6.消えた四人

 冬樹がいなくなって二週間が過ぎようとしていた。

 どれだけ待っても帰ってくる気配はなく、マネージャーからも『冬樹はどこだ』という電話が来るようになった。

 何も知らない珠里亜は答えるすべがなく、疲れ果てて子供たちを海帆の家に預けてしまっていた。

 二人が通う幼稚園までそう遠くはなかったので史が送り迎えしてくれていたが、子供たちはたとえ父親がいなくても自分の家で生活したかった。けれど冬樹を失った珠里亜は二人を育てることが出来なくなっていた。

「最近ご主人どうなされたんですか?」

 報道陣からも電話やファックスが来るようになった。

 本当に珠里亜は何も知らないのでそう返事をした。

 それで終わってくれれば良かったのに、そうはいかなかった。

 ──ご主人と一緒に活動されてた葉緒海輝さんの行方もご存知ないですか?

「そんなん知らんわ!」

 あれから珠里亜は毎日海輝に電話していたが、何回かけても海輝は出なかった。ステラ・ルークスに行っているのかと思ってしばらく待ってみても、海輝は電話に出なかった。

「何よー! いつも一週間くらいしたら帰ってるって言ってたやん!」

 最初に珠里亜が海輝に電話をかけてから、もう三週間は経っていた。

 もちろんマネージャーも海輝を探していた。

 元OCEAN TREEが揃って姿を消して携帯電話も繋がらない、そのことが連日テレビで報道されていた。

 すっかり弱ってしまった珠里亜は、子供たちを海帆と史に預けたまま実家に戻っていた。

 たまに時織と夜宵が珠里亜を尋ねてきたが、冬樹の居場所を知っているものはどこにもいなかった。

「なんでこんな時に叶依おらんのやろなぁ」

「どっかに叶依みたいな人おらんのかな……」

 時織と夜宵も史と同じことを考えていた。

 けれどその叶依はステラ・ルークスに行ってしまっているので連絡を取ることは不可能──

「ちゃうやん、叶依がおった寮の寮母さんてあっちの人じゃなかった?」

「あーそうや! あっ! そんであのおじいちゃんとおばあちゃんもあっちの人や!」

 叶依の育て親である須崎綾子と伸尋の祖父母代わりだった俊之・タヱ子が惑星人だったことを思い出した三人は早速彼らを訪ねてみた。しかし、

「ごめんねぇ、叶依ちゃんとは連絡取れないのよ」

 綾子は王家とは遠く離れた人間で惑星と連絡を取るのは難しい上に魔法も使えないらしく、

「わからんなぁ。海輝君なら前に叶依ちゃんが迎えに来てあっち行ったけど……ほら、あの扉、向こうへの入口。わしらが行ってもあの子らに会えるとも限らんし……もう行ったきり帰っとらんわ、なぁばあさん?」

「そうだねぇ……六月上旬だったかねぇ……行ったきり帰ってないねぇ」

 海輝がステラ・ルークスに行ってそのまま帰っていないことは確認出来たが、冬樹の居場所はわからなかった。

 二人とももうかなりの高齢で魔法を使う力は残っていないらしい。

「そういえばあれ四月やったかな? あの子、なんか手紙持って『これ叶依に渡して』言うて……」

「手紙?」

「うん。海輝君帰ったばっかりで一ヵ月会えへんけどどうしても渡してもらいたいってねぇ。他の人に頼まれたらしくて内容は知らんのやけど……あれどうしたかな?」

「あれは……そうそう、私が向こうに行ってお城の人に渡したんやわ。前来た時に聞いたらちゃんと読んだって言ってたよ」

 けれどそれ以上の話はなく叶依はそのまま海輝を連れてステラ・ルークスに戻って行った。

 それから叶依はもちろん、海輝も向こうから戻っていない。

 海輝のことより冬樹のことが気になる珠里亜は、結局有力情報を得られなかった。


 諦めて三人は老夫婦と別れたが、彼らの家の異変に気づいた者は一人もいなかった。

 ──なんで気づかんのかなぁ。

 ──そりゃ気づかんやろ。

 珠里亜たちが祖父母と話している時、実はそこに叶依と伸尋はいた。

 けれど彼らが二人の姿を見ることは不可能だった。

 ──珠里亜……大丈夫かな?

 叶依と伸尋だけでなく、冬樹、それから海輝もいた。

 ──大丈夫やって。あれでもしっかりしてるほうやし。

 ──でもすごい泣いてなかった?

 言った海輝はもちろん、他の三人も笑っていた。

 ──おばあちゃん、ありがとう。

「あぁ、叶依ちゃん。ほんまに良かったん?」

 叶依や海輝・冬樹とは会っていないと貫き通したタヱ子も、本当は四人の存在を知っていた。

 けれど彼らに「誰かが探しに来てもいないって言って」と頼まれていた。

 だからわざと嘘をついた。

 ──俺らもそろそろ行く?

 四人はタヱ子と俊之に別れを告げて、次の瞬間には居間から姿を消していた。

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