11.帰りたい場所

 PASTUREはまずsealを演奏し、数曲やってから冬樹が喋りだした。

 ──僕たち最近行方不明になってたんですが、帰ってきました。

 ──帰ってきたね。どこ行ってたかと言うと、あれは叶依の……家?

 ──えっ? あれは……家って言うか城?

 ──あんなでかいの家じゃないでしょ。

 冬樹が笑いながら言うと、会場から『どこ行ってたの?』という声がした。

 ──でもあそこに住んでんでしょ、叶依?

 ──住んでるよ。住んでます住んでます、でかい家です、はいー。

 叶依はヤケクソだった。

 ──実はあの『夢幻の扉』で有名な、ステラ・ルークスに行ってたんですよ。嘘だと思うでしょ? 嘘じゃないんですよ。叶依は本当にあそこの人で、わけあって僕らがあっちに呼ばれて。それが六月下旬だったかな?

 ──うん。それで一ヶ月くらい向こうにいて、今月アタマに海輝んちでパーティーやって。

 ──って……言ってもまだ信じてないでしょ。叶依、あのクッキーみんなにあげて。

 海輝が言うのと同時に叶依は立ち上がり、会場全員に手で皿を作るように言ったあと何か呪文を唱えた。その瞬間、会場がざわめき、全員の手の中にあのクッキーが出てきたことを知る。

 ──そのクッキーねぇ、海輝が向こうで大絶賛してた。美味しい?

 言いながら叶依は右手で宙に何か描き、自分たちの後ろに巨大スクリーンを出した。

 映ったのは、海輝がビデオに撮ったステラ・ルークスでの叶依と伸尋、それからリュートの映像だった。

「あれ? リュートどうした?」

 テレビに自分の姿が映ったのが信じられないのか、リュートは口をポカンと開けた。リュートは母親だけでなく、一緒に映っているOCEAN TREEも知っていた。まず最初に海輝に会って、しばらくしてから冬樹に会った。

 自分と遊んでくれた祖父母と父親以外はテレビの中にいる、リュートはそう思っていた。けれど、何故か自分もテレビの中にいる。

 一歳にも満たない彼にとって、テレビは得体の知れない謎の物体らしい。

 ステージのPASTUREは話をドラマのことに繋げ、それから『夢幻の扉~field of dream~』を演奏した。

 その間、叶依が出したスクリーンには過去に放送されたドラマの映像だけが流れ続けた。

「伸尋、リュート寝てないか?」

「え? あ……寝てる」

 まだライブは終わっていなかったが、伸尋は立ち上がってリュートを寝かせに行った。戻ってきたときには既に放送は終わり、テレビはニュースになっていた。最後まで見ていた祖父母によれば、叶依はこれから大阪に戻ると言っていたらしい。

 今日のこのライブでどれだけの人がステラ・ルークスの存在を信じたかはわからない。

 けれどそれは実在し、現に自分が王なのだ。

 そのことにも触れていたらしいが、世間が信じようが信じまいが、今はどうでも良かった。

「ただいまー」

 玄関のドアが開いて、叶依の声が聞こえたから。

「おかえり。大分早いやん」

「早すぎたかな……。リュートは?」

「さっき寝たわ。何か食べるか?」

 叶依の荷物を運びながら伸尋は笑っていた。

 この家に自分がいてそこに叶依が“ただいま”と言って帰ってくる、それがとても懐かしかった。それは叶依も同じことで、ここが“我が家”だと思える瞬間だった。

「伸尋ー、リュート寝てないわ。起きてるよ」

 タヱ子の言葉は本当で、祖母に抱かれたリュートは母親を見つけて両手を伸ばす。そして叶依に抱かれて安心したのか、リュートは目を閉じて寝息を立てていた。

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