくれたとしか言われていなかった。
だがミチトが紹介している事と第三騎士団に入団する事はミチト繋がりになるがレイカーの名を持つ貴族は居ないし術人間の気配もしない。
ウシローノは苗字から頑張って推察をして「レイカー?レイカー商会の?」とナハトに聞く。ナハトが返事をする前にミチトが「ウシローノさん?レイカー商会って有名なんですか?」と聞き返す。
「まあそれなりにです。マ・イードの北西部では中々にいい仕事をしていますよ。ミチトさんが昔の職場で護送任務に就いていた荷物の中にはレイカー商会が買い上げたものもあるはずですよ」
思わぬ繋がりに「マジか…」と言ったミチトが「えー…とまあ大っぴらには言いたくないけど、そのレイカーはナハトの父親の兄の店で、そこの息子さんが俺とナハトにこのシャゼットをくれた人」と言いながらシャゼットを収納術から取り出すとナハトも腰にさしたシャゼットを慌ててウシローノに見せる。
2人がシャゼットを見せたことでウシローノとイシホは「え!?」「え?そのシャゼットはお兄さんからと…」と驚きを口にする。
「まあ従兄弟の兄貴という奴です。で、ナハトも従兄弟の兄貴から貰ったので…」
ここまで話せばウシローノとイシホは理解をする。
「それではナハト君は…」
「マスターの親戚?」
「ええ、親の違う俺の弟になります」
ここでミチトがこれまでに何があったかを説明して、メロの計らいでカラーガの世話になった事、そして今度は実力を示して第三騎士団に加入した事を伝えた。
「ただ俺の弟と知られていい事は何一つ無いからこの場に居るのもサンクタさんの護衛の人って扱いだったりしています。第三騎士団ではシヤとイイヒートさんにしか言ってません。ちょうどと言うか2人も知ってくれたので申し訳ないんですが変な事にならないかだけ頼みます」
「はい!お任せください!ミチトさんから仕事を貰えるのは嬉しくてたまりません!ナハト君!剣は強いんだよね!第三騎士団にお邪魔した時は相手を頼むね!」
鼻息荒くウシローノが言うとイシホは「ほら、困っちゃうからダメでしょ」と注意をする。
ナハトは「いえ」と言うと恭しく「よろしくお願いします」と挨拶をした。
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