<第1章 日常>
1.カエルの子
「あーっ、ぱぱーっおかえりーっ!」
「ぱぁーぱぁー!」
冬樹が仕事から帰ったのを知った瞬間、亜瑠子と冬彦は玄関に向って走り出した。
「ただいま。二人とも良い子にしてた?」
「あるねーいいこにしてたよー」
「ぱぱぼくもー!」
「はい、じゃあこれプレゼント」
「やったー!」
「やったやったーわーい!」
冬樹は鞄の中から大きな箱を二つ取り出した。子供たちへのクリスマスプレゼントだ。
亜瑠子は人形を、冬彦はロボットをゲットし、早速包みを破いてそれぞれ遊んでいた。
「おかえり冬樹っちゃん」
珠里亜は出来上がった料理をテーブルに運んでいた。苦手だった料理も結構上手くなり、冬樹が横から口出しすることもなくなった今、珠里亜は今年こそおせち料理を作ってやると決めていた。
「ただいま。今日もまた……美味しそうじゃない」
「そーやろー? まだ冷蔵庫にケーキもあるし」
「それも作ったの?」
「ううん。面倒くさいから買って来た」
最後の一言に冬樹は崩れたが、すぐに気を取り直して子供たちを呼び、一家揃って夕食を食べた。
リビングには小さなクリスマスツリーが飾られていた。冬樹と珠里亜が結婚した年の十二月初旬に冬樹が珠里亜をびっくりさせようと、仕事帰りに買って帰ったものだった。勿論珠里亜は大喜びし、クリスマスにはずっとツリーの前にいた。
「じんぐるべーるじんぐるべーるしゅーじゅーがーなるぅー」
冬樹にもらったおもちゃで遊びながら、子供たちが歌っていた。もちろん元々ミュージシャンをしていた冬樹は横でギターを弾いていた。OCEAN TREEを解散してからしばらくして、冬樹は音楽活動を辞めた。それでも普通のサラリーマンになるのは嫌だったので芸能界に残り、一家の暮らしを支えてきた。一方の海輝はギターを続ける傍らで月一回のペースでステラ・ルークスとの交流を続け、たまにカーナとノーブル、その子供の様子を冬樹に伝えていた。相変わらず一人暮らしで結婚はまだしていない。
年末年始、恒海一家は冬樹の運転で珠里亜の実家に戻っていた。久々に祖父母に会えたと子供たちが喜ぶ横で、珠里亜は子供たちに「あんまり暴れたらおばーちゃん疲れるやろ!」と怒っていたが、「あんたも昔はよー暴れてたやろ。カエルの子はカエルやねんからしゃーないで」と、祖母は昔のアルバムを持って来て幼少期の珠里亜の写真を孫たちに見せていた。
「そうやこの子ら……今年幼稚園入るんちゃうんか?」
冬樹に酒を注ぎながら珠里亜の父親が口を開いた。
「ええ。家から結構近いんですよ」
「そりゃ良かった。遠かったらそれだけで行くの嫌がるからねぇ」
「幼稚園入るのは良いけど暴れへんか心配やわ」
「それ自分の子供だから言ってるの?」
「え? ああ……ははは」
珠里亜が笑う横で子供たちが見ていたアルバムは、ちょうど珠里亜が幼稚園の運動会で暴れるように遊んでいる写真のページが開かれていた。
「そういえば冬樹君、昔何とか言う……もう一人とグループ組んでやってたやろ? あの子どうしてんの? まだ音楽やめてないって言うのは聞いたけど」
孫と一緒に写真を見ていた珠里亜の母親も三人の会話に入った。
「あぁ、葉緒海輝ですか? 最近忙しいみたいなんですけど……たまにテレビ出てますよ。ねぇ珠里亜?」
「え? 海輝ょん? あぁ……こないだテレビ出てたんちゃん?」
OCEAN TREE解散後、二人はたまにしか会っていなかった。
冬樹は子供の世話で忙しく、海輝もステラ・ルークスといろいろあって、音楽活動を続けてはいるもののこれといった仕事はなかった。
「あの子もそろそろ結婚しても良い歳やのにねぇ」
珠里亜の母親がしみじみ言っていたが、珠里亜も冬樹もただ笑うだけだった。
海輝が結婚していないのには理由がある。でもそれは言えない。
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