第15話 フェリオと伝説のお宝たち 1



「やっぱり強い」


「本当、仕事早かった」


 フェリオがおしえてくれたスロール近くにある冒険者専門の宿屋に着くやオリビエとカーリーは、口を揃えて褒めていた。

 正規の街道ではなく、通の道を選んだことが原因なのだが、襲撃回数は半端なかった。

 一般人は、ほとんどは使わない冒険者専門のような道、特に宝を得たパーティから上前をはねようとするふとどき者が多く待っているところ。

 覚悟はしていたが、襲撃の回数は信じられないほど多かった。それも手練ればかりが。


「ってーか、オマエ本当に何やらかしたんだ? マジ数が半端なかったぞ」


 原因を作っただろうオリビエに冷たい目を向ける。

 いつもよりがんばった。相棒のオマエのためといいたげに。

 ギルドの相棒としての責任感があった。

 律儀フェリオだ。


「今回は、オレは何もしてないよ」


 ムッとなる。

 いつもがいつもだけに疑われるのは、否めないが、今回は自分のドジの後始末も付いていますというものではない。


「いいか、オレはただ……うーん、そうかもなんだけど」


 が、よく考えると幼い頃のアレが関わってしまっているかもと、言葉に詰まる。


「白状しろ」


 やっぱり何かをしたという仕草だった。


「だから、オレもちょっとだけ原因かもって」


 視線をフェリオと合わせられない。


「私が大元の原因だから」


 ふふふとカーリーは笑いながら入ってきた。


「ここからは小声だから」


 借りた部屋で仲間のみとはいえ、どこに聞き耳をたてているものがいるか分からない。

 近くにとフェリオを手招きする。



「え、ええー!」


 話の途中だというのにフェリオは大声を出して、目を大きく開けカーリーを見る。


「本当にあるんだ」


 内容なだけに慌てて声の大きさを変える。

 そう、これから行く先とやる事を聞き、驚きと同時に戸惑ってしまった。

 伝説級の宝に、存在自体いい伝えでしか聞いたことがない場所だった。


「地図やまことしやかな証言はあったけど、古代戦争以降辿り着いた者がいたなんてこと聞いたことないよ」


 宝探しの冒険者としての経歴は長い。

 腕もいいので、上級の宝を探しに行っていた。

 禁断の地が、本当に存在するだけでも素晴らしい。


 その上、今から行ける。

 フェリオの心は喜びに溢れていた。


「あの、紅竜の瞳って宝石も本当にあるんですね」


 もう一つの宝の名が出る。


「ええ。私は、勝手に付いてこられて迷惑しているんだけどね。それで聖魔剣を再び眠らせることが今回の目的なの」


「せ、聖魔剣? んーなもの、本当に実在するんですか?」


 フェリオは叫びそうになるのを堪えた。


「あるの。私がちょっと起こしてしまったみたいだから、また寝てもらいたいの」


「寝るですか?」


「これからすることは、禁断の地に行って聖魔剣を封印し直すってこと。カギになるのが紅竜の瞳って伝説のお宝なんだろう?」


 カーリーが冗談なように説明しているのでオリビエがきっちりと伝える。そして、疑問も。

「ある石って、紅竜の瞳なのだろう?」


「そうね」


「現物があるんですか?」


 フェリオは絶句する。

 封印するために用意はしているはず。

 ならば材料である伝説の宝もカーリーが持参している。

 

