第17話 フェリオと伝説のお宝たち 3
「ここの管理は妖精界がしているの」
穴に入ると洞窟だった。
暗く水滴がしたたる音がいたるところから聞こえてくる。
魔法で光を作り、カンテラ代わりにした。
細身の大人が二人並んで通れる幅の通路だった。
高さはどこが天井というもので、作った光では見えない。
「あの先に入口があるんですか?」
冒険者フェリオは訊く。
フェリオが知っていたのは、古代帝国の王宮跡の二カ所だった。
「あなたたちの情報とは違うかも」
「ですよね」
どれが本当か分からない状態だった。
「入口の場所は、現場に来るとこの辺りって感じられるの。後は、カギとなる呪文を唱えればいいだけ」
「感覚ですか? それがない者には到底見付けられないってことですよね」
落胆してしまう。
フェリオたちのやり方は、ここでこうすると開く。地図やカギなど先人の情報を元に動くしかなかった。
感覚がつかめなければ、永遠に辿り着けないことになる。
「それ妖精族のやり方だろう? それとも伝説級の宝って全部そんな不可思議な理論で隠されているの?」
だったら、あまりそういった感覚に優れていない人間族にはなかなか見付けられないだろう。
やりきれないと、肩を落とすフェリオの代わりオリビエが素直な疑問をぶつける。
「さあ、封印した方法や宝を隠したものの意向によるわね」
たまたまこの入口は、妖精族のやり方でこうなっていただけ。
「ってことは、人間の常識が通じる宝への辿り着き方があるってことだよね」
カーリーは頷く。
「よかったな、フェリオ」
可能性は残されている。
「封印のやり方で違うのか。だよね、見付かっている宝もあるから。希望は捨てないって、いや、今はそうじゃあないよな」
夢はまだ見ていていいと分かれば、冷静になれる。
すると今の自分の状況に焦る。
この先に待ち受けるものを経験上想像できるからだ。
「オレたちはもう禁断の地に入ったということですよね」
「そう」
「じゃあ、延命の泉もこの先にあのんですか?」
そこには守護する強敵がいると聞いていた。
「フェリオの顔色が悪い原因は、守護獣かな。あれ前に来た時にやっつけたから安心して」
あっさりといわれてしまった。
「そ、そうなんですか?」
守護獣は恐ろしく強い。宝のレベルが高くなるにつれ強さが増すと聞いていた。
壮絶なる戦いを覚悟していただけに調子が狂う。
ハスラムとカーリーがいるのでそう苦戦はしないとふんではいたが。
「カギの場所は?」
今一番の目的をハスラムは訊く。
「もう少しよ」
歩いてきた一本道の突き当りが見えた。
この道は、三叉路で突き当たりに岩壁がある。
そこを右に曲がり少し歩けばある。
「あれ?」
先頭を歩いていたオリビエが躓いた。
「気をつけてよ。その辺りに守護だった石人形の残骸が転がっているから」
転けそうになっていたのをハスラムに腕をとられ、体勢を立て直していた。
「ほらね」
カーリーは足元を光で照らす。
累々と大小さまざまな形をした石が転がっていた。
「すごい」
踏まないように進んでいると、水滴が落ちて岩に当たる音とは違う音がオリビエの耳に入ってきた。
思わずそこへ顔が向く。
「岩とか拾うなよ」
後ろを付かず離れずに歩いていたハスラムは、キョロキョロと不審な動きをしているオリビエに神経をとがらせる。
迷惑な癖が出てはけないと手を取る。
「こんな所のもの無暗やたらと触らない」
紫の一族がからむ宝がある場所だ。ほとんどが物騒な物のはず。
さすがのオレでも分かるとばかりにオリビエは唸る。
「そう怒るな」
別の癖の発動にハスラムの手はつい膨れた頬へと向かう。
これも条件反射になっていた。
「何か気になることがあるの?」
立ち止まっている二人にカーリーも止まり辺りを見る。
「変な音がしていたみたいだから」
あの辺りと指をさす。そこに一番後ろを歩いていたフェリオが自前のカンテラを向ける。
「守護獣の顔の辺りね」
くだけた岩を見てカーリーは解説する。
「見事にバラバラだね」
転がっている岩の一番大きな物は、人の頭ぐらいだった。ほとんどがこぶし大に割れていた。
「だって、私やアリスに攻撃してくるんだもの」
かわいい喋り方に仕草だったが、それに似合わない不敵な笑み付きで応えられた。
この様子に三人は、敵にしたくないとしみじみ思う。
「魔法で核を壊したから、もう動けないと思うんだけど」
原動力というべき核の石を直撃して壊したはず。
「それよりもうすぐよ」
「どの辺り?」
オリビエからすれば、ただ岩壁が続いているだけだった。
カーリーはこの辺りという場所の壁に手の平を当てて滑らせている。
ごつごつとした岩肌がカギの辺りだけ平坦になっていた。
「呪文唱えないと入口が開かないんだよね?」
手をせわしなく動かしているカーリーにオリビエは不安げに声をかけた。
「この辺りに穴が空いているはずなの」
前回あった場所を見付けたものの、カギ穴がなかなか見付からない。
「無いわ?」
周りもくまなく手の平を当てて調べる。
「この辺りにあったんだけど」
もう一度壁に手を這わせたり、指を一本立てて上から下へと押した。
「場所を間違えた? いいえ、守護の残骸あるから絶対にここよ」
あれを倒してやっと行ける場所。
入口前にいるのを倒し、入れた。
だから今、入口前にいるはず。
「どうしてなの? 水を飲んだから? それとも紅竜の瞳を外に出したから?」
