15.新年会
「海輝、さっきからそればっかり食べてない?」
「だってこれ美味いんだもん」
「そんなのばっかり食べてたら太るわよ」
「いいのいいの正月くらい──って母さん?」
ステラ・ルークスでの新年会に海輝が出席することは前王のラックが決めたことだった。
自分がここに来ることを快く思ってくれるだけで嬉しかったのに、新年会にも招待された。新年会は王家に近い人々しか出席出来ないと聞いていたのでその喜びは大きかった。
今ここにいる地球人は自分だけだ、そう思っていたのに、何故か景子の声がした。
「なんで母さんが?」
声だけでなく、確かに景子はそこにいた。
「海輝、今日って何の日か知ってる?」
景子の後ろから現れたカーナは海輝の手からクッキーを消した。
「何の日って……正月じゃないの?」
海輝があまりに真顔で言うのでカーナはちょっと膨れた。
「それもあるけど……今日は私の誕生日。伸尋もリュートも、ここの人はみんな今日が誕生日」
「あああ! そうだ!」
ステラ・ルークスでは数え年と実年齢が違うのは良くないらしく、誰もが元旦に生まれることになっていた。
「私は海輝の誕生日に招待されたやん? だから私も誕生日に招待したの。わかりますか?」
「はい、わかります、ごめんなさい」
カーナが怒ったので海輝は謝ったが、二人とも顔は笑っていた。
「あ、そうそう、新年会終わったら大王様が話あるから来てって」
「ええっ、なんで?」
「わからん。そこまで聞いてない。大事な話とか言ってたけど」
「大王様って前の王様でしょ?」
「うん。ちゃんと行ってよ」
そう言ってからカーナは景子に城の中を案内しようと歩き出したが、
「あっごめん忘れてた」
振り返って海輝の手にクッキーを出し、再び歩き始めた。
「大王様……何だろ……」
手に持っていたクッキーを食べてしまってから他の料理に手を伸ばしたとき、
「兄貴」
リュートを抱いた伸尋が海輝を呼んだ。
確かに海輝は伸尋の兄になるが、伸尋が王様だと思うと変な感じだった。
「叶依に聞いた? 明日のこと」
「うん……あとで大王様の所に行けってのは聞いたけど。何かあるの?」
「まだ聞いてないんか。二つくらいお願いがあるらしいんやけど」
「お願い? 俺に?」
リュートが海輝の髪を引っ張るのでそれを止めながら海輝は聞いた。
「詳しいことは後で聞いて。こらリュート、引っ張ったらあかん」
それでもリュートは海輝の髪を引っ張り続けるので、伸尋はリュートを海輝に預けた。
「俺これから出かけるから……大王様んとこ行く時そいつ叶依のとこ連れてって」
「はいはい」
それからも海輝は料理を食べ続けたが、あまりにリュートが髪を引っ張るので仕方なくカーナを探して大王のところに行くことにした。カーナの横にはもちろん景子もいたが、海輝がリュートに遊ばれているのを見て思いっきり笑っていた。
「ねぇ叶依ちゃん、大王様が海輝に何の用なの?」
海輝の姿が見えなくなってから景子は聞いた。
「うーん……一つは明日の音楽会でギターやって欲しいって。もう一つが……」
もしかすると海輝は地球に帰らなくなるかもしれない──。
それを景子に言って良いのか、叶依にはわからなかった。
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