10.久々の実家
叶依がOCEAN TREEとナンプにいた間、伸尋は大阪の実家に戻っていた。普通の人間として、今まで通りの生活を祖父母と共に送っていた。
気分転換に散歩していたら、偶然にも知原百合子に会った。というより、会うことを願って歩いていた。自分のことをちゃんと知っている人物と話がしたかった。
「叶依ちゃんは一緒じゃないの?」
「叶依はいま東京……あ、今日テレビ出るんで見てください」
「テレビって叶依ちゃん? ちょっと待って、若崎君、どうなってるの?」
伸尋は言おうと思っていたが、自分ではうまく言えないことはわかっていた。
「叶依がまた先生に会いに行くって言ってたんで……そのとき言うと思います」
これだけ言って、伸尋は知原と別れた。
伸尋は本当は史に会いたかった。
けれど彼は上京してしまっているので物理的に不可能で、かと言って時織や夜宵に会おうとも思わなかった。
『でも今日テレビあること言わんとあかんよな……CMしてるから知ってるかな……』
しばらく考えた後、伸尋は魔法で史の携帯にメールを送った。自分が使っていた携帯は地球を離れる時に解約した。
──突然やけど、今日のこと知ってる?
メールは正しく送れたらしく、すぐに返事が来た。
──今日って、PASTUREのライブやろ? 知ってるけど訳わからんぞ!
──またそっち行くけど、とりあえずテレビ見たらわかると思う。
──おまえ今どこにおるん? 叶依は? OCEAN TREEと何かあったんか?
──俺は大阪に戻ってる。叶依は兄貴らとそっちにいる。前に水晶で見てんけど、片瀬がお前んち行った時に手紙がどうのって言ってたやろ? あれは兄貴の母親からやった。詳しいことはまた言うから、今日はテレビ見て。みんなにも言っといて。
──わかった。絶対来いよ!
その返事を伸尋はしなかったが、史と海帆がそれぞれ友人たちに伝えたことは確認出来た。
家に戻ってから、伸尋は叶依に連絡を入れた。ライブの準備も整って、あとはどう切り出すかが問題だと言っていた。
そして夜になり、伸尋は祖父母と夕食を食べてからテレビの前に座った。
いつもなら早々と寝てしまう祖父母も、その日は違った。
「それにしてもあの子をテレビで見るの久しぶりやねぇ」
タヱ子は俊之と伸尋にお茶を運び、隣の部屋で遊んでいた孫を連れてきた。
「あ、出た、リュート、こっちおいで」
伸尋は祖母に抱かれていた息子を呼んだ。
「あー、あー」
リュート(瑠斗)はテレビに映っている母親を指差した。
「いつもと違ってもわかるんやな。普段あんな格好せんやろ?」
ステージでギターを弾いている叶依は、ステラ・ルークスでいた時とも、地球でいた時とも全然違う服装だった。
それでもそこにいるのが自分の母親だとリュートがわかるのは、両親に捨てられた冬樹のように、叶依と伸尋も、子育てに力を入れている証拠だった。
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