内側の状況が変わってしまったので、外も変化したのだろうか。
動揺しているカーリーはうわごとのように呟いていた。
「入口が無くなっているってことか?」
おろおろしているカーリーにハスラムは確認をとる。
「そうみたい。魔術で作った封印地だから、その役目が終わったら消えるってことがあるって聞いたことがあるけど」
とんでもない可能性の一つがカーリーの口から洩れる。
「延命の泉は消えたりしないだろう?」
ここ中にあった紅竜の瞳はカーリーが持ち出したが、それぐらいで泉は消えたりしないだろう。
紅竜の瞳と延命の泉は別物だ。
カーリーの話から推測して、たまたま延命の泉がある場所に聖魔剣の封印をしただけのようだ。
「妖精族が使える別の延命の泉の入口を知らないか?」
「それは、うーん、そうね」
落ち着かなくてはと思うが、できない。
「別の場所は知らないの」
今回の目的は、中に入らなくてはできないことだ。
入口が無くなるなどという現象が起こる可能性があれば、その対処法をおしえてくれるはず。
「フェリオが知っている場合は?」
「オレのは、どれも入ることができないようです」
実際に行ったことはないが、歴々の先輩たちがみな失敗していた。
「他にも絶対にあるはずなんだけど」
入口がたくさんあるのは、昔は自由に延命の水を汲みに来ることができていたからだ。
全ての種族がここを利用していた。
この大地を作った女神の恵みとして使っていた。
だが、自分や家族のために水を汲むのではなく、水で金儲けをする人間が多数現れた。
乱獲され、水源は枯れる寸前になってしまう。
この事態を憂いた人間以外の種族が、ここを立ち入り禁止にすることにした。
神聖な場合を己の欲で汚すなと。
「妖精界がここを管理することになってから、人が使っていたかなりの数の入口を封鎖したの。今使えるのはその時に見逃してしまった入口と、力あるものが新たに作った入口だけ。でもそこには、守護獣がいるの」
人間が作ったもの以外は、各種族の長が知っているらしい。
「妖精界は何故、聖魔剣に関わっているんだ?紅竜の瞳を使い封印したり、場所を延命の泉にしたり」
「知らない。長老たちの秘密の領域みたいなものだから。秘密だらけなの。継承するものにはおしえるみたいだけど。私は、やっと見付けたここのことしな調べてないから」
この入口は、ただ愛する人の寿命を延ばしたいという思いだけで、妖精族の書庫を漁っていた時に見つけた場所だった。
「どうでも、なんでも、ここにあった入口から入ったの私たちは」
延命の泉にのみに用があっただけ。
「まいったわ」
「そうだな」
知恵者二人が唸り出していた。
「やっぱり!」
この様子にオリビエが過剰反応した。
「起きたんだ。そして出て行った」
最悪の事態になったと腹をくくった。
「もう閉じ込められていた場所にいたくないから、入口消して出て行ったんだ、早く止めないと」
止めようがないのだが。
「いい伝え通りに自分を運んでくれる相手を探しに出たか、ありうるか……」
知っている知識を総動員して考える。
「封印は、施したものの意志のみが活かされるから、一度破られたら消えるってこともあるかもね」
場所やその跡は、そのまま残ることが多い。
「調べるしかないか」
いよいよかとカーリーは覚悟した。
「二人共! オレたちこれからどうしたらいい?」
独り言が止まらない二人。
指示をくれとオリビエは、大きな声を出す。
「ねぇ、ここに入る方法もだけど、脱走した聖魔剣のことも詳しく調べるしかないんだろう、だったら明るいこところで考えようよ」
ここは暗い上、空気も悪い。余計に悪い方へ考えも向いてしまう。
「そうね。けど、聖魔剣がここから出て行ったかは分からないわよ。他の現象が現れていたらその可能性が高いけど。でも確かめたわけじゃあないから、決めつけないでおきましょうね。私は妖精界に帰って色々調べてみるわ」
留まっている可能性もある。
カーリーは頷き、さっさと歩き出した。
「オレも詳しい人を訪ねるか」
その後ろをハスラムも付いて行き、相談するように喋っている。
「おい」
置いて行かれた二人も急いで後を追う。
「詳しい人って、あの短剣のことを調べてもらうために訪ねて行く、ハスラムの師匠のこと?」
やっと追いついたオリビエは訊く。
「違う、塔の賢者っていわれている人だよ。紫の一族のことや魔術がらみの封印に詳しいんだ」
「塔の賢者! それって、あの伝説の宝に詳しい方ですよね?」
頷くハスラムにフェリオは震えた。
「何故オマエが知っている?」
はしゃぐなとオリビエはフェリオを見る。
「オレたちの間では有名なんだ。賢者アーサー。あの人に古文書や古地図を解読してもらって世に出たお宝が何個あるか!」
憧れの存在に会えると胸を高鳴らせるのだった。
「ふーん、すごい人なんだ」
賢者というのは、魔法を扱う者でも恐ろしく力があり、魔法に関わる知識も膨大でなくては得られない称号を持つ魔法の達人のこと。
数えるほどしかこの大陸にはいない。
その上、伝説の宝にも詳しいとなれば、どんな人物だろうかとオリビエも興味がわく。
「おだやかないい男性だよ」
場違いなワクワク感を満載させている二人にハスラムは、頭が痛いと大きなため息をついた。
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