第2話 最終試験。
メロはアルマとマアルと手を繋いで屋敷に近づくとサンクタとナイワが出迎えに来る。
「サンクタ様、ナイワ様、本日はお時間をいただきましてありがとうございます。この一年のご厚誼、心より感謝を申し上げます」
メロの礼儀作法は4歳まで平民の子だったと言っても信じられない程に見事で、イヤイヤ教わったミチトは少し気恥ずかしくなる。
「いや、メロ嬢はよく来てくれた。闘神、ご無沙汰しています」
「お陰でアルマとマアルは6歳になりました」
サンクタとナイワは本来次期当主だったナイライが討ち死にした事で再度次期当主を授かるためにミチトの力を借りた。
娘のマスターや結婚の見届け人、仲立人になって貰ったうえにアルマとマアルの事もあり貴族と平民の立場を無視してキチンと頭を下げて挨拶をする。
「いえ、それで俺は何があってここに来たのかわかっていないんですけど…」
困惑するミチトにメロが「ふふ。パパに言うと来てくれないと思ったの」と言うと横に居るアルマとマアルが「闘神様は知らないの?今日は試験です!」「テストですよ!」と言う。
「テスト?」
「ええ、見届け人をメロ嬢に頼まれました。私と闘神様で見届けます」
益々なんの事だかわからないミチトは「はあ…」としか言えない。
メロは少し真面目な表情で「サンクタ様、状況は?」と聞く。
「先程シャーリーが75を超えたと言ってきた」
「では後24ですね」
「ああ、いい頃合だからもう行くかな?」
「はい。でもその前に…」
メロは収納術から「はい。今日のクッキーだよ」と言ってアルマとマアルにクッキーを渡す。
2人は「やった!」「ありがとうメロお姉ちゃん」と喜んでナイワの所に行って「お母様、食べていい?」「いいですよね?」と言っている。
「うふふ。ちゃんとメロさんにいただきますをしなさいね」
アルマとマアルは嬉しそうにメロにいただきますを言って食べ始める。
メロは「召し上がれ」と言った後で「サンクタ様もナイワ様と召し上がってください」とクッキーを渡す。
「パパ、パパもどうぞ」
「うん。ありがとうメロ」
クッキーをひと口食べるとアクィの味よりも甘さが抑え目で代わりにサクサクとしていてミチト好みと言うかメロ好みの味付けだった。
クッキーを食べたアルマとマアルは「メロお姉ちゃんはお昼ご飯は食べて行ってくれますか?」「食べて行ってください!」と懇願する。
少し困った顔のメロは「んー…パパ次第だからわからないの。もしかしたら王都に行くかも知れなくて」と言い始める。
何となく予感はあるが行きたくないミチトが「ええぇぇぇ…?俺が王都に行くの?」と言うと「んー…、パパ次第かな?」と言ってメロはミチトがやるみたいに人差し指を天に向けてクルクルと回しながら笑った。
「とりあえず行こうよ」
メロの言葉にサンクタが「こっちだ」と連れて行くと歓声と声援、怒号が飛び交う訓練場に通された。
「これは…え!?」
「パパ、ごめんね。今日はナハトの最終試験なんだよ」
訓練場の真ん中では大きくなったミチトの異父兄弟、弟のナハトが必死の顔で兵士を圧倒していた。
「ナハト…、なんでナハトがカラーガに?」
「ナハトは最初はフォーム家に行ったんだけど昔からパパに貰った四つ腕魔神の剣で練習してたから強かったの。
フォーム様からアプラクサス様に連絡が行って、私がどうするか決めていいって言われたから1年のお願いでサンクタ様に鍛えてもらったの。サルバンだとどうしても私もパパも会っちゃうし、会うと周りが気を使うよね?」
ナハトは父と母を説き伏せてフォーム家の扉を叩き、フォーム家の私兵になる為のテストを受けた。ナハト自体はマ・イードの闘神ミチトの弟として恥ずかしくない行いをする為に日々鍛え続けていて剣の腕前はフォーム家の兵士以上だった。
アプラクサスは以前会った日から内密にレイカー一家を見張っていた。
そしてフォーム家からナハトが来た事、有能な若者だった事で指示を求められてメロにどうするかを委ねた。
メロはミチトには内緒でローサの許しを得て、サンクタ達にサルバンに嫁いだサンクタの娘ノルアの親戚としてお願いをした。
「優遇はいらないんです。ただ一年だけ本気で鍛えてあげて欲しいんです。一年して試験をクリアできたらその時は別のお願いがあります」
そう言ったメロの願いを聞いてサンクタはナハトを受け入れた。
アプラクサス経由でフォームには「ナハトをカラーガに送る事になった」と伝えて貰った。
ナハトは両親に「剣の腕が認められて西南のカラーガで一年特訓をしてもらえることになったんだ。給金は半分に分けてもらって家に届くようにしてもらったからお父さんがフォーム様のお屋敷まで行って受け取ってね」と言ってカラーガに旅立った。
ナハトはカラーガのしごきに耐えた。
サルバンからすればまだまだ余裕で人権の溢れる訓練内容だったがそれでもフォームの訓練からすれば3倍くらいキツい。
それでも1年間耐え抜いた。
古参のシャーリー達は当初サンクタから「アンチ様紹介の少年だが、本人は紹介のことは知らない。何も悟らせるな。そして妙な優遇は不要。徹底的にしごけ。一年で使い物になるようにしろ」と命令を受けて1年間ナハトをしごき抜いていた。
そして今日が最終試験だった。
ナハトは去年入団した新人達と中堅までの団員達から選ばれた99人と勝ち抜き戦を行い、勝てれば未来が、勝てなければフォームに返される事になっていた。
ナハト自身は卒団の最終試験として勝っても負けてもフォームに返されると聞かされていた。
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