 最上級の伝説のお宝がすぐ近くにある。

 もうどうしていいか分からない。


「喜んでいるのよね」


 フェリオの様子にカーリーは、嫌なのかいいのか判断できなかった。


「みたい」


 フェリオは喜ぶと思っていたが、ここまでとは。

 オリビエは呆れていた。


「あるんだ。それで封印か……、すごい!」


 フェリオは、興奮していた。

 最後の大物。

 聖魔剣は、世の中を乱すものと認識していたが、それを見ることができる! と。


「けど、かなり危険ではあるなぁ」


 伝説のお宝に出会えるだけでも幸せという冒険者気質のフェリオでさえも二の足を踏みたくなるラインナップだ。

 すごい宝の側には高度な罠や強い守護獣が守っている。

 それを打破できるか。

 こんな現場での不安もだが、もう一つこれからのことが気になる。


「封印が解けたと世間にバレたらまた聖魔剣をめぐって大陸が乱れるんですか?」


 いい伝えの言い回しが。

 前の持ち主、紫の一族の使い方が悪かったが、古代帝国を聖魔剣の力で統治できたと伝えられている。

 それが封印から解かれたとなれば、欲しがるものたちが暗躍するだろう。


 前の大戦で、レーナー大陸の半分を支配したグルラン帝国など手に入れるためならば何をやるか分からない。

 戦いが生業の傭兵家業だが、今の時代小競り合いはあるが、平和だ。

 できれば、大戦になることは避けたい。


「その可能性もあるかも、だから行くの」


 笑顔の答えだった。


「そ、そうですか」

 

