第22話 やきいも研究

 犬のやきいも屋さんに壺やきいも。

 昨今、自然派スイーツの王道、やきいもが脚光を浴びている。豊富に含まれるビタミンCの抗酸化作用でお肌はスベスベ、おまけに食物繊維も多く便秘解消にひと役買うという。

 老若男女、やきいもが苦手だという人はあまりいないであろう。

 健康志向の世情としては、これに有機肥料のみ・無農薬のオーガニック栽培の付加価値を付けるとそこそこの高値で売れるだろう…。


 淡い皮算用を胸にものは早速、県起業センターに話を伺いに出向いてみた。

「すいません、新規でやきいもを売ってみたいのですが」

「起業相談ですね。それではこちらにどうぞ」

 軽い気持ちで訪問したものの、招かれた部屋はビジネス用ど真ん中の応接室だ。いささか気が引けてくる。

「私は相談員をさせていただいている山田です。そしてこちらは岡村です」

 リタイヤ後の人生として、これまでの見識を社会に提供し貢献するといったところだろうか、紳士二名に対応いただいた。

「で、具体的にはどのような方向性でお考えでしょうか?」

「いやぁ、有機栽培の無農薬菜園で収穫したサツマイモを大きな壺で焼いて、路上で販売したいと思っておりまして。場所は近所の神社仏閣の参道だったら売れ行きもいいかなと」

 パソコンから切り取ったにわか知識をもとに、取り合えず伝えることができた。

「そうですねぇ、それはちょっと厳しいですね。まず公道は警察の道路占有許可が必要です。それはちょっとやそっとのことで許可が下りません。無造作に許可すると、それなりにお金をかけて店舗を構えている商売人さんたちは上がったりですからね」

「やきいも屋さんが低速で車を走らせているのをご存じですよね。あれは車を停止させてはダメなんです。公道でもノロノロ走らせれば許可は要らない」

 なるほど! 世の中奥が深い。

「それに神社仏閣周辺は火災があっては大変。火を使うやきいもの販売はまず神社やお寺さんの反対にあうでしょう」

「……」

「しかし、加工していない農産物そのままのイモを売るのであればセーフでしょうし、やきいもは火で焼いただけだから加工品にならないかも。加工品にならないということは、食品衛生法や消防法の規制は受けないということです」

 何もかもが目からウロコだ。

「クリアすべき問題が多いと思われますが、目の付けどころはいいですよ」

 最後はお褒めの言葉をいただいた。が、逃げるように退散した。


 世の中そんなに甘くない。仕方ない、今回は準備不足だ。ただ、来るべき時のために焼き方を研究しておこう。



          おまけ:美味しくやきいもを作るコツ           

  ――表面はカリっと、中はしっとり焼き上げるには遠赤外線を利用する――

・遠赤外線とは何ぞや? 遠赤外線とは内面からものを温める強い電磁波のこと。これは自然界のあらゆる物質を熱すれば多少の差はあれ、その作用は存在する

・具他的には、

 焼き鳥を炭で焼く=肉の表面は香ばしく、中まで火が通っている

 焼き鳥をガスで焼く=表面は焦げているが、中が生のことがある

 ゆえに炭は遠赤外線効果が高い


 で、用意したものが鉄鍋と石。

 鉄鍋の理由は、アルミ鍋で空焚きするとアルミが溶け出す可能性があるから。ホーロー鍋だとひび割れしてしまう。鉄鍋は1500℃以上でないと溶けない、なので鉄鍋がベストだ。

 次に石。石は遠赤外線効果が高い。イモを遠赤外線で焼くとイモの中のデンプンが糖化して甘みが増すという。石の選定としては高温で熱しても破裂しないもの(石内部の気泡が少なくて加熱しても弾けたり、割れたりしないもの)として、ホームセンターで売られていた黒玉砂利10mmを用立ててみた。

 さあ、あとはいつものように実践あるのみだ。


 鉄鍋に玉砂利を敷き詰めストーブの上で一時間。石を掻き分けて掘り出してみると、こんがり焼けたイモが出てきました。中を割ってみるとホクホクの熱々。結構うまく出来ました!

 もうワンランク上のやきいもを目指すならば温度管理。イモの内部を70℃前後で焼けば甘みが増すとのこと。それ以上でも以下でもダメ。

 内部をその温度で焼くには表面を170℃前後で、1~2時間(イモの大きさによる)焼けばいいようです。何でも試行錯誤ですね。


写真掲載中

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