4.晴天の霹靂

「こーらー冬彦ー! はよ起きな幼稚園遅れるでー! 亜瑠子もー!」

 いつの間にか早起きになっていた珠里亜は、家中に掃除機をかけてから子供達を起こしに行った。

 既に起きていた冬樹は朝食の最中で、隣人に『御宅の奥さんうるさいです』と言われはしないかと、いつもビクビクしていた。幸いそういうことになったことはないが、この先もっと子供たちが生意気になってくると絶対隣人が押しかけてきそうな状況だった。

「ぱぱきょうははやくかえってくる?」

「今日はパパお休みだよ」

「やったー! ようちえんからかえったらあるとあそんでね」

「もー亜瑠子、パパ疲れてんねんから休ましてあげなあかんやろ!」

「いいよいいよ。たまにしか遊んであげられないんだし。亜瑠子、帰ってきたら遊んであげるから幼稚園行って頑張っておいで。冬彦もだよ」

 叶依と離れて少しは落ち着いた珠里亜だが、子供たちが成長するに連れて再び荒っぽくなっていった。叶依に当たっていたのから冬樹に代わり、最後は自分の子供になってしまっていた。それがちゃんとしたしつけであることは冬樹も認めていたのだが、そうは思えない人々にとっては、珠里亜が子供たちを苛めているようにしか映っていなかった。

 それでも一家四人にとっては楽しい毎日の連続だった。

 休日には動物園や水族館に出かけたり、家の中でゲームをしたりした。平日でも冬樹はなるべく早く帰ることを心がけ、子供たちと過ごす時間を出来るだけ多く取れるように努力していた。

 冬樹の収入だけではやっていけないので珠里亜もパートに出ていたのだが、二人とも早く帰れない時は子供たちを幼稚園で預かってもらい、早く帰れるほうが子供たちを迎えに行っていた。


 そんな日々がしばらく続いたある六月下旬の朝。

「あれ? 冬樹っちゃん……?」

 珠里亜はいつも通りに目覚めたが、横にいるはずの冬樹はそこにはいなかった。

 蒲団は綺麗に整えられ、わずかな温もりも残っていなかった。

「え……? 何かしたっけ……?」

 わけがわからず家の中をうろうろしていると、テーブルの上に置き手紙があった。

 冬樹本人の筆跡だった。

 ──しばらく旅に出ます。黙っててごめんなさい。心配しないで。 冬樹──

「ええええええ冬樹っちゃぁぁぁぁああああああん!」

 恐らくこの叫び声が、珠里亜の過去最高の声量だったに違いない。

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