 買い物にでも行くかのような雰囲気。

 大戦だぞ! もう少し緊張感が欲しい。

 だがこの面々だ。確実な勝算があるのだろう。信じて付いて行くしかない。


「もう一度いうけど、紅竜の瞳は取るつもりはなかったの。勝手に付いて来たというのか」


 宝石が自ら動くなど信じてもらえないとが、真実だった。


「水を飲ませて洞窟から出て行こうとしたら手首にくっついていたの」


「水ですか、それに洞窟って、禁断の地でしたよね?」


 もう一つの伝説の場所になった。


「延命の水よ」


「ええ!」


 またまた驚く。


「それも実在するんだ。効能も伝説通りなんですか?」


 そうか禁断の地にあったのかと唸ってしまう。


「検証中」


「そうですか。けどすごい! みんなが聞けば喜ぶだろうな」


 フェリオの頭の中は、大陸のこの先を憂うよりもこちらへいっていた。

 宝が実在するというわくわく感。

 共に宝探しで苦労する仲間に伝え、存在するという事実を分かち合い喜びたい。


「秘密にしてよ」


 フェリオの考えていることが分かるカーリーはダメ押しをする。


「そこは、人には危険な場所だから」


 伝説級の宝を守護する魔物や罠、呪いなど普通の人間ではたちうちならないと。


「人って?」


「ああ、私妖精族だから」


 あなたもでしょうと、いいたげな視線で自分を見るフェリオに正体を明かした。

 カーリーが一人でやりのけたのならオレでもできるのではという結論になられては困るからだ。


「い!」


 また伝説の存在がー! とフェリオはのけ反る。


「あなたはかなり強い人だけど、そう、ハスラムと二人で行ってもあそこは厳しいわよ。上位妖精族である私一人でも五分五分だったの」


「ですか……、はい」


 即座に納得した。

 妖精族は強い。

 上位の妖精となれば、魔力がすごく一人で小国ならば滅ぼすことができると聞いている。


「では、封印は完全に戻るのですか?」


 中途半端に解かれた封印は、元通りにならないことが多いはずだ。


「さあとしか」


 これも曖昧にしか答えられない。


「とりあえず行ってみて、何か起こったらその時ってことで」


 すまなさそうにカーリーはいうが、フェリオは、迷惑ではなかった。

 確実な勝算がないのは不安だが、どうにかなると本心思っていた。

 今までのオリビエとハスラムとの冒険がそう思わせるのだろう。


「大丈夫ですよ」


 少し不安だったフェリオの心は、伝説の宝や場所を直に見る事ができる貴重な体験が待っている期待へ向いていた。


「ねぇ、紅竜の瞳ってどんなことに使えるんだ?」


 伝説の宝にオリビエも興味があった。


「炎の石でね、聖魔剣と関わりがあるみたい」


「炎か。投げるだけで火系の魔法使えるってアイテムだな」


 オリビエは投げる仕草をしていた。


「投げるな!」


 すかさずフェリオは怒鳴る。

 どれほど貴重な物か。


「分かっているって」


 元気のない反応。いつもなら注意されてふてくされるはずだが。

 そういえば、会ってからいつもと様子が違う。

 ハスラムに怒られてしょげているようでもない。

 だんだんと元気がなくなってきている。

 もしかすると原因は、これらのことに関わっているのかもと。


「まだあの短剣がそうだとは限らないから」


 ハスラムは複雑な表情のオリビエの腕をひっぱり自分の元に引き寄せ隣に座らせる。


「いいか、まだ結論が出ていないんだ。変に構えるといいことはない」


 そういう時ほどミスをする。


「けど」


「だから、オレがいっしょに動く」


 安心しろと、頭をポンポンと撫ぜるように叩く。


「私もね」


 オリビエの持っている短剣がそうだとすれば、紅竜の瞳を手に入れた瞬間、全ての元凶は自分だと。

 責任はきっちり取るカーリーもオリビエの隣に移動して両手を自分の手で包んだ。


「あのー、聖魔剣がこの近くにあったりして……?」


 冗談のつもりだったが、しんみり度が増す三人。

 やっぱり何かあるんだとフェリオは構えた。

 この三人がここまで重く、暗い雰囲気でいる。

 覚悟がいるレベルのことがあるはず。


「なあ」


 答えが欲しいとオリビエを見ると、泣きそうになっていた。

 「おいおい」こう出そうになる言葉をフェリオは、喉元で抑える。

 どうやらそれを持っているようだと察した。


「どこに落ちてたんだ?」


 軽く、いつものように訊いた。

 怖くてマジには訊けなかった。


 目に入った珍しいものは、全て気になり手を出してしまう癖の発動のせいかと。

 この癖のせいで傭兵コンビを組んでからどれだけのやっかい事に巻き込まれたことか。

 しかしとなる。

 予想が当たっていれば、レベルが違いすぎる。  

 下手をすれば国を相手に勝負しなくてはならないかもしれない。


「もしかするとだけど、子供の頃に」


 オリビエは素直に認めた。


「オレもあの短剣が聖魔剣の可能性があるなんて、今まで考えもしなかった」


 ハスラムに任せっきりにしていたことにオリビエは、反省していた。

 現実逃避していたのかもしれない。


「だから可能性の一つなんだ。オレも父さんに調べろと宿題のようにいわれていただけで、そうだとは限らないんだ」


 かなり可能性は高いが、まだ断定できていない。

 落ち込むオリビエに代わりハスラムが続ける。


「もしそうだとしても、まだオーリーが持っていることは世間に知られてない。封印から解かれていることも。それにうーん、もしそうだったらフェリオには迷惑をかけないようにするから」


 ハスラムもどうしていいか分からずだった。

 あの短剣が聖魔剣だったら?

 それをオリビエが持っている!

 このことはまだ世間に知られていない、はず。

 こう思いたいが、カーリーの襲撃などを考えると不安になってきていた。


 所有していることは妖精界でも一部のものにしか知られていないといっていたのに。

 どこからかその情報が洩れている。

 紅竜の瞳クラスでそうなのだ。

 その何倍もの価値のある聖魔剣をオリビエが持っていることが知られれば、どうなるか。


 いや、その前にあれが聖魔剣だとまだ認めたくない。

 頭痛がしてくる。

 果たして守り切れるのか?

 思考がまとまらない。

 ただ、決めているのは、オリビエと共にどうにかするとしか。


「あ、それは気にはしないですから」


 苦悩しているようなハスラムには悪いが、危険ではあるが面白そうというのがフェリオの本音だった。

 伝説の宝に遭えるチャンスが一つ増えただけ。そんな感じだった。



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