3.将来の夢
「ねぇ、ぱぱとままはどうしてけっこんしたの?」
「はあ?」
幼稚園に持って行かせる雑巾を縫っていた珠里亜は危うくミシンを壊してしまいそうになった。
海輝が出ているテレビ番組を観ていた冬樹も思わず振り返る。
「だってぱぱとあのおじちゃんおともだちなのに……」
「冬彦、こっちおいで」
テレビはつけたままにしておいて、冬樹は冬彦を膝の上に座らせた。
珠里亜はミシン糸を絡めてしまったらしく、いつものように叫んでいた。
「冬彦は何が好きなの? 自転車? サッカー?」
しばらく「うーん」と考えてから、冬彦は元気にこう答えた。
「ぼくやきゅうがすき!」
「野球かぁ……大きくなってもしたい?」
「うん! ぼくやきゅうせんしゅになってぱぱとあめりかいく!」
「パパだけ? ママは? 亜瑠子も行かないの?」
「うーん……でもぱぱがあめりかいったらおしごとできない……じゃあ、ぼくだけいくよ」
冬彦は話題を変えられたことに気付かずに野球のことを喋り続けた。もちろん冬樹も珠里亜もそのまま眠ってくれれば良いと思っていたのだが、忘れていた。
「おじちゃんのこととやきゅうってかんけいあるの?」
余計なことを冬彦に思い出させたのは紛れもなく亜瑠子だった。
「あーぱぱーずるいよー!」
「痛っ、こら、やめ、冬彦痛いって」
冬彦が父親をポコポコ殴り、それを真似して亜瑠子も笑いながら冬樹を殴りにかかっていた。
「こーらー! 二人ともそんなことしたらパパ泣くやろ!」
「だってまま、ぱぱがわるいことしたんだよ」
「パパが何したんよ? 冬彦も亜瑠子もなんも痛くないやろ? もー明日早いんやからさっさと寝て!」
流石の子供たちもこの珠里亜の叫びには勝てないようで、冬樹から離れて珠里亜から逃げるように、蒲団の中に潜り込んでいた。
「もー誰に似てあんなんなったんよ……」
それは珠里亜に決まっていると、思いながらも冬樹は笑ってごまかした。
しばらくして珠里亜が子供たちを見に行った時には二人は既に寝息をたてて眠っていた。
「ほんまなんでうちら結婚したんやろ?」
「え? それ、ぼ……く……」
「叶依おらんかったら絶対冬樹っちゃんと出会ってないもん」
「あぁ。確かにね」
「叶依元気かなぁ。全然連絡とかないけど」
「海輝が元気だって言ってたよ」
「そうや、海輝ょんも結婚せーへんの?」
「しないんじゃないの? する、とは言ってたけど。でも、しても……」
海輝が結婚しても、それを叶依が知ればどうなるか。
「でも叶依ももう子供生んでんやろ?」
「うーん……あーなんかやっぱややこしいわあの二人。何だかんだ言って結構長いしね。海輝が向こう行く時に迎えに来るのは叶依か伸尋のどっちからしいんだけど、叶依の方が多いって言ってたし。もしそのステラ・ルークスっていうのがみんなに知られてたら絶対『夢幻の扉』の続編とか出してそうだね」
その会話はすべてカーナとノーブルが水晶で聞いていたとはつゆ知らず、二人はずっとそのことを喋り続けた。
いつか叶依が話した過去の記憶も珠里亜に伝えられ、会話のネタはそこにまで遡っていた。
──そんなネタになるんかな?
──おまえ、兄貴が結婚したらどうする?
──えっ……どうって……良いことちゃうん?
──本気で良いと思ってんのか?
──……。
──ま、良いけどな。あいつらとおった時間の方が長いし。俺も嫌やわ。
──でも海輝は良いんかなぁ…向こうで寂しそう。
──兄妹やろ? おまえと兄貴。ノット・ケツ・バット・シンとか言ってたやん。
水晶の向こうで珠里亜と冬樹の姿が消えたあと、カーナとノーブルも寝室に戻った。
それは四月上旬、カーナにナンプからの招待状が届く数週間前のことだった。
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